一段落
すべての魚人を魔石に変え、赤い団子を入れてきた袋に魔石を入れ終えると、夕方になっていた。
さて、どうなっているか少々怖いが、トゥーナ村に戻るとしよう。
漁船団が無事だったか気になるしな。
「モック、ありがとね。助かったよ。」
【はっは!そう何度も礼を言わんでもわかっとるよ。それにしてもパイクは、妙な能力を持っとるんやな。】
「そうかもね。まだみんなには内緒にしときたいんだけどね。」
【そうなん?内緒にする意味あるんか。まあええけど。でもウチに内緒なのは腹立つから、あとで洗いざらい妙な能力について話してもらうけどな。】
「モックが気になるならあとで教えるよ。その代わりじゃないけど、魔法の使い方をもっと詳しく教えて欲しいな。」
【りょうかーい。】
そして村に到着すると、やはりいろいろ大騒ぎになっていた。
まず、漁船団の方は、魚人のおびき寄せ作戦がある程度功を奏したようで、被害ゼロとはいかなかったものの、状況に対しては少ない被害で済んだようだ。
安全な時間帯に、突如大量の魚人に襲われた漁師たちは、応戦しつつ救難信号の狼煙を上げた。
屈強な漁師たちは、それぞれ銛や槍で魚人を倒し続けたが、いかんせん数が多く、あわや沈没の危機かと覚悟を決めたその瞬間、奇跡のように魚人たちが次々と去っていったという。
助かった漁師たちは、命があったことを神に感謝する一方、安全神話の崩壊に、今後の漁の方法について頭を抱えているということだ。
……。まさか俺たちの行動が影響しているのではあるまいな。
考えられるとすると、アンティの修行と、ハンモックの撤去か。
まあハンモックは関係無いか。ハンモックだしな。
でも、投網の精霊が、俺と契約したことは何か影響があったかも知れない。
そう思ってモックに訊いてみると、
【関係ないやろ。あれはたぶん魔族の仕業や。】
と、アンティの修行の影響である可能性すら否定して、わりと重要っぽいことをサラッと言った。
魔族って、国から災害扱いされるやつでしょ。
「えっ。大丈夫なの。」
【たぶんな。もう気配とか無いし。あいつら気まぐれだから、あんま気にしても仕方ないぞ。】
すげー不安。でもどうしようもないか。
あとでバーナムに相談してみよう。
魔法のことも含めて、バーナムに相談することが多すぎる。
そしてそのバーナムを含む、俺が気絶させた面々は、いまだに全員気絶したままだった。
親切な村人たちが、空き地にテントを張ってそこに運び込み、看病してくれている。
第五王女の一行はともかく、仲間の四人が心配だ。
恐怖の魔法のコピー、加減しなかったからな。強くやりすぎたか。
トラウマとか植え付けてたらどうしよう。
たぶん治療はできると思うが……。
また、さらなる問題は、四人が回復したあと、この状況をどう説明するかだ。
いっそのこと、俺も気絶したことにして、こっそりテントの中にもぐり込んで横になるか。
いや、いろいろ証拠は残してしまったし、目撃者がいてもおかしくないので、誤魔化しきるのは無理があるか。
「ねえモック、何とかこの騒ぎで僕が積極的に動いたことを伏せたいんだけど、全部魔族のせいとかにできないかな。」
【あー、できるんじゃない?】
ーーーーーーーーーー
「なるほど、確かに魔族の痕跡のようですね。」
モンスターに襲われた漁船をつぶさに調べると、船首の下部に不気味な模様の、焼印のようなマークがついていた。
これを目印として、魚人モンスターが、不活性の時間帯であるにも関わらず、襲いかかってきたということだ。
ここまでは事実。
「そして、その魔族の真の目的は、第五王女殿下の誘拐。皆の意識をモンスターに襲われた漁船団の方に向けさせ、誘拐の成功率を上げる作戦だったのでしょうね。まあ第五王女殿下の一行にとっては、あまり関係が無かったようですが。」
バーナムが、俺に都合の良い方向に勘違いしてくれる。
魔族の関与と、モンスターに襲われた漁船を調べるべき、というアイデアは、投網の精霊からのアドバイスであるとバーナムには伝えた。嘘は言っていないが、若干の罪悪感は否めない。
