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12/15

帰宅

ちなみに余談ではあるが、トゥーナ村を出発する直前、食堂で最後の食事をしたとき、一応、海の勇者の肩書が通用するか試してみた。


あのじいさんは、食事代が生涯無料になると言っていた。


とても信じられないが、まあ念のため。



「日替わり定食をお願いします。」


「あいよっ!」


「あ、あの!」


「はい、追加のご注文ですか?」


「僕、海の勇者って言われたんですけど。」


「はぁ。」


「えっとあの、海の勇者……。」


「はぁ、海の勇者様。」


「うみの……。」


「ええと、それで海の勇者様がどのようなご用で?」


「いえ、何でもないです……。」


気持ちいいくらい何にも通じなかった。


最初から期待はしていなかったが、負わなくていい心のケガを負ってしまった気がする。


そのあとしばらくは、みんなが優しくしてくれた。


そしてそれ以降、二度と海の勇者という単語が使われることは無かった。



ーーーーーーーーーー



トゥーナ村を出発した日の夜、俺はアンティに呼び出されて、二人で会話ができる場所に移動していた。


一応、保護者二人の目の届く位置ではあるが、会話は聞こえないくらいの距離はある。


街道沿いの野営スポットで、夕食を食べた直後だった。


2年前に、勇者のパーティへの参加について話を聞いたときのことが思い出されるシチュエーションだ。

アンティはたまに鋭いので、何かがバレたのかとヒヤヒヤする。


「パイク、魔法使いになったことについてどう思う?」


「まだあんまり実感は無いかな。」


「そんなに嬉しそうじゃないみたいだね。普通は、飛び跳ねて喜ぶものらしいよ。」


「役に立つなら嬉しいけど、まだいろいろバーナムさんに教えてもらっているところだからね。喜ぶのは役に立つのが実感できてからかな。」


「うん、バーナム先生から基礎的なところを教えてもらうのは良いことだね。それにしても、パイクは相変わらず妙に大人なところがあるな。」


うん?もう少し子供らしく振る舞ったほうが良いのかな。でも露骨な演技みたいなのは、疲れるしそのうちボロが出るからな。


ちなみに精霊との契約=結婚なのか、というのをバーナムに聞いたところ、そんな事実は無く、精霊が勝手に言っているだけだろう。とのことだった。

それを聞いたモックが一暴れしたが、それは置いておこう。



「でも投網の精霊は話してて楽しいよ。友達が増えたみたいな感じ。」


「それは良かった。俺の聖なる雷の精霊は、なかなか真面目だから、友達って感じではないかな。でももう付き合いも長いし、家族って感じはするかも。」


「自分と契約している精霊以外も、見えたりしゃべったりできるようになったら楽しいのに。」


「そういう魔道具もあるみたいだよ。一部の貴族に独占されてるみたいだけど。貴族の子供を魔法使いにするために使われることがあるんだって。」


「そんなのもあるんだね。」


「そうそう、ところで。」


む、結構強引に本題に入ってきたな。まあ2年前と比べて、いきなり本題に入らなくなったのは成長と言えるか。……人様を批評できるほど、俺もコミュニケーション能力が高いわけではないが。


「勇者のパーティについての話だ。今まではパイクに料理人として同行してもらいたいと思ってたけど、魔法使いになったのであれば、戦力としても期待したい。」


「なるほど。」


「それであれば、本格的に戦力としての訓練を積んで欲しいんだ。」


「ガインさんやバーナムさんに、これから僕も鍛えてもらえるってこと?」


「いや、それも手なんだけど、実は来年から俺、王都の軍学校に行こうと思っててさ。もし良ければパイクも一緒に入学しないか?」


「へぇ、軍学校か。」


「うん、将兵科は厳しい審査と入学試験があるんだけど、魔法科は魔法使いであれば誰でも入れる。年齢も性別も関係なくね。」


「わかった。入学するよ。」


「いや、決断早いな!誘っといてなんだけど、もう少し悩めば?」


「ああ、もちろん条件次第だけどね。学費とか。卒業後の魔法使い同士のしがらみとか。」


「……。やっぱ中身オッサンなんじゃないのか?しがらみって。軍学校は6年制で、俺の卒業と同時に旅に出発することになるからな。パイクには中途退学してもらうことになるけど、旅に出るんだから、しがらみは無いよ。」


