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ジュリエッタのやり直し その伍

短かったがデートも終わり、私は目標を達成して充実していた。


屋敷に帰ると、父が王都から帰って来ていてウェールズを抱いてあやしていた。父はウェールズに会うのは初めてだった。


本当なら、ウェールズが生まれる時に立会いをする予定だったのだが、コレラの件もあって帰ってくるのが不可能であったので、仕方が無いとはいえ、かわいそうだと思った。


しかも、明日にはまたヴェルと私を連れて王都に逆戻りと来ている。これが私なら恐らくキレているかも知れない。


それから父とヴェルは、王族と会うための打ち合わせに執務室へと向った。私は呼ばれなかったので、たぶん専属騎士の事の件について最終確認をするのだろう。


それから暫く経って、私は自分の部屋で待っていると、父に呼ばれて夕食後にヴェルに社交ダンスを教えてやってくれと頼まれた。


私は笑顔でそれを引き受けると「あまり張り切り過ぎるんじゃないぞ」と、父から注意をされた。浮かれ気分がバレちゃった。


それから、夕食を食べると社交ダンスの練習を始めるので、屋敷内にあるダンスホールへと向かった。


ダンスのレッスンが始めり、手拍子に合わせて見本を見せると、ヴェルからの羨望な眼差しを受け有頂天になる。


このな事は、なかなか無いので仕方ないよね。


しかし流石はヴェル。最初こそぎこちない動きだったが、ステップが出来る様になると、徐々に私の動きについてこれるようになって、最後は1曲通しで踊れるまで成長した。身体能力高過ぎでしょうが。


優位性が少し減ったのは少し残念だが、人の成長を間じかに見るってのもありかもしれないよね。


明日も早いのでお風呂に入って、今日も今日とでヴェルの部屋に忍び込む。誰にも止められないこの恋は…小説のタイトルを付けるならこれで決まりだよね。


 次の朝、2台の馬車で出発する事になった。なぜ2台なのかは分からないが、父が気を遣ってくれたようである。


家族と別れ、王都へと出発をするとヴェルは窓の外を最初は興味津々で見ていたが、単調な風景に飽きがきたみたい。


私も寝落ちしていたのか、ヴェルに起こされてトイレ休憩となった。ヴェルはこの村の名物の串団子を買って食べ始めると、よほど美味しいのか涙ぐみながら団子を食べていた。


私も食べたが『これって涙を溜めながら食べるほど美味しいの?』だけど、喜んで貰えて良かった。


野盗の情報や魔物の情報もあったが、冒険者が退治したのか無事に宿場村へと辿り着いた。


ヴェルと部屋が別々だったので父に抗議をすると、2人部屋が空いていなかったと諭された。どうせ夜には忍びこんで一緒に寝るのだ。


折角こうして旅に来たのだ。ヴェルと雰囲気だけでも楽しみたい。そう思いレリクに相談をしてみると、あっさりオッケー。てなわけで、ヴェルを誘って夜の散策をする。ヴェルも楽しそうでよかったよ。


思えば、ヴェルとこうして各国を旅しながら色々な国、町、村を巡ったけど平和な世の中ではなかったので、楽しい思い出は少なかった。むしろ辛い旅だった。


魔王が復活する2年前ほどから魔物は活性化。魔物は月日が経つたびに強くなり、小さな村や領地などから魔物に蹂躙され地図から消されていった。


旅の途中、何度も村や町が魔物に襲われ助けた事があった。村人を失い途方に暮れている状態なのに、そのお礼と言って、なけなしの食料でもてなされ、ヴェルと涙を流しながら食事も何度も味わった。


