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ジュリエッタのやり直し その参


厳戒令が出されてから2ヶ月が経つと、コレラの収束宣言が出されると王都にいる父から伝書鳩で連絡があった。


それにしてもこの2ヶ月間、ヴェルには毎度の事ながら驚かされるばかりであった。特に勇者のみが使えるとされる重力魔法を使った時は私は絶句した。ヴェルが勇者の末裔だとは知っているけど転生前は使えなかった。


全部は使えないみたいだけど、鑑定スキル、術式展開のスキルも使えるらしい。神様が転生後にヴェルに予め加護を与えたのかも知れないな…


それはそうと、転生前ではヴェルのお母様が亡くなるという一大イベントも無く安堵した。


これでこの先どう運命が変わるのかは分からないが、きっと良い方向に進むだろう。今はやれる事をやれるだけやるしかないよね。


そんな訳で、かなり寂しいけど、明日は実家に帰る事になった。母も生まれて間もない弟、ウェールズを連れて帰ってくると連絡があった。次は母を落とす番だ。


ヴェルと一緒に寝られる最後の晩になると、途端に寂しくなって、ヴェルの気持ちが分からないのに傍若無人に振舞って嫌われる事を恐れたが、私は気持ちを抑えきれずにヴェルの唇にキスをした。照れくさくて布団に潜る。


転生前も、ソファーや違うベッドで眠るヴェルにこっそりキスした事はあったが、起きているヴェルにキスをしたのは初めてだった。顔から火が出るぐらい恥ずかしかったが、して良かったと思えるぐらい心が満たされた。


 翌朝、馬車が迎えに来たので、ヴェルと別れると馬車の中で寂しさのあまり涙が出てきた。一緒にいる時間が長すぎて、依存度が高くなっていたせいであろう。


屋敷に到着をすると、従者さん達に挨拶をして、執事さんにお母様と生まれて間もない弟のいる寝室へと向った。


「お母様。お帰りなさい。そしてただいま」


そう挨拶をすると、母は苦笑いをしていた。


転生前に既にウェールズとは一緒に生活を何年かした事があるので、感動は薄いと思っていたけど、孤児院に預けた事を思い出して、心の中であの時の謝罪をする。


『今回は、お姉ちゃんが必ず孤児院に預かって貰わないように、がんばって守るからね』


生まれたての小さな手を握って誓う。


「ジュリエッタ。それでいつヴェル君だっけ?会わせてくれるわけ?それにこれは何?」


そう言うと、お父様の手紙と承諾書なるものが私に手渡されたので見てみる。



前略、エリザベートには、まだ報告をしていなかったが、ジュリエッタがヴェル君を専属騎士に選んだようだ。


王宮では今、姫様の命をコレラから救った英雄だと、ヴェル君の話題で持ちきりだ。


私個人の意見だが、ヴェル君ならジュリエッタを幸せにしてくれると確信しているので、勝手だがアルフォンスから承諾書を貰った。

ヴェルの母親にも送ったから、誰かに行かせて至急貰っておいてくれ。


後は、エリザベートが許可さえだせば、専属騎士の儀を受けに王都にジュリエッタと共にヴェル君を連れて行こうと思う。




そう書かれている手紙と、ヴェルの父親からの承諾書を見て、父に心の底から感謝をしたと同時に、手紙に書かれているように、王族にヴェルの事がバレた事を危惧する。


「お父様もヴェルのお父様も認めて下さったのですね。それでお母様はどう思われますか?」


「どう思うもこうも、会った事も無いのに許可を出せるわけ無いでしょうが。確かにあなたの成績がヴェル君のところに行きだしてから上がったのは認めるわ。でも何を隠しているの?そんなに私にそのヴェル君を見せるのが嫌なわけ?」


