6話 一難去ってまた一難
路地裏を出た俺は、大通りの市場街を歩いている。
路地裏と違ってここの道路は、幅広くしっかり舗装されていた。
その道の両側には、数多くの露店が等間隔で建ち、売り物の野菜や果物がぎっしりと並べられている。
それらを各店の店主らしき人たちが、自分の店で扱う品物の良さを、足を止めた買い物客に売り込んでいる。
不自然さがなく、青々とした鮮やかな色合いから、遠目からでも新鮮さがわかる。
本物の食べ物はやっぱり違うな。前の世界で食べていた、見た目と味を真似しただけの加工成形食品とは、比べ物にならないくらいおいしそうだ。
前の世界で本物の食べ物を食べられるのは、上流階級の人たちだけだった。
この世界では、俺もああいうのを普段から食べられる地位を得てやる。必ず。
そんなことを考えながら歩いていると、俺の足裏を丸い形の何かを踏んでしまい、足を止めた。
「ん? なんだこれ?」
拾ったそれが初めて目にした物だったからか思わず声が漏れた。
全体的に薄く、円形に加工された金属でできている。
それの片面には、精巧な花のような模様、もう一方の面には「1000」と数字がおしゃれな字体で彫り込まれていた。
少なくとも前の世界では見たことがない物だった。
これはDWWの世界だ。後々追加される予定のイベントで使えるアイテムか何かだろう。
そう考えた俺は、この丸く平べったい金属を大事にポケットへしまった。
どれくらい歩いただろうか。
今まではゲームのグラフィックだったものを、この現実の眼で見て廻るのが新鮮な気持ちだ。
それに何だかんだでわくわくする。
俄然やる気が出てきた。
この世界で俺は変わってやる。絶対に。
そう改めて心に誓った。
▽▲▽▲▽
また更にしばらく歩いていると、何やら道行く人たちがじろじろと訝しげな視線を俺に向けているのに気付いた。
通行人たちは俺を見るなり、口々にヒソヒソと何かを言いながらチラチラと刺すような視線を向けてくる。
俺も最初は特に気にしなかったが、こうも続くと不自然に思う。
前方から何やら大人数の人がぞろぞろと集まって来ているのに気が付いた。
十人以上はいる。なんの集まりだろうか。
一番前の男以外は、様々な装備を身に着けている。
一人はレザーアーマーに片手剣。別の人は全身フルプレートアーマーに大剣、と装備に統一性がない。
DWWの世界では、街の外をうろつく魔獣を駆除して生計を立てている人もいる。
討伐クエストだろうか。だがこの集団は少し不自然な所がある。
魔獣を討伐している割には、この集団の人たちの『レベル』が低いように見える。
一番高い人で十前後だ。
俺は『気操流』を使えるから、相手の体表から発する『気』を見ることで対象の強さをある程度把握できる。
強い奴は、周りの景色が歪んでしまうくらいの圧の『気』が体表から湧き出ている。
それに比べてこの集団の人たちは、体表に僅かに滲む程度しかない。
意図的に隠している可能性もあるが、それはないだろう。
身体の動かし方とか、視線とかそういった細やかなところがバラバラだ。
これがゲームのDWWだったら、簡単に不意打ちでPKされているところだ。
この人たちは何と戦っているんだ。
そんなことを考えながら、その武装集団が近くまで来ていた。
俺はその集団の邪魔をしないように、他の通行人と同じようにそそくさと道の端へ寄った。
すると、集団の一番前にいた武装していない、一般人のような人が指を向けて高らかに言った。
「ハンターの皆さん、あいつです。スラムの住人がうろついているんです」
一般人の男が指さしている人物は、どうも俺みたいだ。
本当に、次から次へとなんなんだ。
読んでくださりありがとうございました。