吹雪の中を
「ずいぶんとズンズン進むな」
「雪の女王様が暴走しているのならばある意味好都合です」
「魔物には気をつけろよ」
俺たちは雪の女王様の所へ向かう事になった訳だが、相変わらずハラセキのテンションが高い。どう考えても戦闘力なんかないのに、まったくどこまで猪突猛進なんだか。
まあ幸いミナレさんが一緒だったけど、あれがハラセキだってにわかには信じられねえ。ほんの少し前までひどくおどおどしてたのに。
「雪の女王様は本来いい人なんです」
「その話は俺も聞いたよ、ちゃんと水と氷を提供してくれたって。もちろん単純に強かったらしいし」
この先に待つ雪の女王様は君主様と共にリンモウ村の住民には慕われてたらしい。それがどうしてこんな事になっちまったのか、確かめたくないけど確かめなきゃならねえだろうな。
っつーかハラセキも速いな本当!
「キミハラ様、ハラセキとは知り合いだったんでしょ」
「まあそうだけどな、ハラセキはもっとくたびれた顔をしてていつも何かに迫られてるようだったよ。お袋も親父もキミカッタもツヌークも、何の恨みがあるんだってぐらいつらく当たり散らしてな。あ、キミカッタはお袋へのご機嫌取りでやってたみたいだけどよ。俺は注意したんだよ、親父達に。睡眠時間六時間以外はそれこそ荷車引き以外にも皿洗いだの掃除だの、俺が変わろうとするとみんなもう派手に泣いてサボってさ……」
一日十八時間単位の労働、それも力仕事ばかり。
挙句少しでも誰かが手助けしようとするとわざとらしくキミハラ様の一家が泣いたりため息を吐いたりしながら、時には暴力を直接振るわずわざとらしく怠慢行為に走るらしい。そんな事までして働かせたいのかって、頭おかしいって次元じゃねえな。
「俺は双子とは言え長男だから一応後継のはずだったのにさ、すっかりないがしろにされてな。でも表向きに廃嫡できるような理由もねえからこんな所に飛ばされたんだよ。徒歩で二時間も要らねえ距離なのも決して自分たちはキミハラをないがしろにしてるわけじゃねえんだよってこざかしいやり口だ」
「何と言えばいいか」
「っつーか俺実はチーズ苦手だったんだよ、確かにお袋のチーズ料理はうまかったけどあれ食うと正直気分が悪くなるんだよな」
「それは…」
「でもしょせん好みって奴があるだろ、チーズにも好き嫌いがあるように人間にも好き嫌いがあるのかもしれねえ。俺はあの家族とは合わねえだけなのかもな」
口こそ軽いけど中身はやたらと重い。俺だってチラッと見てたけど、あの一家がそこまでおかしいだなんて想像もつきやしない。
「アックーはそれなりにまともだったですよ、バカってのは限度がないって」
「アックーってお前さんを放り出した奴だろ?まともな訳があるか」
「ありがたい言葉ですけど、急がないと」
って言うか女性たちは本当に足が速い。まあチーズを温める用しか食べてないキミハラ様に合わせている俺のせいだけど。
「あ、強くなるチーズ食べます?一週間ほど有効ですけど」
「もらっておく」
女たちが先に行く中、男は男にチーズを渡した。
「いかにもって感じですねー」
で、そんな風に吹雪の中を雪のうっとおしさと視界の狭さだけに苦慮しながら進むと、氷の城がそびえ立っていた。
ハラセキが悠長に城を称えるが、実際けっこうでかい。あげく透明な氷だらけなのでどこがどうだかよくわからない。見えてるのに見えてないって感じでどこに行けば女王様に会えるのかわからない。
「とりあえず静かではあるな」
「女王様はどちらですか」
ミナレさんの言う通り、吹雪は止み耳は楽になった。それでも目の前の問題は解決されていない。なんとかして女王様に会わなければいけない。とりあえず会った上で話を付ければ何とかなるかもしれない。
……とか思っていると、いきなり地響きが聞こえる。
氷の壁を適当に揺らしながら、次々と迫って来る地響き。
「魔物か!」
それならとばかり俺とミナレさんは剣を抜く。もちろん領主様も続いて。
「どんな魔物と戦った事があるのです?」
「コボルトぐらいだよ」
俺は嘘を吐く気はない、一応「閃光の英傑」としてはもっともっと強い魔物と戦って来たが、俺がこの手でやったと言えたのはコボルトやゴブリンなどの雑魚モンスターばかりだ。ギビキが魔法で雑魚を狩った後のさらなる余りを俺が残飯のように食い荒らす中、アックーとルワーダが大将を狩る。そんな流れだった。
「ファイト、ファイト!」
そんな情けない実態をカミングアウトしても全くひるむことなく、ハラセキは応援してくれる。
不思議なもんだ。正直この中じゃ一番弱いはずなのに誰よりも強く、そして誰よりもしっかりとしているハラセキに応援されたせいか勝てるという気になって来る。
「まったく、本当はハラセキを……」
「え」
「いや、来るぞ!」
そんなハラセキについて語ろうとして来たキミハラ様の顔が、一気に引き締まった。
「これか!」
「氷の!……巨人!」
全身氷でできた人型の魔物。
大きさはざっと俺の一.五倍。
そんなのが、四体でてきた。
「オオオオオオ………………」
「アノオ方、ノタメ……」
「サガレ、サガレ……!」
「イヤ、シネ……!」
そして、俺たちに一斉に襲い掛かって来た。




