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シックスpieceチーズ  作者: ウィザード・T
第四章 雪の女王
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雪の女王様

 俺とミナレさん、いやミナレ王女とハラセキさん。




 三人のパーティはお屋敷からさらに北へと向かう。


「お嬢様は立ち直れるのでしょうか」

「あの親ならば大丈夫じゃねえのか?よくお似合いだろ」

「下の兄上様が心配です」

「下の兄上、確かキミカッタと言う名前の」

「そうです、キミカッタ様はご当主様のお気に入りで、兄君様よりも気に入られており実質跡目と言っても過言ではないと思います」


 となるとキミカッタってのがあそこの屋敷の当主になる訳か。

 ってあれ?下の兄上って事はもう一人兄がいるんだろ?


「上の兄を差し置いて?」

「ええ、兄君様はご当主様の命でこの先のリンモウ村を治めていますが、あの村には私は一度しか行った事がありません。作物が実らないのです」

「作物の実りの悪い場所に配置するのは左遷と言うのではないか」

「って言うか作物の回収に行かせるのなんてメイドのやる仕事じゃないと思うけどな」

「クロミール奥方様の命でしたので」

「奥方様、かよ……」


 そりゃ貴族のご当主様ってのはいろいろ大変だよ?でもさ、だからと言ってメイドに関する職務丸投げってのはマジでありえなくないか?

 結果としてこうしてメイドさんに去られるだなんて、やっぱりダメじゃねえかなあ。


「キミカッタ様は正直恐ろしい方です。ご当主様に気に入られるために一日中剣を振り、そうでない時は書に目を通しています」

「働き者じゃねえか」

「だから、ご当主様に気に入られるためです」

「目の届かないところではさぼるのか」

「違います、誰を何を相手にしても手を抜かないのです。そのため目は常に血走り、誰も相手をしようとしません。しかし断ればやる気がないのかとものすごく責められます」

 口だけじゃなく手まで動くのかよ、しかもその手の動き方が尋常じゃないと来ている、こりゃ相当な難物だな。




「しかしそれにしても寒いな」


 にしても風が冷たい。そりゃあんな大立ち回りを演じた後だから多少冷たいのはいいけど、それにしてもって感じだ。雪こそないけどひたすらに風が冷たい。


 あんなにきれいなファイチ村からほんの三時間ほど歩いただけなのに。


「ファイチ村は実りの頃だったはずだぞ」

「この辺りは常に寒いのです。この寒さにより作物の実りが悪いのです」

「寒冷地でも取れそうなものはありそうだが」


 寒い場所でも寒い場所なりに採れる物はある……んだろう。俺が適当な事を言うとハラセキさんが首を横に振る。


「それがこの寒さは簡単な物ではないのです。言うなれば災害と言うか」

「災害?」

「実はこの北のリンモウ村には氷の女王なる魔物がいるのです」



 氷の女王!ずいぶんと大層な魔物だ。



「本来はそれほど危険ではないのですがここ最近は、と言うかキミハラ様がリンモウ村に着任した頃からかなりの状態で、冬の時期ならばまだともかくこうも長引くとそれこそ作物に関わって来ます」

「キミハラ様ってのが兄君様の」

「はい。リンモウ村に送られたのがおよそ五年前、以後リンモウ村は東のオカマゴ村などから援助を受けてかろうじて生き延びている状態なのです」

「ああ、わかったよ、本当よくわかったよ……」


 俺は寒さとは別の感情で体が震えた。

 そんな土地に送り込むだなんて、ほとんど左遷じゃねえか。氷の女王とやらを倒せばいいのにそれもしないで眺めてるだけだなんて、悪趣味ってレベルじゃねえよ。


「ああお姫様、俺たちの力で何とかしましょうよ!」

「そのお姫様とか、王女様とか言うのをやめてくれ」

「はあ?」

 憤りに任せてミナレ様に吠えたら、あまりにも意外な返事が返って来た。

「私はただのミナレだ。そなたはそう思って私に接していたのだろう」

「それはたった二日間だけで」

「私は困っていた、そなたは私を助けてくれた。そういう関係だ。これまで通りミナレさんでいい。なんなら呼び捨てでもいいぞ」


 確かに俺は田舎の村の孤児だ。

 それでも王女様とか以前に他人を呼び捨てにするほど礼儀がないわけではない。そりゃ腹が立てば言葉も荒くなるが、こんな立派な人に敬意を払わない理由などない。ああ、アックーとかは呼び捨て・タメ口でいいって言ってくれたけどな。

「そんなことできる訳……」

「そういう所が可愛らしいな」

「じゃあ私をハラセキって呼んでください」


 と思ったら、今度はハラセキさんが割り込んで来た。俺が作ったも同然の綺麗な顔をして、俺にそっと訴えかけて来る。

 正直、可愛いというかキレイだ。


「いやでも」

「これは私のお願いです」

「わかったよ、ハラセキ」

「そうか……」


 俺が頭を下げそうになったハラセキの願い事を素直に聞くと、ミナレさんは少し悲しそうに笑った。


「なあノージ、私はそんなに遠いか」

「いやその、なんていうか、こんな……」

「困っているではありませんかミナレ様、私はノージ様には感謝しているのです。ですが同時に恐れてもいます」

「恐れて……か。確かに私も少し怖いと思う事はある」

「恐れる……………………」


 恐れる、か。またもや、誰にも言われた事のない言葉だ。

 

「普通それだけの力を持てばおごり高ぶる。それをしないというだけで十分恐れられるに値する」

「でもアックーは恐れませんでしたけど」

「気になるか。もし今後同じような気持ちになったならば私にどんどん言え。もちろんハラセキもだ」


 そこまで言われたら、少なくとも呼び捨てなんか無理だ。様付けはともかくミナレさんより下の呼び方なんてできないじゃないか。

「あの」

「どうしたんだ」

「もうそろそろいいかと思ったんで」




 そんな素晴らしい人に応えるために、俺はまた別のチーズを出した。


 昔アックーたちと一緒に雪山に上り、白狼たちを倒した時に使ったのを。

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