甘~いチーズ
チーズケーキってお菓子があるらしい。俺は食べた事はない。
まあ平たく言えば、チーズを甘くしたデザートだ。
そんなチーズケーキに負けてないかもしれないチーズを、俺は作った事がある。
正直味以外あまり目立つ事はなかったけど、運命が動いたのはある時だ。
爪の鋭い魔物の攻撃を受け顔に傷がついてしまったギビキ。
それこそ一晩泣き明かし、回復魔法を使っても治らない事に絶望していた。
「少しは気分が紛れるかも」
そんな彼女にそう言って、甘いチーズを食べさせたことがある。
するとあっという間に傷が消え、元の顔に戻った。
その時はもう一生分の感謝をされたと思ったんだけど、本当わからないよな。
わからないというかわからなかったと言えばそれで治癒のチーズかと思ったが負傷した際に食べても効果を発揮せず、それでたまたまなのかと思って使わずにいたらある時病気で顔がブツブツだらけになってしまった女性の病を完治して欲しいという依頼を受けた際にやはり気を紛らわせるつもりでそのチーズを食べさせ、結果としてすっかり元の顔に戻った事がある。
この時、俺はこのチーズの意味を知った。
その報酬をアックーが取ろうとするとその女性が怒って俺に全部渡したけど、それからしばらくアックーは俺に金を寄越さなくなった事もあったな。
「食べればきれいになるかもしれないのか」
「わかりませんが、少なくとも汚い物はなくなると思います」
本来あるべきではない存在を消し去り、本来の姿に戻す。
逆に言えば、それまでの存在。
だから、俺は役目が分かってなおほとんどこのチーズを使って来なかった。さっき言った二回だけかもしれない。
「そなたはどうして彼女にこだわる?よほどの存在でなければご令嬢様に抗えるとは思えんのだが。ご令嬢様の美しさと来たら、それこそ隣国の王子自ら婚姻を申し込まれるほどだ」
抗わせるためにんな事をしてると思ってるのかね。俺はよくわからんけど女性ってのは誰だってきれいになりたいもんなんじゃないのか?
「私はいいですから」
「私がよくないのだ。ナオムン、もしこれが美しさを引き出すシロモノだとしたらどうだ?お前の敬愛するご令嬢様とやらにも食べさせたらいいだろう」
「ああはいはい」
ナオムンのハラセキさんに対する異常な敵意は何なんだ。ミナレさんに吹っ飛ばされたくせにみっともなくあがいて、本当見苦しいを通り越してちょっと怖い。
「ではいただきます」
深々と頭を下げて受け取る姿勢と来たら本当に気持ちがいい。ギビキは仲間同士だったかさっと引き取るというか引き抜く感じで持って行くだけで、アックーなんかはとっとと寄越せと言わんばかりにひったくって行く。その時は気にしてなかったけど、今こうされてみると正直むかつく。
甘味を込めたチーズをしっかりと噛み含め、ゆっくりと飲み込んで行く。さっきと同じように、本当においしそうに呑み込んで行く。
「うわっ」
そして口からチーズが消えたのとほぼ同時に、ハラセキさんの体が輝き始めた。
「ノージ!」
「俺もわかりませんよ!でも確か、以前もそんな事があったような……!」
目を開けていられないほどの輝き、だけど目にしていなければいけないと思い必死にハラセキさんを見据える。
この前のそれとは違う変化。見た目には変わらなかったそれとは違う、文字通りの見た目の変化。
我ながらとんでもない物を作っていたと言う事に今更気付く気もないが、それにしてもやたらとまぶしい。鳥たちも逃げ出すでもなく目線をハラセキさんに集中させ、変化を待っている。
「皆さん!」
そして当のハラセキさんは何が何だか状態だ。なんていうか、自分が何が起こったのかわかってない感じだ。
……って言うかギビキだってあんなに輝かなかった、よな……?
「ああ、あああ……」
わめいていると言うか断末魔の声を上げてる奴はほっとくとしても、この輝きは半端じゃない。まるで……
とか思っていると、急速に輝きが消えた。
まるで、輝きの役目が終わったかのように。
「誰だぁ!?」
そして、その空気をぶち壊した声の先にいたのは、エプロンドレスを着たハラセキさんだった。
だが、髪の毛は自分が放っていた光に照らされるかのように輝き、手も真っ白になっている。
さらに、顔からそばかすも消え、真っ白に、すべすべしそうになっている。
ついでに言えば、エプロンドレスも新品みたいになっていた。
「ああ、ああ、ああ……!」
まだナオムンが顎が外れそうなほどになっているのかと思ったが、ミナレさんだった。
目を見開いて顎が外れそうになりながら、ハラセキさんに手の甲を見せている。
「いやその、人を指差すのは失礼だとわかっているのだが、しかし、いや……」
それでも驚きが抑えられなくて必死の抵抗、可愛らしい上に正直カッコいいと思ってしまった。
「…………………………………ああ、わかった。わかった!わかった、本当によーくわかった!」
「何がだよ!」
「そのチーズとやらを、我らのぉ、ご令嬢様に、献上させてやろう!ありがたく、思え、な!アハ、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハ……」
で、ナオムンはちっとも変わらねえ。
どうしてここまで上から目線で居られるのか。
もう本当すげえよ。
ミナレさんやハラセキさんから目を反らし、全身をガタガタ震えさせながら言ってるからちっとも説得力はないけどな………………。




