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シックスpieceチーズ  作者: ウィザード・T
第六章 ひとつの決着
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ひとつの決着

「雨だ!」


 ギビキがたくさんの牛を焼き、シロコトさんにまで火をかけていた。


 そんな火炎地獄の中に、いきなり大雨が降って来た。

「何だと!」

 ミナレさんでさえも戸惑うほどの大雨。


 その大雨はあっという間に火を消し、大地を癒して行く。


 まるで雨雲を呼ぶかのように鳴り響く歌声。




 そしてその主は!



「ハラセキ……!!」



 ハラセキの歌声が村を覆い、ギビキが出した炎を消し止めて行く。


「何するのよ!」


 そんなハラセキに対しギビキは火の球を投げるが、だいぶ手前ではじけ飛んで消えてしまう。

 ハラセキを白い光が覆い、どこか浮かび上がってるように見える。



 歌声が村中を覆い、炎と煙を消して行く。


 もちろん、シロコトさんのそれも。



「ああ、助かったぁ……でも、でも……!!」




 だがシロコトさんの嘆くように、草や牛は救われない。もちろん建物も。

 すでに一部の牛はこんがりを通り越して炭のようになり、草も柵も燃えてしまっている。

「そうよ、そうよ。結局はノージのせい。ノージのせい。全てはノージの責任。動けるでしょ?早くノージをとっ捕まえてよ?」


 その事実を盾になおもギビキは威張る。威張り散らかす。


 見た目は確かにギビキなのに、牛になっていたと言う事を鑑みても別世界の存在にしか見えない。

「お前はいつどこで乗っ取られたんだ?」

 そんなアホな言葉を抜かした俺だったが、自分自身がマヌケだとは思えない。たった十数日の間にそこまで別人のような顔を見せている存在が、どうしても同一人物には見えなかったと言うだけの事だ。


「本当ならあんたなんか必要ないの。でも私が、心優しい私がチーズを出すなんて珍しくもない才能しかのないあんたを迎えてやろうって言ってるの」

「そなたの目は節穴だな。幼馴染だか知らないが、ひとりのノージはそなた百万人の価値がある」

 って言うかいきなりミナレさんもミナレさんで何を言ってるんだか、俺もギビキも一人の人間のはずなのに。

「なにそれこわーい、本当マジ怖すぎー。って言うかガチのマジー?」

「取り繕うな!」


 そしてその声と共にまた斬り合いが始まる。これまでにないほどの剣速で剣を振りかざすミナレさん。

 もう俺には刃を目で追う事が出来ない。これがミナレさんの本気、怒りの刃だと言うのか。わかるのは、ギビキも打撃を受けてるって事だけ。


「何!?」

「つぅ」

「ああ……!」


 その事も声だけでしかわからない。ミナレさんの力ってのを、あらためて思い知った気分になった。その間も歌声が止む事はない。


 俺も負けじとギビキに近寄るが、その度に火の玉が俺を襲い避けるのがいっぱいいっぱいになる。やはり、俺とギビキの実力差は明白だった。


「どうしてよ?どうしてそこまでこんな奴のために」

「お前こそそうだろう。どうしてもノージが必要だから来たのだろう?」

「必要だって言うんなら、それはノージの性格の矯正。ほんの少しでも目を話すとすぐに調子に乗って身を持ち崩すからね」

 あくまでも上から目線。自分が何とかしてあげなければいけないと言う寒々しいアピール。

 でも実際、俺はこれまでずっとその言葉を受け入れて来た。


 現実として、俺は強くない。それは今も変わっていない。



 だがこうしてアックーがいない中で二人の女性に囲まれて接してみると、ギビキの言葉がちっとも響かなくなっている。

 まるで自分が意図的に行動を狭めているような、小さくなって生きるのが身の丈だと言い聞かされて来たような感覚。


 そんなシロモノが、体から消えて行く。


「んも~~~~~」

 それでもなおギビキは必死に抵抗している。気のない駄々をこね、自分の言う事を聞かない俺を必死に説き伏せようとしている。


 ああ、いやだいやだ。本当に嫌だ。



「も~~~」

「も~~~」

「お前、いい加減にしろ……」

「何よ、ようやっと素直、に、ぃぃぃぃぃ……!?」




 だがそんな駄々っ子の顔が、いきなり引きつった。




「おお、これは、これはぁ!」

「何、と……!?」

 そしてそれに続くように、シロコトさんとミナレさんの声が響く。

 衝撃と、それから驚喜の声……。




「はあああ!?」




 そして俺も、同じ声を上げた。







 ————————————————————火の意味が、なくなっている。






 

