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シックスpieceチーズ  作者: ウィザード・T
第二章 俺は彼女について行く
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俺自身も修行してみる

一応かませ犬勇者の話なんですけどね、この話。

「お客さん」

「えっ、要らないんですか」


 喰い終わった皿を戻そうとすると店主さんに首をひねられた。なんでだろ、俺はいつも片付けに行ってたのに。


「本当に親切だな」

「いえ、俺はこうして金を得てたんで」

 細かいことは俺の担当だった。っつーかそうしないと金をアックーから投げてもらえねえから、当然の事だと思っていた。アックーとはなんだかんだ言って数年近く付き合って来たからな。ああ、ギビキとはもっと長いけど。


「そなたは本当に苦労して来たのだな」

「いえいえ」

「褒めていない。どうしてそこまでせねばならぬのかと言っているだけだ」

「いや、単純に金が惜しいんで」


 一応本音のつもりだが、ちっともミナレさんの顔は変わらない。お金目当てかよと軽蔑されても驚かないのに、ずいぶんと真剣に俺の事を見つめて来る。


「ノージ。少し訓練しよう」

「はい」

「……そうか。ではどこか村外れにでも向かおう」

 そしてそのままはいと答えたら、苦笑いをするミナレさんと一緒に村を歩く事になった。

 故郷と同じようで違う村、その違いがどこにあるのかはわからない。ただ故郷はどこか建物も道も重たく、ここは少し広い。そう言えばあの村にはこんなきれいな畑はない。どこか茶色かった。


 そんな茶色い道を進んだ俺たちは、やはり茶色い雑草が並ぶ草原にやって来た。

「とりあえず剣を抜け」

 言われるままに剣を抜き、適当に構える。ついさっきコボルト四人を切ったほどには使われている剣だったが、一応血は拭いたのでそれなりにきれいではある。

「そう言えばさっきはどうやったんだ。まず見せて欲しい」

 その言葉に従い、素直に突く。自分なりの目一杯の速さで、一気に押し込む。

 だがやっぱり、ミナレさんの顔は晴れない。

「……悪くはない。だが正直、旅慣れている感がない」

「そうですか」

「ああいう風に戦った事はないのか」

「あまりないですね。俺はいつもおこぼれ狙いだった、と言うかそれしかさせてくれなくて」

「そんな戦い方では強くなりようがないぞ」

 わかっている。でも俺はあくまでもわき役だった。常に大物を倒すのはアックーかルワーダであり、俺はギビキが狩り残した雑魚キャラ狩りが精一杯だった。だからああいう雑魚キャラ狩りの技術はそれなりに身に付けていたが、武器の振り方については正直誰にも習っていない。

「それもまた剣の形だろう。別にきれいなそれだけが剣ではない。ただそういう剣と一緒にきれいな剣を学ぶことも重要だ。とりあえずその元からの剣を打ち込んでみろ」

 その言葉のまま、俺は今まで身に付けたつもりの剣を打ち込む。

 もっとも打ち込むと言っても実際には相手の隙を付くつもりでそっと近づいて一撃を加えたり、相手の攻撃を受け止めたりするだけできれいに振り下ろすような事は全く習っていないし考えてもいない。それでもそれなりに時間をかけた事もあり、足音を抑えたり声を出さずに突いたりする技術だけは身に付いたはずだ。


「そっちは問題ないか、では次は私のようにやってみろ」


 俺は、ミナレさんの後に続く。

 上から下へと、確実に振り下ろす。しっかりと剣を握り、力を込める。

 だがこの力を込めるってのが、実はけっこう難しい。どうしても俺は数を相手にしているせいか速さの方が力より大事であり、あまり力を入れていると連戦についていけなくなる。アックーとかは力を入れながら素早く攻撃しているが、俺にはとてもできそうにない。

「力が入ってないぞ」

「はい」

 言われるとおりにしようとするが、どうしても力が入らない。

 と言うか勝手に引っ込めてしまう。我ながら本当難儀な話だ。

「もう一回!」

「はい!」

 気合を入れようとしても、どうしても止まってしまう。次が来たらどうしよう、本当に決まったんだろうかと考えてしまう。それ自体はちっとも悪くないはずなのに、どうしても刃が迷ってしまう。


「うーん……」


 こんな事を一時間近く繰り返したけど、結局まともな成果が上がったという感触は得られなかった。

「どうやら私の見識にやや誤りがあったようだな。そなたの剣の形はすでに出来上がっている。それに新たな色を加えようなど無理があった」

「そうですか…」

 ミナレさんは深くため息を吐く。確かに、自分が身に付けて来た剣を他人に教えられないのでは不満も溜まるだろう。俺はいいミナレさんの生徒じゃないらしい。

「落ち込むな。私はどうも熱くなりやすくてな、それでこうなってしまうのだ」

「でもそれっていいと思います。って言うかありがとうございます」

「おやおや」


 でも、素直に感謝の意を示すことぐらいはできる。こうして熱くなってくれたって事は、それだけ重要な事じゃないか。

 俺のために、ここまでしてくれるだなんて。


 こんな経験、して来なかった。


「まったく、そなたは本当に大変な思いをして来たのだな。親の愛もまともに知らず、仲間にも恵まれず。タレントも良し悪しかもな」

「勇者ってのはどんなタレントなんですかね」


 俺のタレントが「チーズ作り」だとすれば。アックーのタレントは「勇者」って事になる。どんな意味があるのかはわからないけど、それでもあいつは「閃光の英傑」のリーダーとしてその名前をどんどん高めている。

「勇者、か……確かそのタレントは全ての方向の力を大幅に高めるそれだ」

「やっぱりすごいんですね」

「だがあくまでも、大幅に高めるに過ぎない。素の力は変わらないし、そして普通に戦っていてもなかなか上がらない。そんなむしろ難儀なタレントだ」

「そうですか。じゃああいつも大変だな」

「あいつ……?」

「ああここにいましたか!」


 そして「あいつ」の名前を出そうとした所で、別の女の人の声が飛び込んで来た。


「ミナレさんと、ノージさんですね!」

「何ですか」

「父様、いや村長様がお二人を呼んでいます!」

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