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赫奕たる魔光は天に漲る  作者: うーぱー
エピローグ
68/69

e-2 紡がれる希望

 人のような見た目のドワーフ、フランギースは貧民街焼失時の数少ない生き残りの一人だ。


 就寝中に不審な気配を感じ小屋を飛びだしたところ、バーン配下の銃士と鉢合わせになる。至近から5.56x45㎜魔力弾を喰らい倒れるが、近距離だったことが逆に幸いした。魔力弾は腹部から体内に侵入し、勢いを失わず筋膜に沿って進み、背中から体を出た。弾丸が体内で反射して臓器を傷つけることも、魔力が炸裂して周辺組織を破壊することもなかった。放置すれば失血死に至る怖れはあるが、少なくとも撃たれた直後のフランギースは、痛みを堪えて立ち上がるだけの余力があった。

 銃士がフランギースの生死を確認せずに立ち去ったのも一命を取り留めた要因だ。フランギースは傷口を押さえ、炎上する街で生き残りを探す。小屋の中で歩けないでいた女性を見つけると背負って歩きだす。フランギースは流れ弾でも食らったのか、いつの間にか顎が血まみれになっていて痛むが、口腔内の血を吐き捨て、口気軽くエルフの女性を励ます。


「しっかりしろよい……。直ぐに、安全な場所に連れていってやるからのう」


「リッキが……。リッキが連れ去られた……」


「リッキが? ……心配するな。後でワシが助けに行くから」


「ねえ、旦那、火の回りが早いよ。……このままじゃ二人とも助からない。私はいいから、一人で逃げておくれよ……」


「おっとぉ……。それはできねえなあ。なんせ、サルーサちゃんのおっきなおっぱいがワシの背中にあたっておるからのおっ。むほっ。暴力的な柔らかさ。艶福よのぅ。ようやく触れることのできたこんないい女、置いていくわけにはいかん」


「もう、お金、取るよ……」


「おう、おう、払うから、しっかりせえ。直ぐに、太ももの姉ちゃんを連れてきてやるから、くたばるんじゃねえぞ」


 けらけらと笑い空元気を振り絞るが、フランギースは瓦礫に足を引っ掛け、バランスを崩す。負傷している彼には、体勢を立て直すだけの余力はない。しかし、素早く駆け寄ってきた者が彼等を抱きとめる。


「まったく……。ワシの女神は力持ちだのお……ッ」


「大丈夫? いったい何があったの」


 火事の騒ぎに気づいて駆けつけたアイリだ。消防活動は凱汪銃士隊の任務外だが、彼女は顔見知りを救うために、魔銃を手にして寝間着のまま飛びだしてきたのだ。魔銃によって身体能力が向上している彼女は、大柄なフランギースとサルーサを同時に支えるだけの膂力がある。


「前もおっぱい、後ろもおっぱい、役得だのお……」


 フランギースはだらしなく鼻の下を伸ばす。だが、その頭の中では、貧民街に火を放った者が凱汪銃士隊であることを同組織に属すアイリに告げたらどうなるのか、思考している。


(十人はいた……。男だからアイリの隊ではないはずだが……)


「治すから、いったん下ろすわよ」


 アイリは二人を地面に横たえると、魔銃を構える。


「魔銃起動。二人を治して《灰色の天使》」


 天使の姿をした召喚銃が二体出現し、二人の傷を癒やす。


「灰色の天使……か」


 フランギースは闇夜の炎に照らされた召喚銃を見上げ、不意に、既視感を覚えた。それは十二番隊の隊舎から脱出する際、暗がりで見た物だ。隣の牢にいたキーシュとかいう陰気くさい男が、暗い物置で荷袋にしまった物。


