山賊ギイゲンの最期(ギイゲン視点)
なんなんだ、この村は!
「親分!食糧庫を狙った連中が全滅です!」
「逃げて来たのか!」
「逃げられたのさえもあっしを含め数名、向こうの被害はゼロで」
「ふざけんな!」
ほんの数日前、軽ーく隅っこの畑を荒らしてやった事もあった。おとなしくこの村を俺らナウセン団に明け渡せば悪いようにはしねえっつーのに、なんでどいつもこいつも無駄に抵抗するんだか、賢い俺様も訳が分からねえ。
だからもういい加減、俺様達に何度ケンカを売っても無駄だって証明するためにこうしてしつこくやってたのによ、どうして急にこうなった?
——————————どうして急に、村人たちが強くなった?
「今夜は一斉に攻撃をかける。強え奴がいてもどうせ数人だ、それはこの俺様が抑え込む。てめえらは弱そうなところを執拗にやれ」
いつものように、そういう事に慣れ切った連中と共に攻撃をかけたはずだった。
「この野郎!」
「親の仇ぃ!」
かつて俺らが殺してやった邪魔者たちの家族が必死こいて農具を振り回す。やれやれまだやってんのかと思ったが、遠めから見ても速い。
まあ無理をしているのは明らかだから一発受け止めてから返せばいいだろと思っていたし子分たちにも言い聞かせていたが、その後が問題だった。
「この程度ぉ!」
「はぇ!?」
棍棒で思いっきり頭かち割ってやろうとしたのに、まともに受けた上で全くひるまず反撃してきやがる。そうやってできた一瞬のスキのせいで子分たちが次々とやられ、やられたせいで動揺してまた犠牲者が出る。
「どうします?」
「シューキチを狙うしかねえか!こんな時には一番強い奴をやれば何とかなるんだよ!」
「逃げねえんですか?」
「こんな負け方をしたら連中はこっちを追い込みに来る、そうなりゃどっちみち全滅だ」
全滅って言葉に子分は動揺してたが、実際このままじゃ全滅ってのは非常にわかりやすい。何せ、いくら時間が経っても村の連中が死んだという話が入って来ねえ。ったく、本当なら最悪一人でもやったらその事を最大の成果と宣伝してとっとと引き上げるまでありかと思ってたのによ、大誤算ってレベルじゃねえぜ!
そんな訳で村長のとこへと走った俺の目に入ったのは、あのシューキチの娘だ。
「こ、このバケモノ女!」
「バケモノとは何よ!」
小生意気に剣なんか握り、俺の手下を斬り殺している。少し気が強くて、そのくせ父親にはべったりで、中途半端な長さと色の毛を振り乱して、まったくむかつく女だ。
ああ、手込めにしてやりてえ。
「おいヤヤコ!」
「ヤヤよ!」
「てめえら、よくも俺の手先どもをやってくれたな!」
「それはこっちの台詞よ、よくもこの村の人たちを!」
「それはてめえらが弱いから悪いんだろ!」
どうしてその事が分からねえのかな!
「確かにそうかもしれない。でも今の私は、いや私たちは強い!」
「そんな訳ねえだろ!」
そんな訳がねえ、そんな訳が……!どうしてだ、どうして、たったの数日、いや数時間で……!
「お前がギイゲンか!」
俺が必死こいて混乱を鎮めようとしてるところに割り込んで来た、別のガキの声。
今度は男。しかも、いっちょ前に剣に血なんか付けてやがる。
そんで、あのヤヤって小娘の顔が崩れやがった。
「ほぉー、ほぉー……!」
そうかそうか、こんな男に惚れてるのか。こいつをやっちまえば戦意喪失っつー訳か……。
「この野郎!」
俺がそいつに向かって剣を振り下ろすと、まったく甲斐もなく逃げ出した。囮だか知らねえが本当に情けねえ奴だ。
そう思ってしまったせいか、足が少し鈍った。
「うあああ!」
で、その隙を突いて、小娘が突っ込んで来た!俺は丁寧に攻撃を受け止め、右手一本で剣を握り直す。
「愛しの彼氏様は当てにならねえじゃねえか、ひどい戦いだったけどてめえだけでも連れて帰ってやろうか!」
「できる訳ないでしょ!」
「やってやろうじゃねえか!」
俺は渾身の力で剣を叩きつけ、女の武器を叩き折りにかかる。
叩き折る事はできなかったが大きくぐらつく。
今しかねえとばかりに左腕を突き出し、その腹に叩き込んでやる。
「うわああああ!」
…………本当に、やんなる!
声ばっかりデカくあげて、まるで俺らのように筋骨隆々な盾はこの俺の拳をしっかと受け止め、派手に吹っ飛ばされた。
「親分……あのマセケって野郎に担がれたんじゃ……」
マセケって言う、ついさっき俺らの山に逃げ込んで来た野郎。
チーズを作り出すとか言う小僧と頭痛を抱えた女騎士にやられた恨みを晴らしたいとか言ってやって来た野郎。まあ村の事をそれなりに知ってるし使ってやる事にしたけど、あの物言いは嘘には聞こえなかったぞ。
「まさかチーズだけでこんなに強くなったんじゃ」
「馬鹿も休み休み言え!」
「でもあの頭痛女から急に頭痛がなくなるだなんてそれこそありえねえんじゃ」
「ふざけるな!とにかくあの女を手込めにしてやるぞ!」
そこまで言った所で、子分の首が飛んだ。
「頭痛女、か……!」
「ミナレだ」
ミナレ。
優秀な女騎士だったけど、ある時から頭痛に悩まされてまともに力を発揮できなくなっちまい、それから頭痛女って呼ばれるようになった女。
「頭痛女の分際で俺に逆らうのか!」
「逆らうが」
「ふざけんな!その首叩き落としてやる!」
俺はここぞとばかりに、全力で剣を振る。
狙いは、左手首。
「食らえぇ!!」
俺の剣を全く受け止める様子もなく、頭痛女は剣を突き出して来る。
そして、俺の剣は確かに頭痛女の手首を捉えた。
「……なんだよ、またかよ……!」
俺の剣はこの女の手首を斬れず、血の一滴すら出せない。
一方で俺はこの女の剣をまともに受けてしまった。
「ちき、しょう……本当に、チーズ、だけで……」
「手甲とチーズの二段構え、本当に最強だな」
チーズ、かよ…………。
ったく、チーズだけでこんなにも運命が変わるもんかよ……。
あーあ、チーズ喰いたかったね、そんなすっげえ奴を……。
んな事を考えながら、俺はこの世界から旅立った。
次回はアックー視点だよ!




