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シックスpieceチーズ  作者: ウィザード・T
第十章 チーズは何を救う? 中編 究極のチーズ

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なんでこんな戦いを

「ったくもう!どうしてどいつもこいつも甘ったれに従うんだろうな!」

「他に言う事はないのか!」



 いつの間にか、キミハラ様とキミカッタが打ち合っていた。



「お前が君主になったらこの家は全部農民たちに持ってかれる、そんな事になったらどうしてくれる!」

「領主なんてのは住民たちのご機嫌の上に成り立ってるんだよ、強権を振るいたければ時と場合を考えろ!」

 住民たちに逆らわれるような人間が果たしていい貴族なのか。その問題の答えはそんなに難しくねえはずだ。


「あそこまでになっちまった責任をどう取る気だぁ!」

「アックーがああなったのはアックーの責任だ!こんな事のために力を注いでどうするんだよてめえは!」

「お前が軟弱だからいけねえんだよ!」

 五年間もあんなインチキな寒村にいて、ずーっと家督を譲れと迫られていたのに撥ね付け続けるのがどうして軟弱なんだか。で、その気配がないまま俺らがやって来て問題を解決しちまったもんだから強引にヅケース家の当主の地位を奪おうだなんて、本当どんだけ面の皮が厚いんだよ……。

「お前こそ、いつまで母上に執着してるんだ!」

「俺はただ親孝行してえだけだ!」

「そのために兄弟やその仲間まで殺す気か!」

「仲間!はあ仲間かよ!それだから!」


 甘い。とにかくそう言いたくて仕方がないのかもしれない。だが自分たちだけで何とかできると思ってるんだとしたらそっちのが甘いと思う。

「って言うか騎士じゃなくて使用人まで出て来てねえか、戦力になりっこねえのに」

「やかましい…お前みたいに自分たちだけが背負えばいいとかいうええかっこしいとはもう飽き飽きなんだよ……」

 その挙句にハラセキと同じエプロンドレスを着た様なメイドたちまで向かって来て……そこまでして何をしたいのか……


「ご当主様ぁ!」

「いいとこに来た、さっそくこの軟弱野郎を」

 キミカッタの声ははしゃいでるけど、そんな人たちが戦場で本当に役に立つのか?

「南部から軍勢が!」

「援軍が来たか!」

「いえ、キミハラ様の援軍を名乗っております!」

 え?キミハラ様の援軍??

「ふざけんな、いったいどこからそんな!」

「南からです!」

「南はわかってるんだよ!具体的な事を言え!」

「明らかに村民です!」




 南の村民……




「まさかファイチ村か!」




 そう、ファイチ村!




「ファイチ村!?」

「そうだ!かつてノージが助けた村!彼らはノージに恩を感じ、ノージが付いていると知って駆け付けて来たのだ!」

「総大将はヤヤと名乗っているとの事!」


 ヤヤさん!ファイチ村の村長さんの娘さん!

 そんな人自ら助けに来てくれたのか!



「援軍だー!」

「行け、行け、行けー!」

 ファイチ村と言う援軍の到来に、みんな大きく盛り上がった。

 決して自分たちは二人ぼっちではないという確信。さらなる味方の増力。

 そりゃ力を与えるはずだ。

「俺達は、村人たちのために……」

 そして騎士たちは動揺し、いっきに崩れてしまう。真っ赤だった目は紫色になり、後ずさりし出している。


「おい何をやっている!」

「でもヅケース様が!」

「全部逃げるな!」


 逃げようとした所にキミカッタが飛び込み、逃げる兵を追いかけるコトシさんを横目に防衛に当たる。本当、いちいち戦争では優秀だ。

 でもその間にも村人さんは騎士たちに攻撃をかける。背中を向けてしまった敵に次々と襲い掛かる。

「おいてめえら!」

 当然キミカッタも斬る。自分たちを支えてくれる農民だろうが構わず斬る。その度にハラセキの祈りのせいか血が飛びながらもすぐ回復し、突入は止まらない。


「屋敷を占拠したらどうなる!」

「てめえら全員死罪だ!」

「そんな理由を作る方も作る方だ!っつーか逃げるんじゃねえ!」


 そして後退するキミハラ様。

 そう。



「ノージィィィィ……!」



 アックーは未だに俺への攻撃をやめようとしない。全身の刃を振り回し、俺の前に立ちはだかる存在全てをなぎ倒そうとしている。

「お前とアックーは本当にそっくりだ!ついでにツヌークもな!」

「何よ、甘ったれのくせに意地っ張りな兄上!」

「自分が邪魔だと思う存在が全員にとって邪魔じゃなきゃいけねえって勝手に思ってる!そんでその自分の中の思い込みにそぐわねえとやだやだって暴れ回りその思い込みを真実にしてしまおうとする!ガキかお前ら!」

「パン一個のために東奔西走しててみじめにならないほどのプライドしかない人に言われたくないわよ!」

 貴族ってのはそれができちまう。いや、貴族でなくても強い奴ってのは強引に意思を通せちまう。俺もそうならないようにしなくちゃいけねえ。

「屋敷も領土も失っちまえば貴族なんて意味はねえ!」

「村人たちからペコペコされていい気になって!それが望みな訳!?」

「村人の差し出す存在なくして何が貴族だ!」


 ツヌークもツヌークで、まったくそれに気づいていない。ミナレさんがこの国のお姫様だって言うんなら、貴族の娘なんてそれこそミナレさんから見ればその他大勢じゃないか。


「そうかよ、やってやろうじゃねえか……!お前ら、屋敷に入り込んだ連中を皆殺しに…!」

「もうおりません!」

 そこに続く、さらにおかしな言葉。

「すぐ逃げた!?」

「ええ、しかし遠く離れた訳ではなくじっとこちらをうかがっています!その村人たちの棟梁…いやコトシとナオムンが戦っております!」

「コトシ殿、味な真似を…!」



 ミナレさんの笑顔。そしてコトシさんの華麗な立ち回り。



「コトシさんはファイチ村の村人さんたちを守るために!」

「ああ」


 屋敷に入って騎士たちの攻撃を受ければ、チーズの力がないだろうファイチ村の人たちは危ない。

 だからファイチ村の人たちは屋敷のすぐそばに控えているだけでいいと言う訳だ。


 実際、このおかげでかなりの数の騎士が屋敷内や南側から動けなくなり、キミカッタやツヌークの防備はだいぶ薄くなった。


「これで完全な挟撃体制だぞ」


 キミハラ様の言う通りの状態だが、それでもキミカッタは顔を変えない。


 どこまでも、自信満々だ。

 



「お前らこそ、まだ懲りねえんだな……こんなんで理想の軍勢とか聞いて呆れるぜ」

「じゃあどんなだ!」

「こんなだよ…………!食え……!」


 その食えと言う言葉が出るまでもなく、何人かの騎士がチーズを食べ始めた。

 中には拒む騎士もいたが、それでも結局は口に入れていく。



「あの黒いチーズは!」

「そうだ……フッフッフッフ……ハッハッハッハ……!」




 真っ黒なチーズ。




 そう、アックーを魔物に変えたチーズ!




 俺が逃げ、キミハラ様たちが愕然と立ち尽くす中、次々と黒いチーズは消化されて行く。






「こ……これは!!」


 そして数十秒もしない内に、キミカッタに付き従う軍勢から人間がいなくなっていた。


 キミカッタと、ツヌークを除いて。

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