5-8 アッシュとバーンの決闘
「あら。アレがユニコーン?」
「あれはただの馬だ」
状況にそぐわない問いかけにアッシュは面食らう。だが、シルフィアの規格外の強さに呆れるあまり正常な思考を乱されているからこそ、問いかけには素直に答えた。
「ユニコーンは角と翼が生えているし、背に乙女しか乗せない」
「あっちに子供の馬がいるわ」
射撃は続いており、魔力弾の閃光がすぐ傍で煌めいて宙空に透明の波紋を広げているが、アッシュはシルフィアの視線を追った。
「あれはロバだ。馬とは違う生き物だ」
「どう違うの?」
「どう違うと言われても……。確かに見た目は小さい馬だな……。いや、そんなことよりも、これは大丈夫なのか」
魔銃による攻撃は続いている。アッシュは自身が所属していたラガリア王国国境警備隊一万が壊滅したときの攻撃を思いだした。それに比する攻撃を無視してシルフィアは馬やロバを観察しているのだ。
「大丈夫よ。あいつ等、大した魔力じゃないわ。私が無意識のうちに周囲に零している魔力量の方が上回っている。無駄だと分かれば、そのうちやめるでしょ」
気負いもなく言うとシルフィアは、射撃の雨が降りしきる中を銃士達へと向かって歩きだす。アッシュも後に続く。
全力の攻撃を意にも介さず前進する姿を見た銃士達に動揺が広がる。中には20㎜を超える大口径魔力弾すら含まれるのに、シルフィアにかすり傷一つ追わせられない。それは、シルフィアが体の周囲に纏う魔力場の方が、装着型魔銃の甲冑よりも防御力が高いことを意味する。銃士が恐慌に陥りかけるが、ルルアッドは自衛のために帯びている騎士剣を掲げ、鼓舞する。
「怯むな。そのまま射撃を続けて、奴の意識を引きつけろ。恐らく全魔力を防御に当てている。じきに限界が来るだろうし、向こうは攻撃をする余力などないはずだ。それに」
弾幕が張られる反対側で、ルルアッドの召喚銃がゆっくりと上空に上がる。破壊できない物はないという自負がある。大空を舞う『突撃する鷲』は無敵だと確信している。どのような達人でも、頭上からの攻撃など喰らった経験がないのだから、反応は遅れる。さらに、ルルアッド・ルドニクルは奥の手を秘めている。最初の邂逅でこそシルフィアの能力に驚嘆したが、冷静になれば対処は可能。掲げた剣とルルアッドの瞳が鋭い輝きを放つ。
「射撃、やめ」
ルルアッドは剣を降ろし、味方の攻撃を止める。彼我の距離、約百メートル。ただし、舞い上がった土煙により、両者は互いの姿を認めない。ただ、四輝将軍と隊長は、相手の魔力から位置を察した。
「北方将軍、それ以上近づくようなら、手加減はできない。下がれ」
「……はあ。粗野な男ね」
シルフィアはため息。疲労があるわけではない。大きな声を出して返事をするのが億劫なのだ。小柄な少女が白い手袋の手を振ると、それだけで旋風が起こり周囲の砂煙が一瞬で晴れる。
「アッシュ、あとは好きにしていいわ。この状況なら、バーンも一騎打ちに応じるでしょ」
「恩に着る」
「いいのよ。多分、私の方が、恩が大きいわ」
「それでも感謝している。ありがとう」
アッシュはエプロンと服の間から魔銃を手にし前に進む。幸いなことに、ユウナには魔銃使いとしての素養があった。シルフィアの魔力場から出ると同時に、自分に追跡用の魔力が幾つも投射され、肌がひりつくのが分かった。シルフィアと共に登場したから、魔銃使い達は小柄な侍女にすら油断しないらしい。撃たれたら一瞬で、ユウナの肉体は蒸発するだろう。だが、臆する必要はない。死ねば、敵の意識を乗っとり、バーンに接近することを意味するのだから。
「凱汪銃士隊十二番隊副隊長バーン・ゴズル、俺と一騎打ちをしろ! 応じれば、決着の如何に拘わらず北方将軍は下がる」
アッシュは声を張り上げ、反応を窺う。小柄な少女から発せられた男言葉に、騎馬の一団は怪訝な表情を浮かべる。軍馬の群を掻き分けるようにして、バーン・ゴズルが出てくる。
「テメエ、いったい何者だ」
アッシュは右手で拳銃を構え、バーンの額に向ける。左手は胸中に入れ、天使像を握る。
「お前に友人を殺された死人だ。会いたかったぞ、バーン。俺は貴様を殺すために何度も死を越えてきた」
「ああ、なんだテメエ、俺に家族でも殺されて気がふれたか? なら、キールトかペールランドか、何処の豚だ。豚鬼を殺して何の罪になるっていうんだ?」
「つまらん遺言で終わるなよ」
アッシュは頭部を狙って5.8x18㎜魔力弾を単射。弾丸はバーンの顔面に直撃。冑に覆われていないヶ所だ。だが、バーンの発する魔力場が威力の大半を減衰。バーンは平然としており、首を仰け反らしすらしない。
「6㎜ねえな。5.8ってとこか。魔銃には適合したが、能力不足で銃士隊には入れなかった口か? なら、無能の逆恨み――」
嘲りながら隙をさらけ出しているので、アッシュは左手を添えて両手でしっかりと構え、口の中を狙い、発砲。狙いは精確だったが、バーンが魔力弾を噛んで止める。上下の歯に挟まれたまま回転し続ける魔力弾は噛み砕かれ、口から魔力の残光が漏れ煌めく。




