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プロローグ1

この物語はフィクションです。登場する人物、団体、名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

「起きろ! クソガキが!」


怒声と同時に、腹部に衝撃を受けて目が覚めた。

全身に伝わる冷たく固い地面の感触、眼前のボロボロの靴から、自分が横たわっている状況だとわかった。


俺は起きようと、体に力を込めたがその途端、腹部からの激痛に崩れ落ちた。


どうやら俺は、目の前の男から腹を蹴られたらしい。


滅茶苦茶痛い。意味がわからない。

俺は部屋でゲームをしていたはずだ。

なんなんだこの状況は。


じわじわと広がる苦しさに耐えながら、俺はこうなった原因を思い出していた。


▽▲▽▲▽


 Deities War World、通称DWW。


約10年前。俺がこのゲームと出会ったのは14歳のときだ。


数多の神々が無秩序に戦争している世界。


そこに住む主人公は、神々の戦争に巻き込まれて、家族や居場所を失ってしまう所からこのゲームの物語が始まる。


その神々というのが厄介で、一体一体が人智を超えた、強大な力を持っている。

そんな奴らが戦っているわけだ。


ぶつかり合う攻撃の余波や流れ弾で、簡単に自然災害が起こってしまう。

オープニングの映像にて、大迫力の映像でそれが表現されているからそれがひしひしと伝わる。


実際、一番位が低い神でさえ倒すのに一苦労するほどだ。


己の無力さに打ちひしがれ、絶望していた主人公だったが、頭の中で誰かの声を聞いた。


「神々と戦え。汝が力を示し、屈従させよ。さすればその神の力は汝の物になる。その力以って、全ての神々を打破した暁には、この世界の真実を目の当たりにすることになるであろう……」


主人公には、その声の主が誰かはわからない。

ただ、縋る物などもはやなかった彼は、その言葉に従い、戦う術を身に着けるべく立ち上がった。


やがてはその元凶である神々を討ち斃すためだけに。


というのがメインストーリーのあらすじだ。


メインストーリー終了後は、世界各地の神々と戦うイベントが解放される。


メインストーリーとは比べものにはならない程の数の神が登場し、他には自キャラを強化するイベントもある。


プレイヤーと神々との戦いは更に苛烈さが増して行き、その常軌を逸した難易度とプレイヤー同士の戦いの奥深さで、プレイヤーを飽きさせることはなかった。


ここまでの話を聞いても、割とありそうな設定のゲームだが、凄いのはここからだ。


予告一つなく突如発売このゲームは、圧倒的な技術力と操作方法の画期的さで業界に革命を起こした。


DWWはアクション型のMMORPGなのだが、このゲームのキャラ操作には、Full Diving Connect Sense(通称FDCS)という未知の技術が使われている。


その技術は、ゲームを起動している間に限り、脳からの体を動かすための命令を遮断。


専用のデバイスが命令を読み取り、ゲーム内に繋げることで、プレイヤーはまるで自分の体のように、自キャラを動かすことができる。


一体どういうメカニズムでそれを可能としているのかは、10年経った今でも解明されていない。


その怪しさから、発売されて何年か経った頃に、

「ゲーム機に繋いだまま意識が戻らない人がいる」

と、ゾッとするような噂が流れたことがあった。


しかし、世間はそれをちょっとした都市伝説として片づけた。


このとき既に世界中の多くの人が、長くプレイしている。一日の大半を費やしているヘヴィーユーザーだっているだろう。


そんな噂などお構いなしと言わんばかりに、このゲームから離れる人はほとんどいなかったが。


それはさておき、このゲームの起動方法だ。


まずは落ち着いた環境で体を休めるときの体勢になる。


ゴーグル型のヘッドマウントディスプレイを被って、こめかみ辺りについた電源ボタンを押すだけ。


モニターに注意事項のメッセージが表示され、「確認」ボタンを見て瞬きすると、次の瞬間にはゲーム内の自キャラになっているという、摩訶不思議なものだ。


DWWの世界では何もかもがリアルだ。


五感は勿論、自身の体を動かす感覚や吹き付ける風。武器の重量感に、剣で敵を斬ったときの感触。


グラフィックと思えないような、色鮮やかな景色や、独特の現住生物。


表情豊かで、コミュニケーションが可能なほど高い完成度のNPCたち。


俺は内心、NPCたちが実は本物の人間じゃないかと疑っていた。


例を挙げるとキリがないが、このゲームではありとあらゆるもの全てが現実と何の遜色もない。


ゲームを始めたばかりの頃は、初めて目にするまるで異世界のような景色に、呼吸したときの現実では絶対に味わえない澄んだ空気に、当時幼いながらも感動を覚えたくらいだった。


