ハラセキの正体!?
本物のアタゼンと、本物の俺の故郷の村人たち。
「どうしてここに!」
「お前、よくもお前のような孤児の分際でうちのギビキを……!!」
「孤児はどうでもよかろう!」
「うるせえ、俺達の希望であったギビキを!」
何も産業のない村が「○○を産んだ」と言う名目で大きくなる事はある。
「ノージ様だって村の一員のはずです!」
「黙れ、村の人間がどう思われるかもわからねえのかぁ!」
ハラセキは怒鳴るが、アタゼンは耳を貸さない。
「冒険者たるもの信用第一だ。冒険者になって名前を上げてしまえばその本人の口が優先される。そなたが故郷はひどい環境だったと言えば我々はそれを信じる」
今から思うとギビキを大事にしていたのは村の産業としてアピールするためだろう。だったら俺もとか今更思わない訳でもないが、父親からしてみれば我が子がかわいいのは当たり前だろう。
「ギビキなんて言う悪魔をか!」
だがそのギビキはオカマゴ村の住民にとっては村を炎で焼き尽くそうとした悪魔であり、許しがたき存在だった。
「悪魔だと!お前ら人を何だと!」
「ノージさんや聖女様を殺そうとした奴は悪魔で十分だ!」
「この野郎!」
ついに、村人同士が衝突してしまった。
「騎士たちよ!」
ミナレさんが騎士たちに切り込む。これまでオカマゴ村の村人たちと相対していた騎士たちにとって、新たなる味方の存在は文字通りの絶好機。
騎士たちの剣や盾、いや手首までもが舞い上がる。
「この、野郎…!」
「この戦いに何の意味がある!」
「出世栄達!それの何が悪いぃ!」
「命を落として何の意味がある!」
「黙れ、黙、れ……!」
それなのに誰もひるもうとしない。すでに死体もかなりの数が産まれている。
刃傷沙汰には慣れっこだとしても、これはあまりにも……
「うわああ……!」
そんな凄惨な現場を覆う泣き声と、白い光。
「ハラセキ!」
「ハラセキ!悔しいか!悲しいか!これも全てお前のせいなんだよ!」
「お前ってのは一人称か!?」
光を放つハラセキに向かって投げ付けられるまったく心ない言葉に立ち向かうように俺は立つ。
俺のこの手で、彼女を守る。
チーズの力があればなんとか……!
「ハラセキ。ずいぶんと立派に育ちましたね」
「立派に育ったよ、だからこそこんな所で殺させる訳には!」
「立派に人様に迷惑をかけてるがな!」
「キミカッタ、あなたはいつでもキミハラ様と張り合ってばかりでしたね、どっちが奥方様の膝の上を占めるとか」
ハラセキを見守るような声。どこか暖かい声。俺が感じた事のないような。
そしてそれと同じ声で、キミカッタの過去の事まで伝える。
「誰だ」
あまりにも自然なもんだから、その言葉が出て来るまで時を要してしまった。
「わかりました。私が何とかしてみましょう」
ハラセキの口から出ているはずなのに、ハラセキじゃないみたいな声。
その声が出ると共に、戦いの場が白く包まれる。
「わっ!」
俺は大丈夫だったが目を開けていられない人もいた。騎士も農民も武器を落とすか握りしめ、強い光に抗おうとしている。
「これは…!」
「この野郎、どうしても、守る気かよぉ!」
それでもキミカッタは何かに憑りつかれたかのように真っ赤な目を悪目立ちさせながらハラセキを狙うが、明らかに遅い。
「馬鹿な…」
そして、弱い。
「俺だって膂力はないぞ、それなのにどうしてこうも簡単に弾き返されるんだよ」
心なしか俺も弱っている気がするが、それでもここまでとは思わなかった。渾身のはずの一撃を俺が叩き上げると、それだけで大きく倒れ込みそうになった。
「ああ、聖女様、聖女様……!!」
「あっ、あああああ……!」
村人たちだけでなく、キミハラ様さえも動けなくなっている。
「母、上……!?」
「まあ、そうかもしれませんね。キミハラ様」
「キミハラでいいです!まさか、聖女様、の……!死んだはずじゃ…!」
「母上って、キミハラ様の母上は」
「父に側室がいた。だが子どもを産むと同時に亡くなり、その子も死産だったって聞いたが……!!」
もしかして!
「その名前は!」
「エゼ、トー、ナ……?」
エゼトーナ。オカマゴ村を救った聖女様の名前。
「なんて事だよ…………俺は十六年近く妹の存在に気付かなかった訳か……なんてえ
不甲斐ない兄貴だよ……」
「あ、ああ、ああああ……!」
その聖女様がハラセキを産んだ?いや死んだことになってた??
「私は進んでヅケース様に嫁ぎました。私だって少しは俗な欲望もありましたゆえ、村人の皆様には多大な迷惑をおかけしてしまいました。お屋敷の中で私はヅケース様たちにも良くしていただき、キミハラ様やキミカッタ様のようなクロミール奥方様のお子様とも仲良くしておりました」
「ウソ、つけ……」
「キミカッタ様はさっきも言ったようにキミハラ様ととにかく張り合いたくて、寝る時でさえも一分でも遅くまで起きてましたよね」
「うるせえ、でたらめを抜かすな!」
「ハラセキ、ノージ様を支えるのですよ」
「自作自演も大概にしやがれ!お前ら……!」
必死にハラセキの口から出る言葉に抵抗するキミカッタだったが、肝心の騎士たちがまったく動けない。
「やっぱりハラセキ様はエゼトーナ様の生まれ変わりだったんだ!」
「ハラセキ様、エゼトーナ様、バンザイ!!」
オカマゴ村の村人たちはあらゆる意味で元気になり、騎士たちに襲い掛かる。
決定的な打撃こそ与えられないが心理的に圧倒された騎士たちは、もうコボルトよりも弱い生き物だった。
ましてやまともに訓練なんか受けてないし戦闘の経験もないアタゼンたちは……
「どこへ行ったのですか?」
「どこへって、何、が……!」
——————————いなくなっていた。血痕すら残さず、アタゼンを残して全員。
「ノージ……!お前だけじゃないんだよ!これを見ろ!!」
アタゼンの手に握られていた物体。
エゼトーナ様でさえも気付かない内に村人たちを消していたのは……
「チーズ……!?」
紛れもなく、チーズだった。




