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プロローグ2


 槍の穂先は俺の胸に深々と突き刺さっていた。


穂先が捕えた確かな感触に、神が被っているエナン帽の影から凄絶な笑みが覗いている。


急所を抉られHPは全損。

戦いは呆気なく、神の勝利という形でついた。


――かに思われた。


槍が刺さっている箇所から起点に、俺の姿が雲散しその形が崩れる。


『残影脚』

攻撃を僅かに食らった瞬間にギリギリで回避。残像とその手ごたえで大ダメージを食らわせたと錯覚させられる『常闇流』の歩法だ。


背後に回った俺は、左手首を素早く振るった。


空気を裂くような鋭い音と同時に、槍を突き刺した恰好の神の無防備な背中を3本の苦無が貫く。


「爆ぜろ!」


俺が発した言葉を鍵に、苦無に込められた力を解放。


大気を震わす轟音と同時に神の全身が爆炎に包まれた。


――今のは確実にダメージを与えた。

それでもまだ足りない。神々のHPと耐久力は、生物を遥かに凌駕した数値を持っている。

今の攻撃だって大して効いていないだろう。


その証拠に爆炎が揺らめき搔き消えた。


俺はこの時はっきりと神の全容を目にすることができた。


煤焦げてぼろぼろになったローブに包まれた、鍛え上げられた大きな体躯。

エナン帽は焼け落ち、神の素顔が露わになった。


長い白髪と皺が深く刻まれた、威厳のある顔立ちは所々黒く焦げ付いている。

左眼を覆う眼帯とは反対の右眼には明確な殺意が宿っていた。


「死といくさを司るこの儂が、こうも易々と翻弄されるとはのう」

「いやいや、俺も凌ぐので精一杯だ」


老いを感じさせない力強い声に、俺はそう返しながら納刀し、インベントリから槍を取り出した。


ただの槍ではない。

柄の長さは俺足先から首元まであり、その両端にはやや幅広の両刃がついている。


AgiアジリティStrストレングスが上回れている以上、俺は技術と搦め手で対抗するしかない。


それに『残影脚』で躱したときに思ったより深く刺さったらしくHPがそれなりに削られていた。


胸元から血が滲み出ていて、今もHPがじわじわ減っている。


「奥の手を使って一気に片づける」


俺は槍にMPを注ぎ込んで宣言した。

神はそれに応えるように静かに頷いた。


俺の持つ槍からは眩い光が発せられ、その光が俺の全身を覆う。

すぐに光が止み、俺の姿は変化していた。


俺の四肢は龍のような鱗に覆われ、額から耳の後ろにかけて、流れるように角が生えている。


俺は金色に鈍く輝く縦長になった瞳で相手を見据える。


――『神憑かみがかり

屈服させた神の力を自身に宿すことで、ステータスが上昇し、さらにその神固有の能力を扱うことができる。


この状態ではMPを常に消費し続ける上に、固有の能力を使うと多大なMPが持っていかれる。

だが、その分一撃一撃が超高火力だ。


俺は穂先にMPをさらに注ぐと、槍先に莫大なエネルギーが収縮し、金色の光に包まれる。

俺はそれを振り上げ、上昇したAgiで以って間合いまで接近。


圧倒的な破壊力を持った一撃を神へと振り下ろした。


―――


 互いの力の籠った攻撃が幾度もぶつかり合う。


その度に剣戟の音が響き渡り、衝撃が大気を震わせた。


互いのHPは残り僅か。

戦いは終盤に差し掛かかっていた。


俺も相手も力の出し惜しみをしていないはずだ。

持ちうる力を最大限に振るい、全力で斃しにかかっている。


相手の神は、前脚に4本、後ろ脚に4本の合計8本の脚を持つ神馬召喚していた。


神馬に跨り、その騎馬の有する突進力と機動力でもって縦横無尽に天空を駆け廻り、俺を刺し貫かんと迫る。


俺は最初こそ、そのあまりの速度と威力に翻弄され、受け流すことしかできなかった。


しかし、何度も攻撃されるうちに相手の突撃の合間に俺も攻撃を挟めるようになった。

そろそろ慣れてきた頃合いだろう。


今この瞬間も神馬の突進力が乗った激烈な刺突が俺の側面から迫る。


仕掛けるのは今だ。


「『覇王闘気』!」


より確実性を高めるために、能力を大幅に上昇させるバフを掛けておく。その他にも色々と効果はあるが、今回のメインは能力値の上昇。


俺は胸の前で槍を構えてその刺突に備えた。


――ゴッ! ガァァァッ!!


と重い金属同士が衝突し、擦れるような音が響きわたった。


両腕には重い衝撃が伝わり、ふき飛ばされないよう、両脚で空中を踏みしめる(・・・・・)


同時に、刺突の方向へと相手の穂先を流す。


騎馬と刺突の重い一撃が俺の横側へと軌道が逸れて行く。


――今回はただでは逃がさない。


俺は衝突の勢いを逃さぬまま、タイミングを合わせて間合いに一歩踏み込んだ。


踏み込んだとき、空気が振動し揺れる。

その影響で騎馬がブルブルッと震え、勢いが若干、ほんの僅かに衰えた。


『断岩流』の『剛振脚』という歩法だ。

本来であれば、振動と衝撃でその場から動けなくできるのだが、流石は最高位の神。


俺は自身の槍を握り直すと、上段に振りかぶり、掲げられた穂先を一気に振り下ろす。


『潺流』の歩法で得た相手の攻撃の勢いと、『断岩流』特有の高火力が上乗せされた一撃。


神は強引に自身の槍を引き戻し、防ごうとする。


だが、間に合わない。

今まで何の変わらなかった神の表情がここで初めて焦りが見える。


その一撃は、吸い込まれるように神の肩口へ到達した。


「ぐっがあああああ!!」


皮膚とは思えない堅牢な感触が俺の手に伝わる。

高ダメージの手ごたえ。


――ドクッ


俺は今まで冷静に立ち回っていた。

余計な考えを持たず、その場その場で正しい戦法をとった。


だが、この戦い初の有効打に、心臓が高鳴り高揚感に襲われた。


せっかくの千載一遇の絶好の機会だ!