俺はゲームを始める前の長かった前準備を終えて、その甲斐あってメインストーリーを短期間でクリアした。


そして出会ってしまった。俺がこのゲームに真に嵌った理由の一つ。本編とは別の、俺にとってはこっちが本命と言えるやり込み要素――対人戦に。


それ以降、学校以外の時間のほとんどは、他のプレイヤーに「勝つ」ために費やした。


俺は常に考えた。どうすれば強くなれるか。厄介な相手にどう対策するか。

自分に足りないプレイングスキルはないか。あの動きはどうやったらできるのか……

などなど……


数々の戦闘をこなし、時には勝ち越し、時には連敗が続いて悩み、落ち込む。

対策を考えて実行し、うまく嵌って連勝を重ねる。


気づけばあっという間に10年が経っていた。

そうして俺は、DWWのプレイヤーで知らない人はいないと言われる程のトッププレイヤーにまで上り詰めていた。


▽▲▽▲▽


――神域。

このゲームの世界に於いて、神々とその従者である眷属が住まう空間であり、只人では決して踏み入ることができない領域。


その一つが地上から離れた遥か遠い上空に存在していた。


だが、そんな場所に俺はいた。ここまでの道中で戦うことになる眷属を掃討し尽くし神域の最奥まで到達した。


残すはボスである神域の主のみ。

俺の足元で、光を発し続けている魔法陣の中心に立てば、ボスの間に転移し即座に戦闘が始まる。


「いよいよだ。ようやく……ようやくここまで辿り着いた」


俺は歓喜のあまり思わず声を震わせて呟いた。


なぜならこの神を倒すことで、俺はこのゲームに登場する全ての神の打倒を果たすことになる。


発売されて10年以上が経過しているが、未だに登場する全ての神を倒したプレイヤーはいない。


世界中、30億人以上のプレイヤーがいるなか、俺が初の……


手が震えてきた。

息が詰まるほどの緊張感。さっきから心臓がうるさい。


俺は念のために索敵を使い、周囲の敵がいないのを確認した。


戦いに備えるべくこのタブレット端末、ステータスボードの装備のメニューを開いた。


このステータスボードでは、自身の能力を客観的に見ることができる。


ステータスやジョブ。装備の付け替えや道具の管理。保有するスキルの一覧の閲覧に、セーブ、ログアウト、その他、ゲームらしいことが唯一可能な端末だ。


ちなみにこの端末を開いていても、敵からの攻撃は普通に食らってしまう。


そのため周囲の安全性に細心の注意が必要だ。


画面の左側には、自キャラの全体図が映されている。


キャラクターネームは『レイド』。

夜空の蒼く輝いた月光を映す、鮮やかな銀髪。

サファイアのような碧眼。

おまけに、左右対称で中性的な整った顔立ち。


この容姿端麗な青年が、10年以上の付き合いになる自分のアバターだ。

キャラメイクで、かなりの時間を費やした甲斐あったというものだ。


高い上背に細身で引き締まった体躯には、

剣道の道着に似た和装に袴。

その上には、龍の革と鱗で作られた、丈の長い無骨な羽織を身に着けている。

その腰の帯には一振りの刀を差していた。


装備のどれもが簡素なデザインだが、性能は最高峰だ。なにせ、このゲームで手に入る最高ランクだ。


この装備で多くの神々を倒し、対人戦で勝利を収めてきた。


――準備は整った。体の震えも治まってきたし、今はだいぶ落ち着いた。


「ベストコンディションで戦う準備はできたようだ」


いつもの深呼吸後のルーティンで、自分にそう言い聞かせてから魔法陣に足を踏み入れた。


▽▲▽▲▽


 辺りの雰囲気ががらりと変わった。


景色に大きな変化は見られない。

足元で絶えず流れる分厚い雲と、夜の星空と青い月。


ボスの姿が見えない。


だが、この空間に足を踏み入れた瞬間にもう戦いは始まっている。


俺は腰だめの構えで刀の柄に右手を置く。

抜刀の構え。


不意打ちにも即座に対応できるように、『索敵』を行い、周囲に神経を張り巡らせた。


――まだ現れない。


瞬間、輝く月に影がちらついた。


――抜刀!!


