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撃退

戦闘は壮絶を極めた。


俺の攻撃は効いている。

胴体に蹴りを叩きこめば、魔王の鎧は軋み、受けられた腕の骨は折れる。


しかし、次の瞬間には何事も無かったかのように回復してしまう。


回復魔法か。


いや、魔法を使っているような挙動は感じられないから違うかも知れない。


従者の2体もそうだったようだが、そもそも魔族というのは、魔力によって強力な肉体強化を常時おこなっているっぽい。


魔王の肉体強化は特に強力で、身体能力の大幅向上のほか、おそらく受けたダメージの回復も瞬時におこなってしまうのだろう。


なんと便利な……。


つまり倒すためには、魔王の魔力が尽きるまで、攻撃し続けるしかないということか。


魔王の魔力の総量がいかほどか、想像もつかないが、今のところ魔王から焦りの感情は読み取れないので、少なくともそう簡単に尽きることは無いのだろう。


一方、魔王の格闘術もかなりのもので、こちらの肉体も地味に損傷している。


転生前の空間では、影スピノサウルスに噛まれてもへっちゃらだったので、魔王の突きや蹴りは、それ以上の攻撃力があるということになる。

前世でいうところの、打撲程度のダメージだが。

もちろんこちらも生命力の治癒ですぐに治してしまう。


今のところ、こちらがやや押しているように感じる。

スピード、攻撃力、身体の頑丈さ、すべてこちらが上だ。

しかし、魔王の余裕のある態度に変化は無い。


魔王の魔力が尽きるのが先か、俺の生命力が尽きるのが先か。

こちらの生命力にはまだまだ余裕がある。

このままなら数日は戦っていられるだろう。


いつの間にか、空が見えていた。


魔王との戦闘で、謁見の間の近辺の壁・柱・天井がほとんど破壊され、建物の相当部分が瓦礫に変わってしまっていた。


「ふふふ」


魔王はバックステップで俺から少し距離を取ると、ふわりとその身を宙に浮かせた。


おお、飛行魔法か。

いいな。うらやましい。

さすがに俺は空は飛べない。

空から攻撃されると、けっこう厳しいかな。


「ふふ、たまには素手の殴り合いも楽しいものだな。しかし、余と殴り合って圧倒するとは、やはり貴様は面白い。貴様、余の配下にならぬか?」


「ハイ、ワカリマシタ。」


「えっ?」


お、初めて少し動揺したな。


「ア、イヤ、ヤッパリスコシカンガエサセテクダサイ。」


俺は転生して、NOと言えるようになったのだ。生前とは違う。


「ヒトヲコロサナイトヤクソクデキルカ?」


「それは無理だな。」


「デハ、ヤハリタタカオウ。」


「そうだな。それが良い。」


なんか少し変な空気になってしまった。


「デハ。」


「うむ。」


魔王はさらに上昇して高度を上げると、右手から紫電を発生させた。

紫電は徐々に棒のような形状をつくり、一振りの杖が具現化された。


あー、あれはけっこうヤバそうだな……。

そう思った次の瞬間、


ズドオォォォォーン!!


凄まじい衝撃。視界がブレる。そして全身の焼けるような痛み。


どうやら黒い雷の魔法を当てられてしまったようだ。


かなりの体細胞が破壊されてしまった。

俺は損傷の治癒をおこないつつ、速やかに大きめの瓦礫の影に隠れながら移動した。


魔王は上空から、次々と魔法を放ってくる。


黒い雷、黒い火球、黒い氷塊、黒い風の刃、見えない衝撃波……。


俺は常に移動してそれらを避けつつ、瓦礫を投げつけて応戦したが、すべて魔法で撃墜された。


しばらくはそうやって凌いだが、徐々に追い詰められているのを感じる。


くそぅ、これは勝てないかな。何か手は無いものか。

何か他にできることは……。


そう言えば、つい先日、海でピンチになったときは、モックが助けてくれたな。


そんな場合ではなかったが、そんなことを思い出した。


前世では、俺は誰かから無条件に助けてもらう、という感覚を感じたことが無かった。


困難に直面したとき、解決したり、耐えたり、諦めたりするのは、常に自分一人でのことだった。


他人はあてにしない。

それは、俺の魂にまで刻み込まれた、当たり前の感覚だった。


だから、あの日モックに助けてもらったときは、嬉しかったというよりは、なんとも居心地の悪い、むずがゆさを感じ、どうしたらいいのかわからず、ついつい何回もお礼を言ってしまったのだった。