「しかし、魔族の使う魔法というのは、恐ろしいものです。精神感応系の魔法は、魔法耐性の高い私やアンティには効きづらいはずなのですが、まったく抵抗できませんでした……。」
行方不明の第五王女については、現在全力で捜索が行われている。漁船の調査もその一環だ。
「それにしても、倉庫の鍵や、私が持ってきた誘魔丸が無くなってしまったことも、一連の魔族の仕業であるのかは、推測することも難しいですが。魔族とは無関係の物盗りの仕業と考えるには、貴重品の類が無事なので解せません。」
今頃、第五王女が入ったタルを載せた荷馬車はどのあたりだろうか。さすがにそろそろ目を覚まして、大騒ぎになってるとは思うが。
「謎は残りますが、今は第五王女殿下をお救いするのが最優先です。魔族の関与を、一刻も早く親衛隊に伝えましょう。」
まだアンティの修行の日数は残っているが、さすがにこの状況では第五王女の捜索が優先だろう。
「許さんぞ、魔族め!まだ自分が未熟なのが口惜しい。しかし必ずや、第五王女殿下をお救いしてみせる!!」
アンティが猛っている。一人で暴走してどっかに突撃しないといいが……。
「つーかお前ら、めちゃくちゃな理由で拷問されかけたのに、よく忠誠を守れるな。兵士ってのは全員ドMか何かなのか?」
「パニィ!思っててもそんなこと言っちゃダメなんだよ!どんなにイカれてても王族は王族。王族ってのはそんだけヤバい存在なんだ。」
「ガイン、あなたも口を慎みなさい……。」
さあ、どうなることやら。輸送中に第五王女が目覚めたのなら、すぐに荷馬車は引き返してくるだろうから、明日には何らかの沙汰が下るだろう。
すべては第五王女が今回の件をどう解釈するかだな。
最悪、パニィを担いで家に逃げ帰って、家族ともども外国に逃避行かなぁ。
予想に反して、第五王女ご健在の報が届いたのは、それから3日が経過したときだった。
第五王女は、なぜか地方都市ナーグルの市場で、タルの中に入っているところを発見された。
かなりの騒動になったようだが、魔族に攫われて生存は絶望的と思われていた第五王女が、無事に見つかったということで、そもそもの事件の発端であるトゥーナ村も、一安心の雰囲気に包まれた。
第五王女が無事でなかった場合、村ごと責任を取らされる可能性もあったからな。
攫われてはいなかったものの、今回の事件に魔族が関与していたらしい痕跡はあり、第五王女のバカンスは継続不能となって、一行は即座に王都に帰還するとのことだ。
親衛隊は慌ただしくトゥーナ村を出発し、ナーグルに向かっていった。
ところで、我々や村の責任者に下った、第五王女に対する不敬の罪もうやむやになったが、このままお咎め無しで通用するのだろうか。
そう心配していたところ、
「第五王女の目前ではどうしようもなかったが、勇者への教育任務は『王』からの勅令なので、それを妨げるような断罪は、然るべきルートから訴えれば、取り消させられるだろう。」
とのことだ。村の責任者たちに対する処罰も、そのルートから免除させられる可能性は高いという。
「と言うわけで、一旦キャレット村に戻ったあと、俺とバーナムは事情を説明しに王都に行く。ついでにパイクの魔法使い登録もしたいので、パイクは俺たちに同行して欲しい。」
修行は終了となり、ガインの言葉に従い、俺たちは帰路についたのだった。
【人間ってのはいろいろ面倒くさいね。まあウケるからウチはいいけど。ヒャッヒャッヒャ】
少し腹の立つ精霊とも、少しずつ仲良くなっている気がする。この気安い感じのモックの性格のおかげもあるだろう。精霊とはみんなこんな感じなのだろうか。
契約=結婚なのか、それにどのようなデメリットがあるのか、というのがかなり気になっているが、今のところ悪い感じはしていない。
不安も多いが、魔法か。使いこなせるようになるのが楽しみだ。
しかし、今回の騒動に積極的に介入した代償として、この契約関係が間もなく消滅することを、このときの俺は想像もしていなかったのだった。




