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シックスpieceチーズ  作者: ウィザード・T
第十章 チーズは何を救う? 前編 決戦
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決戦はリンモウ村にて(後半キミハラ視点)

「今の内にチーズを食べろ!」

 

 一時間以内とか言う単語を真に受ける意味もないが、それでも決戦は間近だ。

 村人さんたちが、一斉に俺のチーズを食べている。

 俺のチーズに、思いを託している。


「レインボーチーズを作る暇は」

「あるかないかわからないがとりあえずやってくれ」

 六種類のチーズを鍋に叩き込む。


 昨日作ったレインボーチーズは、昨日の段階で既に全部食べられている。

 俺と、ミナレさんと、ハラセキと、コトシさん、オユキ様、後は腕利きの冒険者さんや村人さんたちの中の力自慢の人たちに。だがまだ、全員分はない。

「薪も大量に用意している!」

「いざとなったら冷やすのほどほどにしてってのも」

 みんながただ美味なだけかもしれないレインボーチーズを求めているのには驚いたが、それでも俺は俺なりにやるしかない。あんなお嬢様に何をやられてたんだか。


 ああ、さっき全員分はないって言ったけど本当はここにいる全員が一口は食べていた。あまりにも小さくし過ぎたせいで一口以下しかない事もあったが、みんなその味に感動していた。


(あんなうまいもんを食べられるだけでもって価値はあるって……)


 これまでキミカッタたちは村人さんたちに、うまいもんを食わせて来たんだろうか。ありきたりだけどそれだけでもこの戦いには価値がある気がする。


 このチーズ、にも。


 ひとつ、ふたつ、みっつ……とりあえずは五十人分を目標とし、六種類のチーズを入れて行く。鍋にチーズが当たると共に音が響き、集中力が高まって行く。他の五種類のどれよりも集中力と言うか「力」の要るラブも作る。これから戦おうとするミナレさんや、俺と一緒に勝利の祈りをささげるハラセキの事を思いながら。


「どうやら数はできたみたいだな、よし火を点けるぞ」

 村人さんたちの声と共に、昨日のように薪に火が灯される。五十人分のレインボーチーズが出来上がり、俺達に栄光をもたらしてくれるはずだ。




「敵軍が来ました!」




 もちろん、相手はそんな事など許さない。


「鍋はノージとオユキ様に任せます!」

「大丈夫、鍋が片付いたら迎えに行くから」


 オユキ様を鍋の見張りに残し、みんな向かって行く。タフネスを始めとしたチーズを食べながら、走る。


「あの、オユキ様。私がここでノージ様と共に」

「いざとなったら私が強引にでも鍋を冷やさなきゃいけないからさ、あなたはそのチーズを配ってちょうだい。それがあなたの役目なんだから」


 俺の役目。オユキ様の役目。ハラセキの役目。

 それぞれ違うのはわかる。


 でも。


「ハラセキ、どうか皆さんを」

「ノージ様…」

「お前の祈りでどうかミナレさんやキミハラ様たちを……」


 今必要なのは、メイドじゃなく聖女様としてのハラセキだ。


 俺が目覚めさせたかもしれない、ハラセキ。


「そうね、キミハラ君にはあなたが必要よね。聖女様の力で、正常な状態に戻してね」

「はい…」


 …まあ、兄上様とは違って、まともなギャグセンスを持っているだろうハラセキの力で。







※※※※※※







「敵軍が迫っているようだな」

「こっちから仕掛けるか」

「その必要もあるまい」


 ずいぶんとまあ、たくさんの人間をかき集めて来たもんだ。屋敷内の騎士様や財宝をぶっ壊された村人たち、それに



「甘えん坊のキミハラ……」



 この世でもっともピント外れな悪口と共に、姿を現した男。


 この前とは違って黒いマントを羽織り、馬に乗っかって剣を持った男。


「ノージ、ちょっと調子に乗りすぎたんじゃねえのか」

「アックー…」




 そして、やはり黒いマントを纏ったアックー。




「アックー、あいつは一体何が悪いというんだ」

「文字通りだよ。あいつは一生俺の言う事を聞いてればいいんだ」

「どうしてだよ」

「それがあいつにとっての幸せだからだ」

「これ以上ノージを泣かすなよ」


 アックーはノージにとって、頼れるリーダーであり冒険の基本を教えてくれた師匠様のような存在だったらしい。

 武器のまともな持ち方も、ギルドからクエストをもらう過程も、何より物の値段もまともにいや金貨一枚=銀貨十枚=銅貨千枚って言う事さえも知らなかった、アックーから教えてもらった——————————。

 まったく、それでよく冒険者なんかできるもんかと思ったが、よく考えればそれを教えるのは一体誰の仕事だって話だ!


「それに単純な話だ。そなたに捨てられたノージはその力を発揮している、そなたの下にいたギビキやルワーダはどうなった」

「ルワーダは腰抜けだよ!今更になってノージにペコペコしようとした!だから俺がノージのとこへやった!

 ギビキは!あいつをちゃんと迎えようとした!」

「村を焼くのが迎えの挨拶か?」


 で、ギビキとルワーダの名前を出したら急に激昂している。

 ほとんど痛点を付かれた子どもだ。まったく、ノージには見せられない姿だ。


「キミハラ……」

「キミカッタ」

「俺はな、惰弱なヅケース家が許せねえんだよ!これ以上よそ様になめられてたまるもんかい!」

 噓偽りを感じねえキミカッタの声。



 そしてそのキミカッタの後ろに立つ、二人の影。



「ならしょうがないか、決戦だな」

「ふん、てめえのような甘ったれに負けるわけにいくか!」




 こうして、俺達兄弟による最悪の戦いは始まった———。

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