そんな記憶があるせいか、この平和な世の中であるこの時に、私は好きな人と旅を楽しみたいのよ。


別に損というわけではないが、こうして上書きをしないとあの時味わった辛い事が思い出されるのだ。



 翌日、王都に出発して暫く経つと、前方から凄い勢いで行商人と思われる馬車が走って来た。レリクの話によれば、野盗が現れ荷物をねこぞぎ献上させられたと言う話だった。


この時代での野盗は荷物やお金を渡しさえすれば、命までは奪わない。


だが、未来では人質まで奪い、違法である闇の奴隷商人に売りつける者や身代金目的の野盗、盗賊、山賊が蔓延して、他国の兵士やギルドが手を焼いていたのを思い出す。


そんな事を思い出しながら、ヴェルと一緒に武器を持ち、父のいる馬車へと移ろうとすると、森の中から野盗が現れた。


いつの間にか、護衛であった御者は地面に這い蹲り、髪の毛を掴まれ身動きが取れない状況になっていて、野盗の頭領らしき男が私達を威嚇するように近づいて来た。


ヴェルは私を馬車に守るように入れてから、剣を構えると「目を塞ぐ準備を」と耳打ちされると、ヴェルの編み出した閃光と言う魔法を使うのだと直ぐに分かって目を閉じた。


「ジュリエッタ!!」と言われヴェルとの反対方向を見るとすかさず「閃光!!」と詠唱する声が聞こえたので目を強く瞑る。


刹那、瞼ごしにも分かるほどの光が10秒ほど続き、収まったので目を開けると、敵味方問わずに目を押さえながら「ぎゃ~!!目が目が~!!」と絶叫して悶絶をしていた。


父や護衛の兵士には申し訳ないが、私はヴェルに重力魔法を掛けて貰い、首筋を狙って短剣の鞘で意識を刈り取っていく。しかしこの閃光は凄い威力だ。


中途半端な攻撃だと剣を振り回され近づけないかと思ったが、目が痛くて誰もが武器を取る事さえ出来ずにいる。


転生前のヴェルも光魔法は使えたが、夜歩く時や、暗がりのダンジョンを照らす程度であった為、今のヴェルの方が圧倒的に魔法を使いこなせているのが分かる。凄い。


ヴェルが馬車に積んであるロープで盗賊達を縛っている間に、私はヒールで父達の目を治していった。父は驚いていたが、野盗共を拘束するのを優先して木に括り始めた。


「ジュリエッタ、ヴェル君、さて、詳しい話を聞かせて貰おうかな~」


父は、苦笑いをしながらそう言うと、ヴェルが「分かりましたが、ここではちょっと…」と、話せ無いと言う事で、馬車へ移って話をした。


ヴェルは重力魔法が使える事を隠して、全てを父に話しすと父は絶句していた。


魔法が使える事よりも、ヴェルに魔法の知識と推測についてだ。神様に教えられて分かった知識を自分一人で解き明かしのだから、父が驚くのも無理もない。


それから、父にこの知識や技術をどう使い、どう役立てるのかと尋ねられると、ヴェルは私を守る為だけに使いたいと父に申し出ると、私はそれが例え嘘であっても嬉しくて涙が溢れてきた。


父に世界平和の為に使ってほしいと頼まれてヴェルは、私の専属騎士のままでいいのならと渋々了承。


最後まで私の事を立ててくれた事に感謝をした。本当に生まれ変わって良かったと思う。


それから父は護衛の兵士を集めて口止めをすると、野盗達の尋問を始めた。それをヴェルと馬車の中で見ていたら、レリクが村から馬車と兵士を連れて戻って来た。


父の命令で、サンジュ村の兵士は、野盗1人を連れて森へ消え、私達はサンジュ村へと馬車を走らせた。


「ねぇ、ヴェル。さっきはありがとう。私ね凄く嬉しかった。大好きよ」


そうお礼を言うと、ヴェルは耳まで真っ赤になって「礼には及ばないよ。本当の気持ちだしね」と、照れ隠しをするように外を見た。


もしヴェルが、異世界の記憶をもっていてもいい。たまに『おっさんかよ』と思う事もしばしばある。考え方も力も転生前とは随分と違う。


それでも、優しくて、不器用なところは所は変わっていないように思える。


そんな、私の事を第一に考えてくれていて思ってくれている、騎士(ナイト)に心底惚れていた。何があっても離れない。離したくない。


そんな思いをぶつける事も無く宿場町に辿り着く。この宿場町に来るのは転移前と合わせて3度目で、ヴェルと来るのは初めてである。


この宿場村の宿には個室に温泉があって、子供の間にしか一緒に入る事が叶わないのなら、多少強引でもヴェルと一緒に入る事を決意する。


そして、その好機は直ぐにやって来た。父が折角二人部屋を用意してくれたのに、その気遣いにヴェルが水を差した。あり得ない!だが、ビッグチャンス到来だ!


「罰として、一緒に露天風呂に入って!」


すでに私の中には罪悪感は無い…専属騎士は婚約と一緒だと言う大義もあるし、通算26歳の自我が残っているだけ始末が悪いのは自覚はしているのよ。でも少年が好きなわけじゃないのでご安心を。


どーんとこいだ。お姉さんに任せなさい。な~んて事は言えないが、神様ありがとう。そう祈らずにはいられない。


ヴェルは渋々ながらも、先に温泉に入ると夜空の月を眺めていた。


私もかけ湯をしてから、湯船に浸かり同じように月を眺めた。夜空に浮かぶ二つの月はいつ眺めても寄り添うようにあって「あの二つの月のようにずっと寄り添って生きて行きたい」そう、転生前からず~と思っていた。


