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シックスpieceチーズ  作者: ウィザード・T
第七章 ある結末の後に
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キミハラ様のため息

「あまり歓迎されてなさそうだな」



 キミハラ様は苦笑いとため息と共に頭を下げて来る。

 まったく、どっちがお貴族様だか。


「こんにちは」

「フフフ、他人行儀にしなくてもいいじゃないか」


 キミハラ様は相変わらず俺並みの鎧を着て安い剣を腰に挿し、フレンドリーに話しかけて来る。護衛もいやしない。


「俺だって最小限の礼儀は知ってます」

「アックーが教えてくれたから、か。キミの性根ってのはよくわかるね」

「アックーを知ってるんですか」

「まあね、俺だって貴族だからな。人気ある冒険者のパーティの事ぐらいは知ってるよ。閃光の英傑、君がいた所だろ?」




 —————閃光の英傑。


 もう、懐かしい名前になりつつある。


 ギビキと二人一組で冒険者パーティの真似事をしていた時期がしばらくあり、そこでチーズを食べながら経験を積んでいた。まああくまでもメインはギビキで俺はおまけみたいな扱いだったけど、それでもギビキは俺を大事にしてくれていると思っていた。

 そんな俺らに、アックーとルワーダが声をかけて来た。腕利きの剣士だったアックーと鉄壁の防備を誇っていたルワーダの二人は俺達の腕を見込み、「閃光の英傑」として立ち上がる事となった。

 それからはもうあっという間にランクが上がりまくり、FランクからDランクに上がるのに四年かかったのがDランクからAランクまでは一年でたどり着いた。



 それから放逐されたのは、まだ半月ほど前のお話だ。

 ——たった半月なのに、あそこまで運命が変わるもんなんだろうか。




「いい思い出があったのか?」

「ええ、ただの孤児だった俺に最低限の礼儀作法を教えてくれたのがアックーだった。それこそ故郷の俺は自分の名前ぐらいしか書けなかったしな」

 ギビキは私に任せておけばいいばかりだったがアックーはギルドの人間たちとの交渉の仕方や文字の読み書き、掃除や洗濯まで教えてくれた。

「その閃光の英傑がどうしたんですか」

「いや、俺とギビキは昔……ってほど前でもないけど」

「幼馴染であり、仲間でもあったか。その存在がどのようになってしまったか、キミハラ殿はどの程度までご存知ですか」

「知ってるよ、村を壊して処刑されたって。確かに私情交じりかもしれないけどね、村人からしてみれば当然だよ。なあ聖女様の生まれ変わりさん」

「やめてください」


 キミハラ様は手を叩きながら笑う。

 貴族らしい見識の深さを見せながら、それでいて口調が軽いし俺らへの差別意識もない。確かに理想の当主になるかもしれない。


「聖女様の事は私も尊敬しています。しかしそれはあくまでも伝説です。私はあくまでも自分のため、ノージ様のために何ができるかと必死になっていた結果であり、自分自身でさえも何を歌ったのか覚えておりません」

「一途な念ってのは強いよ」

「ミナレ様と同じ事をおっしゃるのですね……」

「ただ、全ては方向次第だ。その一途な念が間違った方向に行っちゃうと厄介だ。

 俺がもし、本当にリンモウ村の住民のためだけに動いてたら逆にオカマゴ村を滅ぼしてたかもしれないな、まあうぬぼれだけど」

「でも村人さんたちは言ってました。それこそ自分たちのために魔物狩りだけでなく牛の世話や雑草の引き抜きまでしてくれたと」

「それだよ」

 



 そして、何が恐ろしいかよくわかっている。


「聖女様の力を幾度も受け取りながらオカマゴ村の村民が堕落しなかったのはもう一種の奇跡だよ。あの村の住民はそれこそ下手な金銀以上の財宝だね。

 俺だって焦土と化した存在が一瞬で復興すれば嬉しいと思うと同時に恐怖を抱く。そして慢心も生まれる。その力があるのが当然だと思っちゃう」

「キミハラ様も……」

「ああ。それこそ一年の内半分以上オカマゴ村にいた事もあるからな。それこそ俺がいるのが当たり前のようになっていた。俺のいない暮らしを想像できなくなりはしないかって不安にも思った」


 俺の作るチーズにはそれぞれ力がある。

 だがそのチーズの力がなくなるか作れなくなるかなれば、その瞬間俺はただの冒険者だ。元々の孤児、いやそれ以下に逆戻りだ。


「だから、俺も聖女様や騎士様、その二人を従えるキミの事は当てにしない」

「ちょっと!」

「確かにその力はものすごい。でもそんな特異な力を当てにしていてはその力に呑まれてしまう。わかるだろ?」



 ギビキが絶対的に信頼していたのは、アックーでも自分の魔力でもない。


 俺が絶対自分になびくと言う根拠のない自信だ。


 俺ははっきりとノーと言ったはずなのに強がりと言う単語で片づけ通し、自分の言う事を聞かないとどうなるかと言わんばかりにオカマゴ村を燃やし尽くそうとした。俺を決して殺さず、俺の心を自分に従わせようとした。もしあの時ミナレさんや俺が斬らなくても、ギビキはああなってたかもしれねえ。



「貴族の権力を決めるのは、庶民の支持だ。別に媚びるつもりもないけど、庶民にそっぽを向かれたら貴族には何にもなくなる。貴族には何も生み出せないからね」

「そうです、か……」

「それでキミはこれからどうする気だい」

「考えていません。一応ここまで来た以上やるしかないとは思っていますが」

「じゃあ俺としては下がっていて欲しい。期待しない方がむしろありがたいからね」


 その言葉が、俺はものすごくありがたかった。


 なぜなら、俺には俺なりに考えていた事があったからだ。


「ミナレさん…」

「どうした?」

「俺、いったん帰ってみたいんです」

「帰る?」

「そうです。俺の故郷の村に」

「故郷と言うと」

「トウミヤ市のずっと南、ここからだと南南東です」

 俺なりにある程度冒険を楽しめた。それなりに金も得た。もちろん他に才能なんかないから冒険者をやめる事はできないけど、それでもいったん戻りたかった。

「責任でも取る気かい」

「まあ一応はそうですね。あいつは俺が殺したようなもんですから」

「幸せだね、でもその幸せが伝わるかどうかは別問題だ」


 ギビキは幸せだったのか。


 傍から見れば不幸だろうけど、少しでも幸せにしてやりたい。


 少なくとも、俺の中の彼女だけでも。


「うむ、私も付き合おう。ハラセキは」

「私も共に参ります」


 ミナレさんもハラセキも、俺に付き合ってくれた。


 ここ最近、かなり濃い体験が続いている。

 

 しばらくは心を休めたい。


 そんな自分勝手な思いに付き合ってくれる存在が二人もいるだなんて、俺はとても幸福なのだろう。

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