開幕早々、俺が持つ最速の一振りを放つ。


距離は遠い。月を背にかろうじて人型のシルエットが見える程度だ。


俺の放った斬撃は、直線状に上空へ走る。

音を置き去りにし、光をも超えた速度でそれへと迫った。


対神戦では、相手を先に早く捕捉。

初手での先制攻撃が定石だ。


もたもたしていると、その間には既に負けているかもしれないからだ。

それに人型ということは、神々の階級の最高位。

油断はできない。


だが、相手にはそれがわかっていたのだろう。

手にしている長物の武器で、俺の放った斬撃はいとも簡単に打ち払われた。


初撃を躱されることくらいは、こちらも織り込み済みだ。


俺は次の攻撃に移るべく、刀を両手で握り直したそのとき、恐るべきことが起こった。


眼前に敵の槍が迫っていたのだ。


「――っ!!」


俺は咄嗟に刀で槍の穂先を斬り払った。


鋭い金属音が眼前で鳴り、鼓膜をゆらす。

思ったよりも、手ごたえは小さい。


刀の切っ先がぶつかった直後には、相手は既に槍を引き、

次の攻撃に移ろうと構えていたからだ。


これが本命の一撃だろう。

鋭い槍の穂先が、俺の心臓に吸い込まれるように放たれた。


「まずっ!!」


俺は反射的に上体を反らし、刀身を穂先に割り込ませた。


互いの刃が衝突し、少なくない衝撃が俺の両腕に伝わる。


しかし、ぶつかり合ったのは一瞬にも満たない極々僅かな時間。


俺は刀身で受けた瞬間に、右半身を相手の脇側に流れるように移動。


勢いの乗った相手の一撃は、狙い通り刀身を滑らせて明後日の方向へ逸れた。


そして、俺は相手の攻撃の勢いを利用し、がら空きの胴に右足で回し蹴りを食らわせる。


足の甲に確かな感触。同時に相手の体内から弾ける様な衝撃音が響いた。


食いしばるような苦悶の声を上げ、相手は吹き飛ばされて雲を突き抜けた。


距離を稼ぐことができて、少し余裕ができた。


それにこの程度の攻防。俺にとっては造作もない。


武術に限って言えば、このゲームには五大流派というものがある。


ストーリー上の文献に名前しかでてこない古代の英雄が、人の身で神々に抗うべく編み出された五種類の武術だ。


最速の攻撃を以って必殺とする『神速流』。


攻撃を水の流れの如く躱し、いなし、受け流し、生じた隙を確実につく『せせらぎ流』


苦無や鎖鎌といった暗器を多用し、ありとあらゆる場所を想定した特殊な歩法や機動術などで相手を翻弄する『常闇流』


武具の重量と筋力を以って最大火力で相手を一撃で斃す『断岩流』


最小限のmpを消費し、身体や武器に「気」を纏わせて、強度や攻撃性能を高める。また、「気」を活用して戦闘で有利にもっていくための様々な技術扱う『気操流』


この5つがある。


例を挙げると、相手を蹴り飛ばしたときに使った技『勁撃』が気操流の技のその一つだ。


相手に触れると同時に大量の「気」を相手に送り込んで、体内で「気」を爆発させることで発動する。


他には、開幕の速攻に使った技は『神速流』の技で、槍の一撃を逸らしたのは『潺流』だ。


俺には10年近く培ってきた戦闘経験がある。

レベルもこのゲームで到達できる最大の200だ。


俺は五大流派を全て扱えるうえ、階級も全て最高の『神級』だ。


それが当たり前の対人戦では、多数の流派の技を組み合わせた、多彩な技の数々でトッププレイヤーたちから勝利をもぎ取ってきた。


近接戦闘能力においてはプレイヤー随一といっても過言ではない。


それに、まだ俺は奥の手を持っている。


「やっと戻って来たか――っと!」


足元から近づいてくる気配が伝わり、俺はその場から飛び退く。


と同時に雲が割れ、たった今まで俺がいた場所を槍が貫いた。


死角になっている雲の下からの投擲。


完璧にその一撃は回避したが、攻撃は終わりではない。


俺の横を抜けていった槍の向きが背後で反転。ヒュンッと鋭い音を立てて穂先がこちらを向いた。


背後からの音に僅かに意識を向け、自分の失態に気づいた。


咄嗟に意識を正面に戻すが遅かった。

何せ、かなりの距離を一瞬で詰めるほどの速力を持った相手だ。


思った通り俺の僅かな隙を衝き、一瞬で槍の間合いまで接近を許してしまっていた。


いつの間にかもう一本の槍を手に持ち、

既に攻撃は放たれていた。


俺は横薙ぎに刀を振って槍を払った。

それと同時に反射的に左へ跳ぶ。

背後の槍もその動きに合わせて追尾してくる。


――間に合うか。


その勢いのまま『潺流』の足捌き、『流水脚』で転換し、背後の槍を躱した。


それと同時に次の攻撃に備えた。

だが、次の瞬間には相手の槍が俺の胸に突き刺さっていた。


読んでくださりありがとうございました。

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