ここを逃したら次は無い!

絶対このまま振り抜いてやる!

勝てば俺がプレイヤー初の全神の攻略者に……


様々な雑念が脳裏をよぎる。


「でりゃぁぁぁあああああああ!!」


――余計なことは考えるな!


俺はその思考を打ち消すように叫びながら、さらに穂先に力を込める。


穂先が肩から斜めに入り込み、心臓、鳩尾と刃が沈んでいく。


傷口からは大量の血が零れ、吹き出した。

神の口元からも、ごぼっと血が吐き出される。


そして、俺は更に全身の力を使い、一気に刃を振りぬいた。


穂先が脇腹を抜け切り裂いた勢いに負け、俺の体勢は前のめりになる。


『断岩流』の技は高火力だが、反動が大きい。

だから攻撃後、崩れた体勢を安定させるのに僅かながら時間がかかる。


心臓を破壊し、さらに胴体を両断した。

神のHPはこれで削りきっただろう。


「これで終わ――」


「油断……したのお」


「っ!!」


底冷えするような声が、俺の耳にやけに大きく聞こえた。


――まずいっ


即座に体勢を立て直そうにも、俺は振りぬいたままの姿勢で未だに体勢が崩れたままだ。


背後では攻撃の気配がする。


くそっ、せめて致命傷を避けなければ――


「……遅い」


声が聞こえたと同時に、俺は目線を背後に移した。


炎、氷、雷がそれぞれ3羽の烏の形を成し、俺の背へと殺到している。


――負けるのか……せっかくここまで来たのに。


と油断した過去の自分に、歯噛みしたと同時に、魔術鳥たちが全て俺に着弾。


俺は、それぞれの属性の爆発に焼かれた。


―――


 神のHPは完全に0になってはいなかった。

心臓を破壊され、胴を両断されてもなお、絶命しないその生命力はまさしく逸話通りといえよう。


相手をせめて道連れにしようと放った魔術は、まだまだ残っていたMPのほとんどを注いだ攻撃だ。

決して生半可威力ではない。


魔術が対象に着弾したのを見届けた神は、静かにその爆発痕を見据えた。


――これだけの規模の魔術だ。

奴の残り僅かだったHPを吹き飛ばすくらいは十分なはずじゃ。


神は相手が油断する瞬間を狙って隠し、準備していた。


この必殺(・・)の魔術を。


神は、自身の肉体を再生しようと残りのMPを使おうとした瞬間、神のその眼は驚愕に見開かれた。


「馬鹿な!! ありえ――」


神は最後まで言うことはできなかった。


刹那の間に原形を留めぬほど、その残った身体を斬り刻まれたからだ。


魔術の爆発で未だ晴れぬ煙の中から、一瞬で放たれた無数の斬撃。


それが神の眼に入った最期の光景だった。


―――


「危なかった」


刀を納めながら、俺は静かに呟いた。

神が最期に放った魔術。


あれには冷やりとさせられた。


もし、俺が装備した羽織が魔術に対してのダメージ激減の効果がついていなかったら。


もし、最後の一撃前に掛けたバフの効果が残っていなかったら。


もし、即死攻撃の対策をしていなかったら。


これらの要素が一つでも欠けていたら、負けていたのは俺の方だった。


だから改めて思う。


「本当に、危なかった」


せっかくプレイヤー初の偉業を成したというのに、素直に喜べない。

むしろ勝ててよかったという安堵の方が大きい。


――相手のHPを削るまでは、油断しないようにしよう。


俺は、改めてそう心に誓った。


当たり前のことだがつい浮かれてしまい忘れていた。


 さて、神を倒したことだし神域を出よう。


それに、神を全員倒したら知ることができるというこのゲームの『真実』とやらも何なのか気になる。


俺は踵を返すと、入ってきた位置で光を発し続けている魔法陣に向かった。


移動中に俺はインベントリから端末を取り出して、報酬品を流し見ていた。


ざっと見た感じ、報酬品の中には『真実』に関係がありそうなアイテムらしきものはない。


「拠点に戻ったらわかるとか、そんな感じか?」


――だったら早く戻りたい。


神を倒したときに現れる魔法陣に俺は足を踏み入れた。


その瞬間。


突如、魔法陣が眩いほどの光を放った。

あまりの眩しさに俺は思わず目をつむり、眼前を手で覆った。


何がなんだかわからない状況の中、耳元でバチッと何かが弾けるような音が鮮明に聞こえた。


 そして、気が付いたらいつの間にか体が別人になり、粗暴な男二人組に暴力を振るわれているという状況になっていた。


読んでくださりありがとうございました。

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