「キーシュは天使を探していたのか……」


 何気ない呟き。


「フランギースさん、何か言った?」


「いや、なんでもない。助かったよい」


「ちょっと、動かないで。私の能力は、魔力の強い人には効きにくいから……。フランギースさん、魔銃使いの才能、あるかも……」


「それがのお……。まだ逃げ遅れがいるかもしれんから、休んでいられないのよ。アイリちゃんはサルーサちゃんを頼む。それから、他に逃げ延びてくる者がおったら頼む」


「それは、言われるまでもないけど……。分かったわ。けど、お腹だけは治すわ。見た目より重症よ、それ。もう少しだけじっとしてて」


「……分かった」


「ねえ、リッキちゃんは何処?」


 サルーサが返答しようとするが、フランギースが先回りして答える。銃士隊に連れ去られたことを告げるのは、今は拙いと判断したのだ。


「……詳しくは後で説明する。サルーサちゃん、リッキのことはワシに任せろい」


「うん……」


「よし、終わり。でも無茶は禁物よ」


「もちろん」


 フランギースは手でお椀を作って胸にあて、ニヒヒと笑う。


「サルーサちゃんの胸もアイリちゃんの胸も気持ちよかったからのう。もっと、もっと、かわい子ちゃん、助けてくるからの!」


「うーわ。さいてー」


「ほんじゃま、行ってくる」


 直ぐに表情を引き締めたドワーフは炎上中の貧民街に戻り、灰で顔を黒くし両手に火傷を負いながら、四名の生存者を救助した。自力で脱出した者も含めて、最終的に百名が難を逃れた。正確な人数は把握されていなかったが、貧民街には千名を超える亜人が暮らしていたはずだ。

 避難した者達は外堀の縁に力なく座りこむ。家を失った人々を見捨てるわけにもいかず、アイリが隊舎に余った部屋がないか考えていると、サルーサが遠慮がちに話しかける。


「あのさ、銃士さん」


「あ、はい、なんです?」


「寝床の心配、ありがとうね。今日は堀の近くで過ごすよ。皆、まだ火が怖いし、水の近くが安心できるしね」


「でも、明日以降は……」


「それが、行くあてはあるんだけど、場所が分からなくて……。銃士さんなら知っているかなって思うんだけど」


 奇妙な物言いに首を傾げ、アイリはあてについて尋ねる。


「シルフィアっていうんだけど、知らないかな? 軍のそこそこお偉いさんになっていて? お城に住んでいるらしいんだけどさ……。一緒に住もうって何度も誘われているんだけど、迷惑になるから遠慮していたんだけど……。頼めば、泊めてくれると思うんだよ。でも、何処に城があるか分からなくて……」


「……はへ?」


 フランギースが助けた女エルフの名はサルーサ。かつて、貧民街で身寄りのないシルフィアを育て、親代わりとなり姉代わりともなった女。


「シルフィア卿……。知ってる。というか、昼間、見かけたばかり……。ええー。知り合いなんですか?」


 アイリは、つい半日ほど前、北方将軍シルフィアを間近で見て、ぺっきりと心を折られている。失禁しかける程、恐怖した。


「思いだすだけでも震えるんですけど……。え。お知り合い?」


「うん。あの子は私の妹みたいなもんだよ」


「あれの姉なら鬼神か魔神じゃないですか……」


「え?」


 アイリは翌日、陽が昇ったら貧民街の住人と共にシルフィアの居城へと徒歩で向かうことに決まる。この時点でアイリは被害の全容を把握していないため、リッキの身に起きたことを知らない。フランギースが「任せろ」と言っていたので、その言葉を信じた。彼は常におちゃらけた態度をとるが、身のこなしに隙がなく、まったくアイリに背を向けないことに彼女は気づいている。胡散臭いが、信頼に足るのだ。


「あ、あー。とりあえず、いったん帰ります。休みたい……。あー。怖くてちびるかも……。替えの下着、持ってかなきゃ……」


 替えの下着は冗談だったが、アイリは助けたばかりの亜人種から一時的に目を離してでも、自宅に戻る理由があった。昼間、シルフィアとの戦闘で負傷した銃士を治療し、さらに今、罹災した亜人種を治療したため、アイリの魔力は尽きかけていた。倦怠感があり、部屋で休みたかった。

 第三円区にある私邸に帰り、アイリは煤で汚れた顔や手を洗いながら、ベッドで眠ったままの男に声をかける。


「明日からちょっと出かけることになるわ。走れば往復しても一日かからないんだけど、徒歩の集団と一緒だから、日帰りは厳しいかなあ。色々とごたつくと思うし、直ぐには戻ってこれないかもしれないの」


 どれだけ声をかけても男は目を覚まさない。アイリはやや不満を顔に出しつつ男の寝顔を見つめる。


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