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《ラガルト》
罪人の前に、一人の男が立った。
男は呪術師だという。
彼はだらんと体の横に添えていた右手を、真っ直ぐ前に伸ばした。
「おいで、《ラガルト》」
低く。一言。何処かへ命じる。
何を、と罪人が睨む間もなく。
刹那の閃光が視界を灼く。
罪人が瞼を再びこじ開けた時。
男の手は、剣の柄を握っていた。
ひどく古いが、どこにでもあるようなありふれた剣だ。
何の装飾もなく、一目で初心者が持たされる量産型とわかる。
なのに。
罪人は、初めて震えた。
これまで、どんな尋問にも沈黙を貫いてきたのに。
たかだか一振りの剣一つに魅せられて、瞬きを忘れて口を開ける。
だから。
剣が鞘から払われた時も。切先が自身の胸に沈んだ時も。ただ、見ていた。
「え?」
間抜けな声を上げる。
「《ラガルト》、お前の罪業を贖う機会をやろう」
男が無情の声で、再び剣に命じる。
「お前が傷つけた者の声を聞け」
それが、合図だった。
剣が罪人の深い所に触れる。
剣は、鋼の色をしているのに、罪人にはあかく見えた。赤く紅く赫くあかい血の色に。