「そうではありませんよ~。またお母様な何を言い出すのかと思うと、会わせるのは時期尚早だと思ったからです」


「2年もの間会わせないで何いってんだか。人を悪者にしないで頂戴よ。成績が上がった事についてもお礼も言いたいし、返事をしないといけないから早く連れていらっしゃい」


教えを請うのに屋敷に呼ぶのは失礼だと説得をして、一緒についてくると言うのも拒絶し続けていた。これには理由があって、母は職業がらなのか人を見抜く力があり、容赦無いほどに毒舌だあったからだった。


母は転生前では、ヴェルに光るものがあると見抜き、専属騎士にと認めてくれてはいたが、内気な性格と精神的な弱さはずっと厳しく指摘をされてきた。


転生前のヴェルは、落ち込みながらも強くはなったが、また何を言いだすか分からない以上は会わせたくない。そう思って今日まで来たが、これ以上はどう考えても引き延ばせそうにない。


それから昼食を食べていると、また伝書鳩がやってきて紙を見るなり「うそ…こんな事があっていいの?」と、驚愕すると何やら考え始めた。


「どうしたのお母様?」


母の話によれば、陛下と姫様が率先してコレラの蔓延を防いだ英雄としてヴェルとの謁見を望んでいると聞かされた。やっぱり手を打ってきたな。喜びや驚きよりもまずそう思った。


専属騎士になって欲しいと、先手を打っておいて良かった。不安は残るけどね…


母は驚いた顔をしたあと眉間に皺を寄せて何か考えていたが何を考えているのかなんとなくだが分かる。


「ジュリエッタ。ヴェル君が謁見に行く前までには必ずここに連れていらっしゃい。時間が無いから馬車を手配するわ」


「分かりました。こうなる予見はしていたのですが、もっと早く行動をすべきでした」


母とそう話ていると、おじい様がこちらにやってきた。


「ワシはヴェルに会わなくてはならなくなった。まだ職務が残っているのだが、既に耳に入っているとは思うが、陛下の望みであるなら仕方が無かろう」


おじい様はそう言うと、母はこの好機を逃すまいと、こちらから馬車を手配してヴェルを迎えに出すと言った。願ったり叶ったりだ。


おじい様は、ヴェルには自分が謁見の話しをすると言う条件で、この屋敷に直接連れてくる事を了承した。


そう決まると、私はワガママを言って、明日ヴェルを迎えに行くと涙ながらに訴えた。母は呆れた顔をしていたが、ヴェルのお母様からも承諾書を貰わないといけないので、渋々許可をして貰った。


本当なら、ウェールズの面倒を見てあげるべきだが、私の未来が掛かっているのだ。自分勝手な行動をするお姉ちゃんを許してほしい。


 

翌日、まだ暗い5時に屋敷を出発して、ヴェルを迎えに出た。眠かったけどテンションが上がって、鼻歌まで歌ってしまった。御者をせいてくれているレリクに鼻歌を聞かれちょっと恥ずかしい。


ヴェルの待つ屋敷へと辿り着くと、ヴェルのお母様は起きて待っていてくれた。挨拶をすると、ヴェルのお母様から承諾書を受け取る。


「ヴェルのお母様、この度は私の専属騎士の件、お認めいただいて、ありがとうございました」


「こちらこそ、ヴェルを選んでくれてありがとうって言いたいわ。でも本当にヴェルでいいの?」


「もちろんです。ヴェルがいいんです」


私は、自分で墓穴を掘る。これじゃ自分が言い出したのがまる分かりだ…事実だから仕方が無いのだが。


それから、ソファーに腰掛ける様に促され、ヴェルはまだ寝ているらしいので、侍女のテーゼさんがヴェルを起こしに行った。


ヴェルのお母様は、私が来る事も、私の屋敷に行く事も、全てヴェルには伏せているようで、私もその悪戯に付き合う事にした。どんな反応をするのか楽しみだ。


テーゼさんがヴェルを起こして戻ってくると、ヴェルは少し眠そうに階段を下りてきた。私にはまだ気付いていない様子だ。


「ヴェル、おはよう。早く顔を洗ってらっしゃい」


「は~い」


「何よそのやる気の無い返事は~。ジュリエッタさんが見ているわよ」


ヴェルのお母様がそう言うと、ヴェルは私に気が付いて絵に描いたように仰天をする。なかなか面白い反応だった。


それから早速、実家のある屋敷に向うと、少し話しをしていると急に眠気が襲ってきたので、ヴェルに断りをいれて寝てしまった。ヴェルの肩にさり気なくもたれ掛かると、なんだか安心感があって直ぐに意識を飛ばしてしまった。