 牛が蘇り、草も生い茂り、さらに建物さえも元に戻っている。




「何だぁ……」

「これぞ、これぞ、聖女様の奇跡だぁ!」

「聖女様!バンザーイ!!」




 文字通りの奇跡じゃねえか。


 全てを焼き尽くそうとした火が消えただけでなく、その火の爪痕と呼べそうな物をすべて消して行く。


 ハラセキの歌声は、いったい何なんだ。







「ウギィィィィーーーーーーーーーーー!!」




 そんな歌声に混ざる雑音、と言うか歌声を阻止するために放たれた音波。




「何よ!何よ!何よ!何よ!何よ!何よ!何よ!何よ!そんなにもあたしに付いて来たくないって言うの!ナマイキッ!ナマイキッ!ナマイキッ!ナマイキッ!ノージのくせに!ノージのくせにぃ!!」

「自分が何を言ってるのかわからねえのか!」

「帰るわよ!帰るって言ってるの!」




 そしてとうとう、魔法の主はあちこちに魔法を放ち始めた。


 自分以外の全てを敵だと思い、動く物全てに、ありとあらゆる攻撃魔法を。


「おいバカ!そんな事をしたらもうどうにもならなくなるぞ!」

「うるさーい!とっととあたしの所にぃ!」

「自分が放った魔法がどうなってるのか見えてないのか!」


 その動く物全てを傷つけんと欲した魔法は当たる前に消えるか、当たったとしてもすぐその痕跡が消えている。

 圧倒的な力の差が、そこにはある。


「もうはっきり言う!俺はもうお前の物じゃない!」

「どうしてよ!どうしてそこまで強がりを言い続けられるのぉぉ!もうこれ以上、これ以上、背伸びしなくてもいひのほひぃぃぃぃ………………!」


 涙声。心底からの本音。醜すぎる本音。



「もらったぁ!」



 そして、その魔法の主に振り降ろされる、剣。



「あぐっ……!」



 その一撃により、ギビキの魔法はついに止まった。

 ギビキは力なく四つん這いになり、土下座でもするかのように頭を伏せた。


「おめえ、聖女様がいなくばこの村は滅んでたんだぞ!」

「そうだそうだ!」


 そこに、当然のように村人たちが迫ってくる。全く当たり前のお話だが、それでもギビキは動こうとしない。

 死んだにしては傷がない。


「ミナレさん」

「あれでも身体能力は健在だったみたいでな、結局決定的な一撃は与えられなかった。まあそなたからしてみればいろいろあるのだろうがな」


 俺がミナレさんとそんな事を言い合ってる間に、ギビキが頭を上げた。その頭に向かって村人さんが蹴りを入れようとした。

「アハ、アハ、アハハハハハ、ハハハハハハハ……!」

 そんな村人に向かって、ギビキは笑った。




「この野郎!」

「アーッハッハッハッハ、アーッハッハッハッハ……!!」




 蹴飛ばされても、まったく笑う事をやめなかった。




 そして。







「あたし、なんでノージがあたしにサカラウのか、もうじぇ~んじぇんわっかんにゃ~い……にゃは、にゃは、にゃははは……」







 ……ひどい。あまりにもひどい。


「ノージの自分への絶対服従は、1+1=2と同じぐらいの絶対的真理だったのだろうな」


 おそらくはミナレさんの言う通りなんだろうけど、それでもあまりにも無惨だ。

 美少女だったはずの顔ももう見るに堪えないほどに崩れている。


「のーじぃ……ほんものののーじはどこぉ?ねぇ、ちーずちょうだい……」

「ねえよ」

「あたしににゃんでさからうのぉ?にゃにもっちゃいぶっしゃってぇ、あは、あひゃひゃひゃひゃ……!」


 村人さんたちももう、何もできないまま取り囲む事しかできなかった。

 いつの間にか歌う事をやめたハラセキも、俺の幼馴染だった少女を哀れみを込めた目で見つめている。


「彼女は救えるか」

「無理です。彼女が救われたくないので」


 救われたくない。


 そう、ギビキにとっての救いは、俺がこれまでのように、いやこれまで以上にヘコヘコしてくれる事だけ。

 そんな選択を俺はする気はないし、こいつも俺に選ばせる事ができなかった。




「さようなら」




 俺は、なんとなくそう言った。


 笑う以外何も出来なくなっちまった、幼馴染に向けて。

今更ながらこれ幼馴染ざまぁだよな、これ。

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