借り、か。借りだな。借りは返さないとな。


でも、もう返せないよな。


魔族にしてしまったし。


「ふん、何が借りを返すだ。返させるものか。逆に増やしてやる。」


その瞬間、俺の体に、大量の魔力が注ぎ込まれてくるのを感じた。


「!」


何が起こった?


……今は理由を考えている場合では無い。


俺は上空の魔王に向かって右手を突き出すと、その手のひらから巨大な魔法の投網を放った。


広範囲の投網は、魔王を絡めとったが、魔王は一瞬だけ動きを止めたものの、すぐに全身から黒い炎を放ち、投網を焼き切った。


効果はほとんど無かった。


だが、一瞬だけでも動きを止め、こちらへの意識を逸らしてくれた。


ここしか無かった。


その一瞬の間に、俺は近くに落ちていた衛兵の槍を掴むと、渾身の力と生命力を込めて、魔王に投擲した。


「ぬぅっ!」


魔王はとっさにその一撃を杖で防いだが、槍は杖を破壊し、魔王の身体に深々と突き刺さった。


魔王は驚いた表情をしていたが、それだけだった。


渾身の一撃ではあったが、この様子では勝率に影響は無いだろう。


おそらく魔王は杖が無くても魔法は使えるだろうし、代わりの杖もあるかも知れない。


槍による肉体のダメージも、すぐに回復させるだろう。


しかし、


「うむ、良き戦いであった。」


魔王はそう言うと、高度を落とし、俺の近くまで降りてきた。

槍は腹に刺さったままだ。


「次に相まみえる時までに、余は格闘戦を鍛えておこう。貴様は空中戦の対策をすると良い。」


え、終わりか?


「貴様の名前を聞いておこう。」


「パイク、ダ。」


「さらばだ、パイクよ。」


俺の名前を覚え、魔王はあっさりと彼方の空に去っていった。


なぜ魔王は決着をつけずに帰っていったのか、明確にはなっていない。

しかし、納得できなくは無い。俺には理解できていた。


あいつ、やっぱすげえケンカ好きなんだな、と。



ーーーーーーーーーー



しばしぼうっとしてしまったが、気づくと、近くに元モックの魔族がいて、こちらを見ていた。


「やっぱりお前がパイクなのか。」


「アア。」


「さっき、一瞬だけ急にお前の心が読めた。」


「ソウカ。」


「ふん、さっきの、大人しくしてたらパイクに会わせるってのはデタラメってことか。」


「ソウイウコトニナル。」


「元のパイクの姿には戻れないのか?」


「ソウシタホウガイイカ?」


「ああ。」


借りが増えてしまったからな。せめてご要望に応えるか。


「チョットマッテロ。」



またこの身体に戻れるかはわからないけど、まあなんとかなるだろう。


俺は生命力を操作し、先程と同じ現象を作り出した。


身体の内部に異空間が生まれ、そこからパイクの体を引きずり出す。

幸いまだ細胞は完全に死滅していなかったので、生命力による治癒を施し、無理矢理に胸部と体内の損壊を治す。


魂を変換し、全生命力をパイクの体に移すと、今度はパイクの身体の内部に異空間を発生させ、鍛え上げた体の抜け殻を収納した。


「ふぅ。」


結構コントロールが繊細で綱渡りな感じだな。失敗したら魂が消えて、廃人になりそう。


「これでいいかな。モック、さっきはその、ありがとね。」


「パイク……。」


元モックは、血走った目で俺の方に近づいてきた。


ん、やばいのか。殺気は感じないが。


気づくと俺は元モックに抱きしめられ、唇を奪われていた。



うん、なんだか少し、救出された囚われの姫の気持ちがわかった気がした。




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