13 ☆
ろくに食べることもできないのかがりがりに痩せた子供。そんな子供に迷惑をかけた自分が情けなかった。
俺は、いつまでも上に上がることを夢見る馬鹿だった。
だが、その夢は打ち砕かれた。
そして、みっともなく酔っ払い、子供に迷惑をかけて初めて自分の愚かさを自覚した。
これからは、無謀な依頼は受けずに、冒険者を続けていこう。
C級より上に上がれないのに50や60になるまで冒険者を続けている人を哀れな目で見たこともあったが。
案外とても賢い生き方なのだと今では分かる。
無理して30歳や40歳で引退せざるを得ない冒険者よりも、よほど上手な生き方だ。
冒険者しかできない馬鹿な俺だ。若くして引退したとしてそれから何ができるって言うんだ。
「引退?しないさ。C級やD級にランクが落ちても、俺は冒険者を続けるよ。この仕事が好きなんだ」
顔に×印の男の「引退すればいいものを」という言葉に素直に言葉が出た。
「は?」
「もう、ランクを上げようと思わないことにしたんだ。むしろ、50や60になっても冒険者を続けたいというのが今の俺の新しい夢だ」
つきものが落ちたというのはこういう状態なのだろう。
悪意ある男の言葉もどうってことはない。笑って答えらる。
「負け惜しみか?かわいそうに!元S級冒険者様は、今ではA級の俺様よりも落ちぶれたB級だもんなぁ」
ふと、今まで気にもとめなかった男の顔の傷が気になった。
顔に傷があるということは、一歩間違えれば頭をやられて死んでいたということだ。
「……お前も――ブルドも無理して死ぬなよ」
顔見知りの冒険者が命を落としたと聞くのは気持ちのいいものではない。たとえ俺を嫌っている者でもだ。
俺の言葉にハトが豆鉄砲を食らったような顔をするブルド。
動きが停止している好きに、B級冒険者への依頼書からC級冒険者でも達成可能そうな簡単な依頼を一つ取って受付カウンターに向かう。
「ハーグさん、後遺症治ったんですか?」
カウンターにつくなり、受付の元A級冒険者の女性が目を丸くしている。
ああ、もしかしたら昨日聖女のところへ行ったのを耳にしたのかな。
ここ2年は聖女に怪我を治してもらうために金をためていると言っていたからなぁ。
「いや。ポーションで無理だったものは無理だってさ」
苦笑いする。
そのことは知らなかったんだろうか。
知っていたら、無駄金を使わないように止めてくれていたか。流石に……。あれは極秘事項なのかもしれないな。
「そうですか?でも、なんだか怪我をする前の動きをしていたような?歩き方が変わりましたよね?」
ん?
「そう見えたとしたら、治ったのは心の方だ」
俺の答えに、受付嬢がきゃーと小さな悲鳴を上げた。
「聖女様は、心をいやすご奉仕までするんですかっ!」
受付嬢の声に注目が集まる。
「いや、待て、違う、違う、俺の心を癒してくれたのは、ミオっていう子供だ」
俺の言葉に、受付嬢が青ざめた。
「ハーグさん……子供に手を出すなんて最低ですよ……見損ないました……」
「ち、違う!そういうことじゃない!純粋な心に気持ちが洗われたというか、なんか、こう……掃除がやたらと得意な子供だったんだが、俺の心も掃除されたみたいな……?なんていうか……こう、心がすっとな」
受付嬢の表情が戻った。
誤解は解けたようだ。
「で、怪我の方は?」
「無理だったって言ったろ?神殿で祈りを捧げた後……聖女に魔法をかけてもらった後も2度膝をついた」
受付嬢がちょっと残念そうな顔をする。
「そうですか……噂では、どんな怪我や病気も聖女に治してもらえると聞いていたのですが……。もしかしたらポーションで治らなかった怪我を治せる聖女がいるのかもしれないと少し期待していたんですよ……残念ですね」
ああ、そういえば。この受付嬢も怪我がもとで引退したんだったな。
藁にもすがる思い……。俺の気持ちをよくわかっていてくれた。
「まぁ、でもおかげで、踏ん切りがついた。悪いことばかりではないさ。肩に力が入っていると動きが鈍るだろう?俺さ、焦りだとか不安だとか妬みだとかいろんな感情で変な力みがあったんだと思うんだよな。それが無くなったから、体の動きも変わったんだろう」
受付嬢が首をかしげる。
「そう、なのかしら?まぁ、なんにせよ。すっきりした顔をしているからよかったのよね。はい、依頼書の受付完了、行ってらっしゃい」
体が軽い。
心も軽い。
スキップしそうな足取りでギルドを後にする。
その背を見て、再び受付嬢が首をかしげていたのに俺は気が付かなかった。
「まるで後遺症などないみたいな昔の動きに見えるんだけど……」