「中途退学か。なんか残念だね。」


「そこは申し訳ない。あ、休学とかもできるのかな。今度王都に行ったときに聞いてみるか。」


まあどちらでも良いっちゃ良いが、前世で学歴社会を生きていた身としては、卒業証書をもらえるんであればもらっときたい感はある。


「あと、勇者と勇者のパーティメンバーは、学費とか寮の利用料とか食費は免除されるよ。」


……また税金か。利用させてもらう身としてはありがたいが。


「わかった。誘ってくれてありがとう。父さんと母さんを説得できたら、たぶん入学させてもらうよ。ところで、アンティは何で来年からの入学にしたの?もっと前から入ろうと思えば入れたんじゃないの?」


「うん、実はこの旅の途中まで悩んでたんだけどね。パニィは、俺がずっと見守らなくても大丈夫そうかなって、そう思えたんだ。腕もたつし、しっかりしてきたよ。」


少し照れくさそうにアンティはそう言った。


え?パニィが基準なの?え、この旅の真の目的って、そこ?

やだ、この勇者ヤバいよ。シンプルに怖い。


「さて、そろそろ戻ろうか。これからもよろしくな!」


「……。よろしく。」


もしや俺を勇者のパーティに誘ったのは、料理担当や戦力としてではなく、パニィの外堀を埋めるためではあるまいな。


若干の戦慄を覚えつつ、みんなのもとに戻った。



ーーーーーーーーーー



「モック、魔力貸して。」


【りょうかーい。】


「ありがと。えいっ!」


俺の右手から魔法の投網が飛び出し、何もない空間に向けてパッと広がった。


旅の帰路では、毎日時間をみつけてバーナムが魔法の指導をしてくれている。


投網の魔法を使うのも、だいぶ慣れてきたかな。


「それにしても、投網の精霊は簡単に魔力を貸してくれるのですね。すでにレベル2に近いものを感じます。」


そうなのか。まあアンティの「お願い」に要する時間よりは短いと思うが。比較の対象が一つしかないのでよくわからん。


「それに、汎用性も高く、使い所が多くて便利な魔法だと思います。重宝されますよ。」


【あったりまえやろ。誰やと思っとんのよ。】


べた褒めだ。モックが増長しているのを感じる。


「ただ、戦争などの対人戦では即戦力になりそうですが、対モンスター戦となりますと、高速移動するタイプのモンスターをうまく捕らえられるように、たくさん練習する必要はありますね。」


「わかりました。」


「では、石を投げますので、それを投網で捕らえてみてください。石を投げる速度は、徐々に速めていきます。」


「よろしくお願いします!」


「あ、それなら石はあたしが投げるよ。死ぬなよ、パイク。」


「あっ!ちょっ!石はあっちに向かって投げてください!パイク君を狙うんじゃなく!」


ゴツン!


「ギャー!」


バーナムによるレクチャーはだいたいそんな感じだ。


興味があるのか、一応パニィも手伝おうとはしてくれている。


まだまだ知らないことだらけだが、新しく何かを学んで身につけていくというのは楽しいことだ。


また、魔法使いとしてのレベルを上げるためには、精霊との対話も重要らしい。


レベルアップの仕方は、セオリーのようなものが無い。

なぜなら、精霊の個性に大きく依存するからだと教えられた。


例えば、レベル1からレベル2に上がるきっかけも魔法使いによって様々で、


・精霊とどんどん仲良くなって、いつの間にかレベル2になってた。

・精霊と交渉し、何らかの代償と引き換えにレベル2になった。

・瀕死の重傷を負って、数カ月の療養の末、完治と同時にレベル2になっていた。

・そもそも契約時からレベル2だった。


など、バラバラのようだ。


「ねえモック、レベル2に上がるためには何をしたらいいか知ってる?」



【レベル2ってそもそも何?】


「『意思』だけで精霊から魔力を借りれる状態を人間はそう呼んでるみたいだよ。」


【そうなんや。ウチがパイクの心を読めるようになったらできるかな。】


「読めそう?」


【読めんな。】


ふむ、手がかりは無しか。


一応、生命力を電波のように飛ばして、モックに意思を伝えられるか試してみたが、ダメなようだった。


ちなみに生命力のコントロール技術のことは、モックには伝えている。

ただし、転生については伏せているので、あくまで自然と身につけた不思議パワーとしてだが。


また、魔力と生命力との相性についても、コツコツと検証してみている。

今のところの検証経過はこんな感じだ。


・魔力そのものを生命力でコピーすることはできない。

・魔法の「効果」を生命力でコピーできる場合がある(恐怖の魔法の「効果」とか)。

・生命力による技を使いながら、同時に魔法を使うのは、できなくはないがものすごく難しい。



今のところ、相乗効果を得られそうな要素は何もない。


これについては、自分で研究を進めるしかないので、地道にやっていこうと思う。


さて、もう少しで旅も終わり、久しぶりの我が家だ。


……。父がまた勝手なことをして店が潰れていないと良いが。



ーーーーーーーーーー



家に帰り、一通りの旅の行程と、第五王女が行方不明になって見つかった件、魔族とニアミスした件、魔法使いになった件、来年から軍学校に入学したいという件を伝えると、父が気絶した。


