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赫奕たる魔光は天に漲る  作者: うーぱー
第四章 欲望鬱勃
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4-8 A級クエスト・オーク討伐

「蹴られると痛いだろ? 血が出るだろ? お前が足を踏んでしまった豚も痛くて泣いているに違いない。なあ、ミッケル、泣くな。豚に言うことがあるだろ?」

「うっ……。ひぐっ……。はい……」


 ミッケルは涙を拭い立ち上がると、足を引っ掛けてきた冒険者に頭を下げる。


「ごめんなさい。臭すぎて顔を逸らしてしまったので、僕の足元に豚野郎の足があると気づきませんでした」


「上できだ。ミッケル。だがな、豚の頭には糞が詰まっているから言葉を理解できない」


 バーンは前に出るとミッケルを後ろ手に押してパドルに押し付けると、眼前の冒険者を左腕で殴りつける。一撃で昏倒させると、次の冒険者に蹴りを放つ。唖然としていた他の冒険者達もようやく正気を取り戻し、乱闘が始まる。

 飛んできた椅子を屈んで避け、パドルはミッケルを抱えてギルドから飛びでる。


「ああ、もう、右腕は治療中だというのに、あの人は……。ミッケル。じっとしていろよ。魔銃起動」


 パドルの魔銃が発光し、ミッケルよりやや大きいくらいの人型に変化する。輪郭自体は人型だが、黒鉄色の直線部品で構成されているため、間近で見れば生物ではないと一目で分かる。使い魔が拳銃でミッケルの顔面を撃つ。すると、一瞬で傷が治る。


「ん? 歯が再生しないな。乳歯だったのか?」


 前歯の欠けた顔でミッケルは愛嬌を振りまく。


「ありがとうございます。パドルさん」


「礼を言うなら、いつか十三番隊の副隊長に会った時に、な」


 六発までという制約はあるが、パドルの使い魔は他人の魔力弾を譲り受けて使用する能力をもつ。今は大口径魔力弾二発の他に、防御用二発と回復弾を二発有していた。使い魔としては力も速さも並以下だし、自動操縦にもできないため使い勝手は悪いが、応用力に秀でた魔銃だ。


「ミッケル。さっきのは、私が回復弾を持っていると知ってのことだ。バーン様を恨むなよ」


「もちろんです。バーン様は私のことを思って、教育してくださったのです!」


 女子のような見た目の少年に憤る様子はなく、主への崇敬の念で瞳が輝く。


「それでいい。けどなあ……」


 バーンに投げ飛ばされたらしき男がドアから転がってきて、二人の前で倒れる。男は完全に失神していて、舌を垂らしており動き出す気配はない。


「バーン様のようにはなるなよ」


「いいえ。バーン様は僕の憧れです! 僕は将来、銃士隊の十二番隊に入って、バーン様をお守りします!」


「そうか……」


 羨望に満ちあふれた若者の瑞々しさを目の当たりにして、パドルは呆れて口が開いてしまう。だが、あることに気づき、にいっと唇の端を吊りあげる。


(ミッケルめ『銃士になりたい』ではなく『バーン様をお守りする』と言ったか)


 パドルはミッケルの頭をかき、短い髪をくしゃくしゃにする。ミッケルは、驍勇たる主の腕を切り落とすほどの敵がいると知った上で、お守りすると言ったのだ。


「強くなるのはお前みたいなやつだ。期待しているぞ」


「あっ、あうっ……。あの、パドルさん。パドルさん?」


「後でバーン様に内緒で、お菓子を買ってやろう。実は私は甘い物が好きなんだ。皇都内の菓子屋には詳しくてね」


「おいおい、パドル。主を放っておいて、何を遊んでるんだ」


 組合から出てくるバーンは何発も殴打を喰らったらしく、顔面は腫れ口の端からは血が垂れている。僅か数分で全ての冒険者を倒したらしく、建物の中は静かになっていた。


「主の楽しみを奪うわけにはいきませんから。バーン様、まさか抜かなかったんですか? 病み上がりなんですから、能力を開放しないにしても身体能力強化くらい使ってくださいよ」


「豚相手に必要ないだろ」


「仮にも彼等は冒険者なんだから、腕っ節は立つんですよ。下手したら、魔銃に頼り切りの若い奴らよりも荒事に慣れているんです。何かあったらどうするんですか。回復弾は残り一つなんですよ」


 使い魔が、青あざの浮く主の頬に銃口を向けるが、バーンはそれを手で制す。


「要らねえよ。それよりもスガンバザル山だ。馬を用意しろ」


 翌日の正午。バーンはスガンバザル山に乗りこみ、拠点に籠もるオークを単独で襲撃した。オークの総数は約三百。魔銃を恐れずに突進してくるオークを尽くブレードで切り殺した。不利を悟って逃げ出そうとする背中には火炎弾をお見舞いして焼き殺した。

 その光景は、ミッケルと共に後方で控えていたパドルを戦慄させる。攻撃の余波で頬に熱を感じるのにも拘らず、パドルは背筋を冷たい物が這っていくのを実感した。


(三百ものオークを相手にするなら、通常の騎士団なら一千人は揃えたい。銃士でも、せめて十人は欲しい……。それをこの人はたった一人で! 再生途中の細い腕を試したいといって、これか! どういう化け物だ!)


「おかしい。おかしいなあ、おい。やはり俺は強い。なあ、パドル」


「え、ええ。黒狼騎士団にいた経験から言わせてもらえば、バーン隊長、貴方は単独で千の騎兵を超える程の戦力です」


 輜重隊が不要なことと戦場への展開速度を考慮すれば、実際の価値はさらに高い。単機で小国の騎士すべてを相手にしても勝てる。それがパドルからの評価であり、バーンも己をそう評する。細くなった右腕の包帯を剥ぎ取ると、バーンは拳を握りしめる。


「オークなんぞ殺しても、奴には近づけない。北へ行くぞ。竜種を狩りに行く」


「駄目です。非常呼集があった際に対応できなくなります」


「くそっ……!」


 魔銃の登場以降、ロアヴィエ皇国内では積極的なモンスター討伐が行われたため、強力な種族は殆ど残っていない。バーンの戦闘欲を満たせる相手はいない。


「それに……」


 パドルは開きかけた口を閉じる。言えば、殴られることは明白だった。生身の状態ならともかく、魔銃装着状態のバーンに殴られれば、首の骨が折れて死ぬ。


(わざわざスガンバザル山のクエストを受注したのは、ここで採れる薬草のため。イナグレスの目の治療に役立てようというのなら、ロアヴィクラートに戻るしかない)


 従者は知っている。主が自ら、部下のために薬草を採るなどとは言わないことを。


「バーン副隊長。少し休憩を頂けないでしょうか。実は私は、森林の散策が趣味でして――」


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