4-10 精霊教団の目的
村の中央広場で、ファンタズマは仲間たちと輪になる。
「この村で泊まること決定ですよ~。いやあ、皇都に向かっていたら、途中で野宿になるところでしたね。田舎のくせに美人で賢いお姉さんが、突き放すフリして、欲しい情報を全部くれましたよ。皇都名物の天望虹彩宮殿の花弁こと巨岩。アレが全長二百メートルで角度が四十五度。天気が良ければ、この村から先端が見えるということは」
ファンタズマは木の棒を拾って地面に図と計算式を書いていく。実際には頭の中で計算は済んでいるので、手癖で落書きしているだけだ。
「皇都まで約三十キロメートル。お馬さんに頑張ってもらっても、夜になっちゃいますね。お姉さんが教えてくれたように、村長か教会を尋ねましょう。別に我々、精霊がこの世界に帰ってきてくれればいいだけなんで、異教の教会にも普通に行けるんですけどねー。というか、光の神の信者は手ぇ、上げて! わお、いた! 異教徒め、囲め、囲め」
ファンタズマは自分で手を上げ、全身をくねらせる。奇行には慣れているので同行者達は相手にしない。
「それよりも、血の確認だ」
「はいはい、はーい」
ファンタズマは地面に頭突きするかのような勢いで倒れると、白衣の中から小瓶を取りだし、地面に置く。じっと確認すると、瓶の中で赤い液体が揺れ、まるで何かに引き寄せられるかのように、瓶の側面に盛りあがる。
「南東ですねえ。血が向かいたいのは、ここじゃなく、ロアヴィクラートみたいっすね。予想どおり過ぎ? 精霊なら山や森かと思ったんですがねえ? いやいや、ときめきます。果たして、森の中に落ちていた焼死体から手に入れたこの液体は何処を目指すのか!」
ラガリア王国の捕虜が銃士隊に虐殺される直前、精霊教団は昼の戦場跡を調査していた。彼等は戦場で一つの焼死体を発見し、頭部や内臓等、精霊が宿ると信じられている箇所から灰を採取した。教団は、精霊は亜人種に捕食されから消えたという仮説を立てている。そして、精霊が亜人種の血肉と化したのなら、亜人種が死ねば精霊は解放されるのではないかと考えた。
「精霊を食べたのが亜人種なら、人族の死体は焼こうが水に沈めようが精霊なんて出てくるはずないんだし、ラガリア担当なんてハズレを掴まされたかと思ったんですけどねえ。それが、どうして、旧ペールランドの、死ねば精霊になるという信仰、興味深いよね。しかも焼死体から採取した灰、真っ赤な液体に変化して私達を何処かへと導いている!」
彼等は液体が瓶の底に溜まらず、側面に張りつくことに気付いた。瓶の向きを変えても、液体は常に一定の方へ向く。その先に、精霊の手がかりがあると彼等は推測した。
「ロアヴィクラートまで全力で走れば、日没前に間に合うかもしれませんよ? 走ります? 走るのに賛成の人、手ぇ、上げて。わお、私一人」
少数派になりながらも、馬を繋いだ木へと駆けだそうとするファンタズマの襟首を、教団の一人が掴む。
「皇都が近いとはいえ、夜が近づけば野党に出くわす怖れもある。今日はここで泊まるぞ」
「わお。現実的。非現実を追う私達がそれでいいのか! 常識という眼鏡を掛けていたら、精霊の姿は見えないぞ! わーお!」
襟首を掴まれたままなおファンタズマが前進を止めないので、別の一人が背後から胴を掴んだ。その際、両手で女の豊かな胸を鷲づかみするような姿勢になってしまうが、まるで性的な興奮を覚えなかった。女の奇行を見続けているので、股間に訴えるものがないのだ。外套の二人がファンタズマの腋を抱え、引きずる。彼等は夜露を凌ぐために教会へと向かった。