「ジュリエッタ。おじい様の領地に入ったみたいだよ」


そんな声に起こされると、いつの間にか膝枕をされていて思わず赤面をしてしまった。


深呼吸をして心を落ち着かせると、やっくりと起き上がる。ヴェルはこのジェントの町をおじい様の町と勘違いしているようだった。


なので正直にタネ明かしをすると「母さんめ!やってくれたな~」と、頭を掻きながら苦い顔をしていた。


屋敷の玄関に到着をすると、問答無用とばかりにヴェルはおじい様の執務室に連れていかれた。王都に行って謁見する話と、謁見の時に着る服の採寸をするようだ。


私は母に報告をしていると、ウェールズが泣き始めたので母は授乳を始めた。


「お母様、私がここにヴェルを連れて来ますね」


「ええ。お願いをするわね。楽しみだわ」


おじい様の部屋の前で待っていると扉が開いた。ヴェルの姿が見えたので手を振ると、ヴェルは手を振り返してくるて、おじい様と役目を交代してヴェルを両親の寝室に連れて行った。


ヴェルを母の所に連れて行くと、8歳とは思えない落ち着きと言葉で挨拶をすると母を唸らせた。


隠すつもりは無かったのだけど、ヴェルは専属騎士が婚約と同義だと知ると、あからさまに狼狽たえた。それでも最後は私を守ってくれると、お母様に誓ってくれた。なんだか胸がじーんと熱くなった。


そうとなると、母は転移する前よりも乗り気で?私の専属騎士になっても良いと認めてくれた。これも陛下と姫殿下のお陰かな?と思うと内心は少し複雑だが、結果としては最高の形だったので良かった。


それからお母様は、ヴェルの実力を測るために、ベッド横のサイドテーブルがら一枚の書類を取り出して、数字を読み始める。


幾らなんでも頭の中で、この桁の数列を計算しろだなんてありえない。そう思ったのにヴェルは、まるで答えを知っているように瞬時に答え始める。


母と指で数字をなぞるように答え合わせをすると、寸分違わず答えは合っていた。異世界の教育はいったいどうなっているのかは謎だがこればかりは驚愕に値する。凄くてかっこいい。パーフェクトだ。


母は感激のあまり、ヴェルの手を握ると私の専属騎士など止めて、母の専属の文官になって欲しいと目を輝かせて言った。それは無いんじゃない?初めて転生後に嫉妬をした。


ヴェルは、そんな私と母に妥協案を…この屋敷にいる間は書類の整理を手伝ってくれるのだと提案をしてくれた。


それから、母は手伝って貰う為に、私にウェールズを預けて執務室に案内をしに行った。私はヴェールズの背中をトントン叩きながらゲップをせていた。


ウェールズは1分も満たないうちにゲップを出したので、ベッドに寝かせるとズヤスヤと眠った。かわいい。


それから暫くウェールズの顔をみていると母は帰って来た。


「ジュリエッタ。交代よ。ヴェル君を手伝ってやりなさい」


「はい。お母様、それでヴェルの事、気に入って貰えましたか?」


「ええ。よくヴェル君を口説いたわ。正直あなた達が言っていた以上で開いた口が塞がらないかと思ったわよ。これで剣術や魔法が人以上なら文句ないというか、天は二物を与えんと言う言葉があるけど、もしそうだとするなら神子ね」


自分の思い人をこうして認めて貰えて、なんだか自分が褒められた以上に嬉しかった。

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