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シックスpieceチーズ  作者: ウィザード・T
第四章 雪の女王
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リンモウ村

「こんなのがあるならばなぜすぐ出さなかった」

「いやでも、食べてくれた通りの味なんでまだ平気だと思ったんです……」

「でもすごいです、やっぱりノージ様はすごいです」




 あー、辛い。


 舌が赤くなりそうだ。




 だがさっきと比べると、風の冷たさがまったくなくなっている。


 とうとう氷まで見えて来たのに。




「あまり乱用したくないですけどね」

「だが見ろ。さらに寒さは増し、氷や雪まで見えている。ノージは」

「俺の故郷は雪なんか降らないですね。魔法とかで氷は見ましたけど」

「雪はきれいだ。だが同時に敵ともなる事はわかるだろう」


 道の部分だけは雪がないが、脇はかなり白くなっている。

 ほんの十五分ほど歩いただけのはずなのに、あまりにも変わりすぎている。

 あ、チーズの力があった事はこの際無視して。


「それにしても本当にすごいですね」

「これもあんまり使わないけどな」

「こらこら、ハラセキが言っているのはあの穴あきのチーズだろ」


 こんな会話ができる程度には、この真っ赤なチーズは強い。

 と言うかこんな所でなかったら、それこそ体が火照りすぎる。幸い引っ込めようと思ったら引っ込められるからいいけど、そうじゃなかったら俺はもっと吹雪くまで出そうとしなかった。







 まあそんな調子でリンモウ村に着いたけど、ある意味想像通りだった。


「レンガとか暖炉とか、それ相応の備えはしてあるみたいだが……」

「何かいかにも急ごしらえって感じですね」

 俺は雪深い村ってのがどんなもんか知らない。適当に春が来て、夏の日差しに襲われて、秋の収穫にキャッキャッと喜び、冬の寒さにため息を吐くような生活を繰り返していた。でも雪なんかめったに降らないし、それが積もる事もない。数日もあれば勝手に溶けて水になり、土に染み込んで消える。

「この辺りの雪っていったいいつ頃からある訳だ?」

「えっと、キミハラ様が当主になった頃からです」

 なんなんだよそのタイミング。キミハラ様とかって当主の長男が赴任した途端にそうなるだなんて明らかに嫌がらせじゃねえか。さっきもミナレさんが言ったように一応冬のそれっぽい備えはしてあるけど俺らの村と変わらないような小屋もあり、とても村中がそれに染まっているとは思えない。

「見た所吹雪はさらに北から来ているように思える」

 東西の空気は比較的穏やかだが、北の風は冷たい。


「ハラセキちゃん、そこの人たちは……」


 そんな俺たちに声をかけてくれた村人は、茶色い毛皮を身にまとって震えていた。ハラセキさんが頭を下げると、それだけで頭が白く染まる。

「ああ俺はノージと言います」

「私はミナレだ」

「そうか……ハラセキちゃんやお二人さんには悪いけど早くここから帰った方がいいよ。っていうかそんな薄着でよく平気ですね」

 声でやっとわかったがその女の人は言葉を震わせる。分厚い毛皮を着こんでいても寒いんだろう。

「それでも俺たちは会いたいんです。この気候の元凶に」

「そんな無茶な!それこそ早く帰りなさい!ああ、寒い!」

 話すぐらいならともかく、叫ぶと雪が口に入る。風こそやや弱まったけどそれでもそれでも視界は良くない。

「あの、チーズはいかがですか」

「チーズ……」

「確かに出そうと思えば出せるけど、あんまり乱用するのは、それこそ領主様の許可をもらわなければ……」


 確かにチーズを出せば目の前の人は救われる。だが元々自分で言うのも何だが割と劇物じみたチーズをそうほいほいと渡すのはどうにも腰が引けるし、だいたいこの村の人口がどれだけいるのかわからない。


「何をためらってるんですか!ノージ様!」

「ちょっと、ハラセキ!」

「私の時はできたのに、ファイチ村でもできたというのに!なぜこのリンモウ村ではできないんですか!」


 そんな風にためらっていると、ハラセキが俺に迫って来た。俺の体を揺らし、すぐさま出せと迫って来る。ミナレさんも目を丸くしており、ミナレさんをして予想外だったらしい。俺も黙って揺さぶられるしかなかった。


「大丈夫です!私が配ります!とにかくノージ様はあの辛いチーズを!」

「わ、わかったよ……」

「それでこれも一週間ほどですか」

「えっと、確かに二回ほどしかアックーたちに食べさせたことがないからわからない……最後はたしか半年前だったか……」

「それなら大丈夫なはずです!早くお願いします!」


 ハラセキっておとなしいと思っていたけど、いざとなるとかなり行動的なんだな。


 俺が押されるように次々とチーズを出すと、チーズを抱えて村中を走り回った。久しぶりとは言えこの村の住民全部に配るかのように走り出すもんだから、俺もチーズを出す以外の事が出来なくなった。


「雪と氷に包まれた中を村人のためにけなげに走る美少女、か……」

「あのすみません、どうぞ……ってミナレさん!」

「ああいかんいかん!」


 そのせいで俺もミナレさんも、目の前の女の人にチーズを渡すのを忘れてしまった事については平にご容赦願いたい。


 確かに、その時のハラセキはマジでかっこよかったよ、うん……。

男子三日会わざれば刮目すべし

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