その言葉をつい発していたようでヴェルもまた「そうだね。命ある限り、いつも一緒に居られるといいね」と答えてくれた。そんな耳障りの優しい言葉が心に響いて、思わず涙が溢れ出していた。


お湯を掬い、顔を洗うと、気を遣ってくれたのかな?そんなタイミングでヴェルが体を洗いに湯船から上がる。


私はヴェルの背中を洗ってあげたいと言う衝動にかられ、ヴェルにそう言うと最初は嫌がったが、最後には受け入れてくれた。


ヴェルの背中を洗いだすと、鍛えているようで筋肉が物凄くあって驚いた。私が洗い終わると「よしっと、終ったわよ。次は私の番ね」と無茶振りをした。


ヴェルは先読みでもしたように、呆れた顔をしながら髪の毛を洗ってくれると言い出した。


髪の毛は昨日洗ったので今日は止めておく筈だったのだが、折角ヴェルが洗ってくれると言うので、喜んでそれを了承した。


ヴェルは髪の毛を洗う道具でもあるのか?何かを取りに部屋に入り、直ぐに小瓶を2つ手の中に隠して帰って来た。


ヴェルは石鹸を泡立てると、小瓶から何やら取り出してその石鹸の泡に混ぜながら私の頭をシャカ、シャカと心地の良いリズムで洗い出した。


筆舌しがたいぐらい気持ちがいい。しかもいつもなら髪の毛が指に絡まって痛い思いをするがそれもない。感動するレベルだ。


石鹸を洗い流して、自分髪の毛を触ってみると指通りが良く、つっぱり感も無い。こんな感じは生まれて初めてだった。その秘密をヴェルに聞いて見ると、清流スライムとレモンには髪を綺麗に整える効果があるらしい。


おそらく、清流スライムを買ったのは、この髪の毛専用の石鹸を開発する為であったのであろう。もしこの石鹸が世界に流通するならば、ヴェルは間違えなく大金持ちになれる。そう思うと鳥肌が立った。


温泉から上がり、髪の毛を魔道具で乾かすと、髪の毛はツヤツヤ・サラサラになり、まるで御伽噺に出てくる天使のような輪が出来て驚いた。


これはヤバイ商品だ。間違えなく売れる。売る売らないかは別にして、自分の髪の毛の美しさに、思わずうっとりとしてしまい、ため息が出てしまった。別にナルシストでは無いよ。


それから、ヴェルに聞く話だと、大人専用の化粧水とやらもあるそうだが、素材が一つ足らないし子供には効果は無いみたい。


そんな感じで、宿が用意してくれてあった館内着に着替えると、軽くしかもしなやか髪の毛に満足しながら食事に向った。


食事処に着くと、すでに父達はお酒を飲んで盛り上がっていて旅を満喫していた。


ヴェルがお酒に釘付けになっていて羨ましそうな顔をしていたので、恐らくだが、異世界の記憶の残る、おっさんヴェルが飲みたがっているのだろうな。


『少しぐらいならいいんじゃないの?』そうは思うが、ヴェルはまだ体が出来上がっていない9歳の子供の体だ。何かあったら責任が取れないので言えなかった。


席に座り料理を頼むと、お父様達も私達の髪の毛のツヤにようやく気がついたのか追求された。


これだけ髪が美しくなるのであれば、当然と言えば当然だよね。


父は、王族の手土産に何か作れないかとヴェルに聞くと、ヴェルはグリセリンがあれば、先ほど言っていた化粧水が作れると言ったので、エルドに買いに行かせた。行動が早すぎる。


それから暫く経つとエルドは戻ってきて、ヴェルにグリセリンを渡すと、野盗のアジトには人質も仲間もいなかったと父に報告。父は野盗がアジト蓄えた金品は、野盗を退治したヴェルに所有権があると告げた。


ヴェルは考えようとすらせずに、身元の分かる金品は持ち主に返却、分からない物は孤児院に全額寄付すると言い出した。


あなたは聖人ですか!と言いたいが、髪の毛専用の石鹸さえ販売してしまえば、一生遊んで暮らせるお金が手に入るのでそれもいいかな。っと自分のお金でもないのに、つい勝手にそう判断してしまう。


だが事もあろうことか、髪の毛専用の石鹸も寄付すると言い出した。流石にそれは無い。魔王が復活しても、お金は必要になる。旅の時に散々お金には苦労したので分かっていた。


何とかヴェルを説得をして早まった考えを改めて貰う。


それから部屋に帰ると、化粧水を完成させて、父達も髪の毛専用の石鹸水を使いたそうにしていたので、ヴェルに作って貰って渡しに行くと大喜びであった。


全員が髪の毛専用の石鹸水に満足しながら夜が更けていく。

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