第八話 イカ臭い船2
再び長く書けて嬉しいです。
あと、ルビを初めてふってみました。
「力の神髄を見せてやる」
クロキさんの目が黒色から灰色に変わる。
その瞬間、星空が灰色に染まり、世界から色が消えていく。
そして、クロキさんからは殺意と威圧が放たれた。
泣きそう……
ちびっていい?
クラーケンは眩んだように触手をクロキさんに向けて振り下ろす。
クロキさんはそれを横に五メートルほど離れたところに一瞬で移動し、躱す。
だが、クラーケンも振り下ろした触手をクロキさんに当てるように素早く動かした。
クロキさんは高く飛ぶことで再び躱すが多方向からクラーケンの触手が伸びる。
「【白椿】」
クロキさんが美しい円を描くように近づくすべての触手を切り裂いた。
だが、再生はしない。
斬られた断面をよく見ると綺麗に凍り付いていた。
「ふむ、触手の数が無駄に多いな。まぁ、私からすればあっても無くても変わらないがな」
その言葉の意味が分かるのか、それとも斬られた足が痛いのか、クラーケンは激昂し無数の触手を向かわせた。
しかしその刹那、クロキさんが消える。
「この能無したちは返してもらうぞ」
「痛っ!」
リンネさんとシャクセンさんを捕えていた触手をバラバラに切り裂き二人を救出する。
シャクセンさんはクロキさんに抱きかかえられ、リンネさんは襟を片手で掴まれていた。
甲板に着地するとクロキさんはリンネさんをやや雑に降ろして、シャクセンさんをゆっくりと丁寧に降ろした。
さっきの攻撃?で服が所々破れ、さらしが見えてしまっているシャクセンさんにクロキさんは自分のスーツを肩にかけるとクラーケンの方に再び視線を向けた。
へぇ。
シャクセンさんって胸が他の人と比べて小さいな、って思ってたけどさらし巻いてたんだ。
って、ダメだろ今そんなこと考えたら!
「ちょっと!乙女の扱いがなってないんじゃないの!」
当然扱いが違ったリンネさんが涙目に抗議する。
「貴様は自力で脱出できただろう?それは私の手を煩わせた罰だ」
「ねぇ、それでも酷くない?」
「酷くはない」
自力で脱出できたんだ……。
二人が言い合っている中、シャクセンさんだけはぼんやりとしていて、
「悲報。ワイ、もうお嫁にいけない……」
などと言ってプルプルしていた。
グオオオ!
無視されたのが気に食わないのか暴れだすクラーケン。
「ふん、話は終わってからにしろ。私はこれを片付ける。リク、戦闘の参考にしておけ」
「はい!」
「待ちなさいよ!」
「待たん」
クロキさんはそう言うとクラーケンに向かって歩き出した。
「この刀の銘は『氷華』。その名の通り、貴様の血で万輪の華を咲かせて見せよう」
クロキさんはゆっくりと抜刀の構えを取り、消えた。
「【牡丹】」
ゴフッ!
俺の目には映らなかったが、見たところクラーケンに向かって突進し風穴を開けたようだ。
クロキさんはクラーケンが事切れるの確認してから、戻って来た。
同時に世界に色が戻ってくる。
「ど、どうだ、リク?私は問題なかった、だろう……」
息が荒い。
目の色も戻っている。
フラフラした足取りだ。
クロキさんは刀をもとの亜空間に直し、聞いた。
「シャ、シャークはともかく、リンはなぜ捕まっていたのだ?一人で倒せた、だろう……」
クロキさんの目の焦点が合わなくなってきた。
「隕石とか撃ちたかったけど、そんなことしたら船が沈んじゃうでしょ?だからずっと手加減してあげてたの」
ニコニコと言うリンネさん。
二日前の話を聞いているからか嘘っぽく感じる。
あとなんか怖い。
「怪我を、したら、どうするんだ。この、痴れ者、が……」
そう言ってクロキさんは倒れこんだが、察知していたのかシャクセンさんすぐに駆け付け、胸で受け止めた。
「やっぱ熱があるやないか!大丈夫か!」
クロキさんは動かなくなってしまった。
まぁクロキさんだし大丈夫だろう。
でも、すごいな。
俺はイカの触手三本相手にするのがやっとだったのに、クロキさんは風邪を引きながらも倒してしまった。
いろんな意味で勝てるビジョンが浮かばないな。
「思ったよりも大きいわね……食べ切れるかしら?」
何もなかったかのように呑気に言うリンネさん。
てか、これ食べるの?
クラーケンの死体を見るとその全体の大きさが戦艦の二、三倍の大きさだった。
そして更に〝素晴らしいことに″船はとてもとても―――
イカ臭かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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