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赫奕たる魔光は天に漲る  作者: うーぱー
第一章 魔銃転生
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1-4 二つめのイレギュラー

「おい。目立ったことはするな」


 人垣を掻き分けるアッシュは背後から肩を掴まれ、足が一瞬浮くほどの力で引き寄せられる。


「くそっ……。放せ」


「いいから落ち着け」


 アッシュに上から顔を近づけてくるのは、口と顎を髭で覆った熊のような大男オズロ。血と泥で汚れた分厚い顔の中で眼光を瞬かせ、アッシュの瞳を覗きこむ。


「その目つき。お前、まだ諦めていないな。他の連中より見どころがある。だが、急くな。今は機を窺え」


「友人の遺体を燃やした男がそこにいるんだぞ!」


 ラガリア王国では土葬が常だ。魂は肉体の形をしていると信じられているため、冥府で困らぬように遺体は原型を留めていることが望ましい。


「その友人と同じ所に行くのはまだ早い。冷静になれ若造」


「くっ……」


「俺はオズロ。十人抜きの赤槍オズロと言えば分かるか? 第四番隊を指揮していた」


「……アッシュだ。第三番隊にいた。あんたの噂は聞いてるよ」


「アッシュか。俺も聞いたな。三番隊には用兵の天才と、血気盛んな努力馬鹿がいると」


「残念だが、残ったのは馬鹿の方だ。今は復讐のことしか考えられない」


「いや、いい。俺は馬鹿なやつの方が好きだ。協力しろ。奴等は完全に油断している」


「冷静になれと言ったのはお前だ。武器もない俺達に何ができる」


「奴等だって夜は寝る。必ずスキを見せるはずだ。復讐の機会は直ぐに来る」


 確かにオズロの指摘するように、周囲の銃士は油断を隠せないようだ。一部の者は欠伸を漏らしたり、そわそわと肩を揺すったりしている。アッシュには勇名轟くオズロと協力すれば皇国に一矢報いることができるように思えた。周辺の観察をしているうちに、アッシュやオズロの順番がやってくる。


「次はお前だ。来い」


 まだ少年の面差しが残るパズルドという銃士がアッシュに顎を向ける。


(なんだこいつは。やけに線が細い。訓練不足じゃないのか?)


「いいか、これは魔銃の拳銃だ。俺も同じ物を持っている。俺の真似をしろ」


 パズルドは胸を張りい丈高な口調で必死に体を大きく見せようとしているが、少年の顔つきではいささか迫力に欠ける。


(皇国の兵士は随分と若いやつが多いな……)


 アッシュは敵を観察しつつ魔銃を受けとる。その際に触れたパズルドの手指は、血気盛んな努力馬鹿の目からは、細く華奢に感じられた。


「グリップを握るんだ。人差し指は伸ばしておけ」


(俺がアイリや村のみんなの仇を討つために鍛えた剣は使う機会すらないまま、こんな小さな武器に負けたのか……)


 掌中の武器の小ささに驚きつつもアッシュはパズルドの指示に従い、親指を失くした右手で拳銃を構える。

 パズルドは同じ説明を何回も繰り返すうちに注意が散漫になっており、アッシュの右手が負傷していることに気づかない。


「適性があった場合は反動が来るから注意しろよ。先端を空に向けて……トリガーっていうんだが、ここに人差し指をかけて、引く。やってみてくれ」


「ああ。……くっ」


 アッシュは引き金を引こうとするが、力を込めたせいで親指の傷口が開き出血しだす。


「どうした。ここを引くだけ……って。おいおい、なんだよお前、血を付けるなよ」


(くそっ……。これさえ使えれば……!)


 親指から肩まで針を刺すような痛みが走り、手先から力が抜ける。そして魔銃が血に溶けるようにしてアッシュの親指から体内へと消えた。後の歴史家も当事者達も知らぬことだが、帝国の歴史が終焉へと向かう復讐撃が始まった瞬間である。これは、すべてを裏で仕組んだ存在すら予期しなかったイレギュラーの、《《二つめ》》である。

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