村人を守る「粉」チーズ
「こ……これは!!」
キミカッタに付き従う軍勢から人間がいなくなっていた。
キミカッタと、ツヌークを除いて。
「コボルトもいるが、オークやスケルトン、いや……!」
「なぜだ、なぜ小柄とは言え竜人がいる!?」
竜人は竜の血を引く存在であり、並の人間とは力のケタが違う。
しかも、だ。
「あの装備はどう見ても騎士のもんじゃねえ!」
竜人が持つ武器は剣や槍じゃない、どう見てもクワや鎌だ。
「……村人さん、なのですか……?」
ハラセキが尋ねたように、あの装備は明らかに村人たちのそれだ。
「どうして騎士がコボルトやオークで、村人が竜人になるんだ!」
「デーキは言ったんだよ……このチーズは心の中の悪意って奴に反応する、とな……」
「てめえ…………!」
「何がてめえだよ、てめえが悪意を抱かれるような真似をしたから悪いんだろ」
「メシ食ってても悪意なんて買えるだろ!」
うまい飯を食うだけで悪意が買えるだなんて事は、俺だってもう知っている。
ファイチ村でミナレさんと一緒に飯を食ってた時、マセケとか言うチンピラに絡まれた。その時本人そのものはそれなりに純粋な気持ちで泣いていたが、それゆえにむしろ怖かった。俺やミナレさんへの哀れみと、その底にある軽視。それゆえに悪意が膨れ上がり、あんな事を言ったのかもしれねえ。
「ああ、ああ……!」
「ギビキ、ギビキ、ギビキィ……!」
正体を失った村人たちが次々と迫って来る。
目標は間違いなく俺だ。
「皆さんはいったん後退して下さい!俺が全て引き付け振り回しまふ!」
タフネスチーズを口に入れ、体力を高める。全てを引き付け振り回し続ければ、むしろ戦いは楽になる!
「さあ来い!」
「ノージィ…!」
「アックー!さあこっちへ!」
スピードでは俺に負けているアックーを引き連れる。
そしてギビキを殺したも同然の俺を狙う村人たち。その全てをこの戦場から消せばいい!
その間に……!
「ギビキィ!」
「さあ来い!さあ来い!」
「ギビキの仇ぃ!」
……だが、来ない。
「え!?」
竜人と化した村人たちは事もあろうに村人、それもリンモウ村の人たちの方にばかり向かう。
「大丈夫だ、やってやれん事はない!」
村人さんたちはやる気だが、それでも犠牲は生まれてしまうだろう。何より
「これ以上お前のような奴に好き勝手される訳に行くかバーカ!」
と言う言葉が腹立たしい。
「しょせん庶民は庶民だ、おとなしく言う事を聞いとけばいいのに!」
「庶民もなしで国が成り立つか!このままこの国全ての人間を軍人にして戦場に駆り出す気か!」
「それも悪くねえな」
で、これだ。
——————————呆れた。心底から呆れた。
「人間はずっと魔物に苦しめられて来た。その力をこっちの物にできればこの領地を、この国を発展させ、世界を手に入れる事なんか簡単なんだよ!残念ながらデーキは死んじまったようだからな……!」
「人間を魔物に変えるような奴は要らねえ!」
「魔物じゃなきゃいいんだな、それもデーキしか作れねえが」
この言い草に頭に血が昇らなければ、俺はでくの坊だろう。
「ふざけんじゃねえよ……!」
「お?」
「ふざけんじゃねえよ!」
俺は走りながら、たくさんのチーズを作り出した。
こんな時、何が必要か。どうすればいいか。
チーズを作り、抱え込みながら、距離を開ける。
コボルトやオークもいる。
その村人や騎士のために!
追いかけて来ないおかげで、簡単に距離は取った。口に向かって、投げ付けて……
「待って!」
「オユキ様!」
「そのチーズ、私に貸して!」
オユキ様が、空っぽの鍋と共に駆け付けて来た。
「どうするんですか!」
「こうするの!」
オユキ様は俺の懐のチーズをひったくり、鍋に叩き込んだ。
今更焼いても間に合うはずがないのにと思っていると、オユキ様は吹雪をチーズに吹き付けた。
「ニュートラルってのよねー。それを、こうして!」
「えっと…!」
「こうするの!」
そして凍ったチーズを氷製のハンマーで叩き割り、粉チーズにしたニュートラルチーズを手でつかんで投げた。
「チーズが、宙を舞っている……」
牛乳の味の強さを示すように真っ白な氷のようなチーズが宙を舞い。次々と体中にくっつく。
俺の口にも入る。味はしない。
そう。
「ウ、アア……!」
「アアアア…………!」
魔物たちの口にも入る。
「どうした!魔物たちが苦しんでいる!」
「お前たち、口を塞げ!口を!」
「ウオオオオオオオ……!」
魔物たちが苦しみ、体を震わせている。
「なんだぁ、スケルトンの右手に肉が生えてるぞ!」
魔物たちが悲鳴を上げる中、決定的とでも言うべき言葉が飛ぶ。
「なんだよ、お前!魔物さえも…………!」
「自分が何やったかわかってんのかぁ!」
不自然な形で作られた魔物。
それを救えるのはこの「ニュートラル」だ。
あるべき姿・自然な状態に戻す事の出来る、チーズの力。
「フン……だがお前はまだ勝っていない!」
「何を…!」
しかしそれでもなおキミカッタの自信は崩れていない。
まったく、まだアックーが残っているとしても…………
「ノージ!竜人たちはまだ健在だ!」




