1+1なだけか、それとも……
「で、混ぜるんですか?」
「同じのを二個掛け合わせても同じのの二倍だろ?それもそれでいいけどそれじゃあまり意味はない。一緒に食べた事とかはあるのか」
「正直ないですね。ミナレさんと出会ってからも、それまでも。ましてや溶かして混ぜ合わせてだなんて」
アックーは
「確かにお前のそれがあれば飢え死になんてありえねえよな。でもしょせんパッと出せるもんにはパッと出せるもん相応の価値しかねえ。お前なんか訓練でもしたのか」
とか言ってた。実際、俺もそう思っていた。
「時間をかけてじっくりとやればもっといい物が出来たんでしょうか」
「俺は貴族の息子だ。生まれながらの、何の努力もしないでかなりいい暮らしをできている。そういう意味では俺も努力なんかしていない」
「……」
「理屈のための理屈はどこかで抜け落ちている。アックーってのがどんだけ特別なのか俺は知らないけど、どっかで怖がってたんじゃねえかな」
—————怖がっていた。まったく思いも寄らない言葉だ。
いつも自信満々で、傍から見れば上から目線に思える言葉さえもアックーは堂々と言いのけては本当にしていた。そんな人間が怖がる事なんてあるんだろうか。
「とりあえずはそれなりの可能性ってのを引き出してみようって訳でさ。ホットを頼むよ」
ホットのチーズを、タフネスのチーズを入れていた鍋に放り込む。薪に火が点けられ、チーズの匂いが立ち込める。個人的には嫌いな匂いではないが、それが嫌な人もいる事は知っている。
「大丈夫ですか」
「本当にお優しいお方様だなぁ、ほれ水も用意してありますから」
煮たチーズを冷やすための水まである。もちろんそんな事をすればチーズの味的には良くないが、それでも今は味云々の問題ではない。
もちろん俺自身はこの匂いが好きだ。焼けたチーズの匂いが場を覆い、食欲をそそる。だが今思うのは、一刻も早く焼けて溶けて混ざり合わないかと言う焦りだけ。焦るとなかなか煮立たないとか言うが、本当にその通りだ。
「鍋ばかりじっとみててもしょうがないよ」
そう言われてもまったく落ち着けない。薪をくべてやろうにもまともな数はなく、鍋を見た所でちっとも進まない。
「チーズを煮るためにチーズを食べるか」
「そのチーズはなんですか」
「ラブですよ、ラブ……単純においしいから食べてるだけで……」
本末転倒っぽい事までやりながら歩き回る。まったく、長い間雪に包まれていたらしいリンモウ村が妙に広く見える。その環境の中で戦って来た村人の皆さんもたくましく強く見える。
「で、このチーズは成型するのか」
「成型してもしなくても力は同じですから」
「ならばこんなのがあるんだよね」
そして部下の人にやらせればいいのに自らパンのかけらを持って来たキミハラ様。木の棒まで持ってきて、完全につける気だ。
「えっと、自分で食べるの?」
「当たり前です」
「でも君は食べ慣れてるからね。ほら」
そして、たくましき村人の皆様までいる。その目線と来たら、俺に反論を許す気なんか一切なしと言った風情だ。
俺は人体実験のような真似をする覚悟を決めるように、木の串に刺したパンにチーズをくぐらせた。木の串を通してさえも熱さが伝わる。
「少し冷ましましょうか」
「いえいえ一刻も早く!」
「皆さんが火傷をしては元も子もありませんから」
パンを水に浸すとそれだけで水がはね、引き上げるとパンが湯気に包まれる。水の中にはチーズがこぼれ、二色の流れがこぼれて行く。
「では…!」
チーズが絡み合ったパン、じゃなかったパンにからまったチーズがリンモウ村の村人さんの口に入って行く。熱そうにしながらほおばる顔は本当に優しく、それ以上に美味しそうだった。
「……なんだか強くなった気がします!」
それで一通り食べた後、笑顔のまま力強く村人さんは言ってくれた。
「そうかそうか!それで体温は」
「いい感じです!」
「じゃ次!」
——————————だけど、キミハラ様の顔は冴えない。
(……この調子だと失敗くさいな……)
体力を高めるタフネスと、体を温めるホット。
その二つのチーズが混ざった結果は、二つの効果が得られただけだった。もちろんありがたくはあるが、それでは残念ながらたかが知れている。
「次々試してみましょう」
「そうだな」
つとめて明るく答えたキミハラ様に従い、俺は六種類十五通りのチーズを混ぜてみた。
その度に試食を行い、村人さんたちに食べてもらう。
「……二種類じゃダメなんでしょうか」
「ダメではない。ダメでは、な……」
だが、どうあがいても二種類の効果の合わせ技でしかない。
ましてやただの村人に呪いなんか無縁だから、アンカースとかはラブ以上に無意味だ。
確かに腹は膨れたが、そんな問題じゃない。朝から始めたのに、もう昼になっていた。
「どうしましょう」
「いっその事さ、全部ってのはどうだい」
俺が悩んでいると、キミハラ様がとんでもない事を言い出した。
確かに全部いっぺんってのはなくはないが、それこそ最終手段に等しい。それでダメならば本当に打つ手がなくなるかもしれない。
「とりあえず今まで使ってなかった大鍋に…」
まあやらないよりはいいかと思いとりあえずアンカースのチーズを作り、大鍋に放り込んだ。
一つでは明らかに足りない。もう一つ…
「、jlmわ、lb、ぁh、ry~!!」
「何だぁ!?」
そこに割り込む、悲鳴と言うより騒音!
「騎士さん……!?」
「違う!これは、魔物だ!」
全身黒い鎧を着た騎士。
いや、魔物。
「くhml、あほcん、@うぃ。j:j~~!!」
その魔物の頭から、とんでもない音が出ている。




