あれがあいつか!?
「戦いが始まったみたいだね」
開戦の口上って奴が俺の耳にも入り込む。
そして、アックーの声も。
(確かにそうかもしれねえ。でも自分の言葉に責任を持てねえほど俺は気が強くないんだよ……)
俺があのツヌークとか言う女をボロカスに言ったのは、自分が孤児だからと言う良く言えば怖いもの知らず悪く言えば世間知らずな行いからだ。単純にむかついたってのもあったが、それでもそれなりに発言に責任を取るつもりでいた。
「自分が失敗してなお同じ事を言えるってのは何なんですかね。少し違えば成功するはずだったって思っちまうって事なんですかね」
「そうだよね。でもその失敗の度に状況は悪くなってる。ノージを失い、ギビキを失い、ルワーダを失い……その度に失った物を取り戻そうとしてより当たれば大きい賭けに挑んじゃう。それって文字通り最悪のパターンでね、そのやり方で身を滅ぼしちゃった存在は数え切れないほどいるの」
アックーは本当に、俺の事を使えないと思ったから放り出したんだろう。でも実際俺がいなくなって何らかの不都合が生じ、俺を再び求めた。もしその時、直に出向かれて頭を下げられていたら、俺はどうしたかわからない。
でも今はもはや、妥協点なんかない状態にまで来てしまっている。いくつものチーズが煮られて溶けあい、固まって別物になるように…。
「もう十分に虹色になったからやっちゃっていいかな」
氷の塊が放り込まれる。俺が作ったチーズが実用性を帯びるようになるべく洗礼を受け、同時に炎の方もお役御免とばかりに消えて行く。
「鍋は大丈夫ですか」
「大丈夫、これでも加減はわかってるんだから」
鍋はまったくこの村の物であり、こんな戦いで壊していい物じゃない。この村を守るための戦いなのに。
「でも壊しちゃってもいいと思ってる」
「そんな!」
「だって鍋なんていつかは壊れるでしょ、だから今こそ本気で行くべきじゃないかって」
確かにそうかもしれねえけど、それでもどうしても……
「ノージィィ!」
「もう、うるさいなあ」
そんな鍋の事で悩む俺に飛び込む声と、それに割り込むオユキ様の静かすぎる声。
「うわー、うわーっ!」
そして轟く歓声。
俺はキミハラ様の言葉通り無視を決め込んで鍋に目をやるが、それでも俺の名を呼ぶ声と武器のぶつかり合う音は消えない。
「出て来いノージィ、この役立たずぅ!」
「ノージはそんなに暇ではない」
「ノージが役立たずならこの場にいる存在の9割以上は役立たずだな」
「またそうか、またそうやってノージをもてはやすのか!」
間違いない。アックーの声。
俺が、コトシさんやミナレさんから褒められている事への怒りなのか。
「ノージ!これが最後のチャンスだ!俺に従え!」
「馬鹿も休み休み言え!」
「お前に聞いてねえ!」
「従ったとして何を提供できる?そなたはもうギルドから罪人扱いだ」
「どういう意味だ!罪人扱いはノージとハラセキだろ!」
「ルワーダに何をした!」
—————最後のチャンス、かもしれねえ。
ずっと一緒にやって来たはずなのに、こんなに運命が分かれちまった俺達。
でも、
「キミカッタ!もうどっちが死ぬか二つに一つだって事か!」
「やっと目が覚めたか甘ったれの兄貴!」
同じ血を分け合った兄弟でさえもこうして争っちまってる。
なら、俺とアックーも……。
「………………………………」
結局、俺は逃げた。
鍋をながめ、チーズの冷却と固形化を待った。
「私が小さな鍋を用意して持ってくからさ、ちゃんとチーズを頼むよ」
「わかりました」
今の俺の役目。それはチーズ。チーズを運ぶのも人任せになってしまっているのは申し訳ないが、自分ができる事を思うとどうしてもこうなるのはもうどうしようもない。
俺は俺のできる事をする。それもまた…
「なめてるんですね」
「なめてる?」
…なめてる?
「自分が出て行くまでもない、これ以上構う価値もない……」
「そういう事ですよ」
「何を言ってるんだ」
俺たちは、動けなくなった。
なめてる?俺が?アックーを?
「いよいよ本番のようですね、本来の力をお見せする……」
「そうだな……行くぞ!」
この声は、デーキ!
俺がいなくなった後の閃光の英傑のメンバーとなり、ルワーダをもバケモノに変えたとんでもない奴……!
それでもとばかりに必死に鍋を見つめチーズの冷却を待った。
他に何もできる事もない。本当なら今すぐこの虹色の塊をすくい上げて持って行きたいが、まだ固まっているように見えない。
「ああもう!」
やむなく棒を突っ込んで触ってみる。
固まってはいないが粗熱は取れた感じだ。たぶんそうだ!
「これなら!」
「わかった、私が持って行くから!」
オユキ様が鍋からチーズを取り出し、小さな鍋に詰めて行く。
そしてその小さな鍋と共にオユキ様が走って前線に向かう。俺はまた空っぽの鍋に……
「キャアアアアア!!」
そんな俺の逃げなんか許さないと言わんばかりの悲鳴が轟く。
「オユキ、様……!!」
振り返った俺は、見てしまった。
その魔物、いやバケモノを。
「な、なんなんだ、なんなんだ!」
背丈は俺らの五割増しぐらいあり、顔はあのファントムと同じように鋼鉄で覆われ、両腕も両足も剣のようになっている。
いや、胴体も膝もひじも。
全身が、金属の刃のようになっている!
「こ、これは……!!」
「これは…!」
「…名前も知らん魔物だ」




