山賊との戦い
「何を立っているんだ」
「いや、横になると寝そうなんで……」
腹ごしらえを済ませた皆さんを家に帰し、俺はミナレさんと一緒に割り当てられた家へと入る。
そこは空き家だけど荒れてはいなくて、ついこの前まで人が住んでいたようだった。
「この家にはヤヤの叔父夫婦が住んでいたらしい。だが少し前の山賊の襲撃で二人とも殺され、二人には子どももいなかったためこうなっている」
「ひどいですね」
「そうだ。他にも多くの家庭が片親や孤児になっている。これだけでも山賊の罪の重さが分かるだろう」
「確かに……」
「そう言えばノージも孤児だと言うが、最後の両親の記憶はいつだ」
「覚えてません。ただ村人は数年前に流行り病で持ってかれたと言ってますけど。でも確かに大事にしてくれた記憶だけはあります」
確かそのころまでは親がいて、二人とも俺のために頑張ってくれたことだけは覚えている。その後は文字通りの一人ぼっちで過ごして来た。でも決して、親たちに見送られて村を出たギビキや、同様の扱いをされたというアックーやルワーダには負けていないと思う。まあ勝ち負けの話じゃないけど。
「山賊たちだって人間だ。人間ならば同じ感情を持ってしかるべきだろう。
コボルトたちを見ただろう、コボルトとて作戦を組む。我々を倒すために。山賊とて同じだ」
「あのー…」
「相手を倒す、と言うか凌駕するためだけに頭を回していては魔物と変わらんと言う事だ」
本当、その通りだ。
みんなそれぞれの勝ちを追う、それだけじゃダメなんだろうか。
でも実際、食べ物には限りがある。チーズだけでずっと暮らす事などできない。栄養が偏るし、量も知れている。確かについさっき村人ほぼ全員分のチーズを出したとは言え、正直そんな力などいつまでも発揮できるかわからない。いっその事、みんなが好きな食べ物を呼び出さればいいのに。
「来た!」
そんな俺たちの耳に飛び込む、跳ね上がるような声。
「来たようだな!」
「行きます!」
ついに、ナウセン団が来たのだ。
「無理をするなよ」
「わかってます!」
俺たちは、シューキチさんの叔父夫婦の家を飛び出した。
ナウセン団に殺された、シューキチさんの叔父夫婦の。
「なんだこいつ!」
「この野郎!」
「おいどうなって、いででで!」
「これ以上やられてたまるか!」
既に戦いは始まっている。薄暗い中あっちこっちから歓声と悲鳴が上がり、殴る音や斬り合う音もする。襲撃とかじゃなく、ほとんど戦場だ。
「ギイゲンはどこだ!」
そんな中、ミナレさんは首領のギイゲンを探している。俺はとりあえず、目の前の敵を倒しに行く。
「この!この!」
「まだだぁ!」
山賊が村人に斬りかかっている。村人さんも必死に受け止め、押し返そうとしている。
「なんだ、このガ」
そして俺は、いつものようにそっと近づき脇腹を刺した。
「い、てめぇ、この……!」
そこまで言った所で山賊は村人の素早すぎる一撃を頭に受け、頭から血を出しながら動かなくなった。
「他にも危ない所がありますから」
「ああ!」
二発目を入れようとした所であわてて止めたが、その時の村人の顔は怖かった。おそらく家族を誰か殺されたかしたんだろう。でも今はまだ、他の山賊を片付ける方が先だ。
「なんだおい!これが痛くねえのか!」
「うるせえ!俺のお袋を返せ!」
「なんで立ってられ」
「バーカ甘く見るからだ!」
「そんな、俺は確かにはっきりと!」
「そんな非力で俺がやられるかってんだよ!」
……そう思って駆け出してみたが、どこを見ても村人優勢。
「てめえ!くたばれ!」
「そんなんで!」
「バカな、俺の渾身の一撃が……ギェッ!」
この一撃で決めてやる→効いてない→そんな馬鹿なと動揺する→村人の反撃で一撃死と言うパターンが連発。次々と山賊たちが倒れて行く。
そしてそれは、男だけではない。
「人の旦那に何をしてくれたんだい!」
「私のパパ返せー!」
「この子から両親も姉も奪いおって……!」
女性も、子どもも、老人も、みんな戦っている。
「何だこの野郎!」
その子供の頭に山賊が棍棒を振り回すけど、女の人の鍬が棍棒を叩き落とす。その隙を付きおじいさんが駆け込み、山賊の腹を殴る。
そしてその子供は棍棒を拾って、避けきれなかった山賊の左肩に直撃させる。
「おかしらはどこだ!」
で、俺はこうして叫ぶ事しかできない。
「知るかよバーカ、あい、いぐ、うぇ……」
それで当然のように山賊が白を切ると村人たちが倒れ掛かった山賊の腰を踏みまくり、武器を取り上げては他の山賊を殺しに行く。
「なんだこのチーズ野郎!」
そんな俺の前に現れたのは、顔を目以外布を撒いて隠した男だった。山賊かもしれないが、それにしてもやけに声が太い。
「覚悟しやがれ!」
俺はそいつの一撃を横に飛んで避けようとしたが、思ったより大きく飛んでしまったせいか着地時にバランスを失った。右足一本で体を支えるような形になり、倒れ込みそうになってしまう。
その俺の顔に、金属の板が突っ込んで来る!思わず、目を閉じずにいられなかった。
……痛くない。
バイーンと言う音だけが俺の耳に鳴り響くが、それでも顔にもまともに傷はついていない。
「…………え?」
そして俺はこの機を逃す事なく、そいつの脇腹に自分の剣を差し込んだ。