ううむ、もう少し話し方に気を配るべきだったか。


魔法使いの登録は、できるだけ早くした方が良いので、できるだけ早く王都に出発したかったのだが、母ですらとても混乱しており、少し考える時間が欲しいとのことだった。


うーん。家族を困らせるのは本意ではないので、何とか安心させたいところだが。


父が目を覚まし、湯を飲んで少し落ち着いたあと、俺は両親と3人で話すことになった。


「まだどういうことなのか、わたしも飲み込めてないんだけど、パイクが魔法使いになったというのは本当なのね?」


「本当だよ。投網の精霊と契約して、投網の魔法を使えるようになったんだ。」


「ちょっと使って見せてくれないか?」


「まだ、国の名簿に魔法使いの登録をしてないから、バーナムさんの前じゃないと使えないんだ。勝手に使うと捕まるらしい。」


「そしたら、王都に登録しに行くのは仕方ないとしても、軍学校にまで入る必要は無いんじゃないのかい?」


うーん、ここらで、将来勇者のパーティに参加するつもりだと、説明した方が良いだろうか。


いや、やはり両親にとっては、俺はまだ7歳の子供だし、この心配のされ方を考えると、もう少し作戦を練ってから伝えた方が良い気がする。


さて、どうするかな。旅の帰路でも、自分の能力を伸ばすことばかりを考えていて、両親を説得する作戦を全然考えていなかった。


まずは安心させなくては。


安心させるにはどうしたら良いか。


危険なんて無いことを示せれば良いか。


いや、将来にわたって危険なんて無いと言い切ると、ただの嘘になってしまう。

勇者のパーティへの参加なんて、危険しかないだろうしな。


では逆に、俺がめちゃくちゃ強くて、危険なんか問題にならないと示せれば良いか。


いや、さすがにそこまでの自信は無い。

つい最近も、わりと生々しいピンチを実感したところだ。


詰んだか?


ええいままよ。


流れのままに話を進めよう。


「魔法使いになれたからには、正しい魔法の使い方を学ぶ必要があるんだ。ガインさんやバーナムさんに話を聞いて、魔法を正しく学ぶには、軍学校で教えてもらうのが、一番良いと思ったんだ。」


「軍学校を卒業したあとはどうするんだ?そのまま国に兵士として使われることになるんじゃないのか?」


「その可能性はあるけど、どうだろう。たぶん選択の余地くらいあるんじゃないのかな。」


「なんだ!全然どうなるかわかってないじゃないか!パイクが兵士になるなんて、絶対に認めないぞ。軍学校に入学することは許さん!」


「はい、わかりました。」


こうして、俺の軍学校入学は不許可となった。



ーーーーーーーーーー



「ごめんアンティ、軍学校のことを父さんと母さんに話したんだけど、許可してもらえなかったよ。」


「……。そうか、パイクもか。うちもダメだったよ……。」


「はい?」


え?そっちの根回し終わってなかったの?


てっきりアンティの家は、アンティが勇者として強くなることについてはウェルカムだと思っていたが、無条件にそういうわけでもないらしい。


そして、俺を軍学校に誘ってくれるんなら、せめて自分の入学についての内諾くらいはもらっとけよ……。


勇者のノープランぶりがヤバい。

いや、アンティもまだ9歳だしな。多くを求めるのは酷か。


まあ、何が何でも軍学校に入らなくてはならない理由は無い。

できれば魔法使いがたくさんいる環境に身を置いて、生命力でコピーできる魔法の種類を増やしたかったが。


「とりあえず王都には向かおう。明後日には出発したいけど、大丈夫かな?」


「あれ、アンティも一緒に来てくれるの?」


「うん、せっかくだし、一緒に行って久しぶりに王様に挨拶してくるよ。たまに顔を出すように言われてるんだ。いつもたくさん援助してもらってるお礼もしないと。」


なるほど、王様か。

平民にとっては雲の上の存在だな。


挨拶ね。


勇者のパーティメンバーが正式に決定したら、一緒に謁見の機会くらいはありそうだけど、まだ俺には関係無い話だろう。


そう思っていたが。

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