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注*汚い表現あります
と、思っていたら、開いた天井からにゅっと人の頭が付きだした。
ひぃっ!やっぱり死体を捨てに来たんだ!
月明りのシルエットで顔はよく見えないけど。
「【光】」
慌てて呪文を唱えるのとほぼ同時に、突き出した顔が死体じゃなく生きてる人間だと気が付いた。
なぜなら、動いたから。
「うえぇーっげろげろ」
そう、ゴミ箱の中に、吐くために顔を突き出したと分かったから。
「ぎゃーっ!」
ゲロっ!
「え?」
私が叫び声をあげると、突き出した顔の人が目を開いて私を見た。
「あれ?す、すまんっ!ゴミ箱と間違えた!ここは君の部屋……いくら酔っぱらっていたとはい……」
間違いじゃないです。ゴミ箱です。
「げろろろろっ」
謝罪の言葉の途中で、男は再びもどした。
くっさぁーい!
この酸っぱい匂い。
バシャバシャと落ちてきた物が床に当たって飛び散り私の服も汚していく。
「【浄化】」
え?嘘でしょう?浄化してもくさいままだよぉ!
……そうか。吐しゃ物は腐っているわけじゃないからか。この臭いは吐しゃ物本来の臭い。
「【回復】」
じゃあ、吐しゃ物をもとにもどそうと、癖のように呪文を口にした。
って、待って。もとにもどすって……口の中にもどっていくってことに……?ひゃー、それは流石にごめんなさい。回復しちゃだめなやつだ!
と思ったら、元に戻らなかった。どうやら吐しゃ物は吐き出された状態が完成系というか、よい状態らしい。
……ほっとすると同時に、ひどい匂いの元に息を止め、ゴミの中にあった布で掃除を始める。
床に飛び散ったものを拭き始める。
「ほ、本当にすまん。掃除は、俺がするよ」
床を拭き始めると申し訳なさそうな声が降ってきた。
「いえ、大丈夫ですから……」
街中に吐くわけにはいかないとゴミ箱に吐いた。その行為に謝る点は一つもない。
「そんなわけにはいかん。あ、部屋に俺みたいなやつを入れるわけにいかないか」
むしろ、ゴミ箱の中に入れと人に勧められるわけがない。
私だって、自分で進んで入ったのではなく、捨てられたのだから。
「そうだ、お詫びに、お、お金」
男の人……光魔法で明るくなったのでしっかり顔が見えるようになったけれど、20代だろうか。斬バラに切った髪に伸びた髭は濃い茶色。目の色は前髪でよく見えない。顔の作りは半分毛でよく見えない。
酔っ払ってもなお、ちゃんとゴミ箱に吐こうとしたり、私に悪いことをしたと謝ってくれたりと、性格はよい人に間違いない。
お金を取り出そうと、ポケットか鞄か何かに手をいれてガサガサとし始めたようだ。
「うっ」
……。うっ?
嫌な予感っ!
「れろろろろー」
床を拭くためにしゃがんでいた私の頭上で不穏な音が。
「あーー、す、す、す、すまんっ俺は何と言うことを!」
頭の上からかぶりました。
もう、悲鳴を上げることすらできずに呆然としている……。
く……くっさ。
これは流石に水浴びしないと……。
のろのとろ立ち上がると、男の人は顔をぐしゃぐしゃにして謝罪し続けている。
「俺は、何をやってもダメな男だ……ごめん、すまん、申し訳ない」
この酔っ払い、泣き上戸か。泣きそうだぞ。
「うっ」
うっじゃなーい!謝る前に、その顔をそこからどけて!あ、違う。そうすると街が汚れる。
そもそもゴミ箱にいる私が悪いんだっけ。