第七話 イカ臭い船1
長めに書けて嬉しいです。
俺たちがドルフィン号に乗ってから二日が経ったが大きな事件は起きていない。
しいて言うなら、リンネさんが船酔いで吐いたりしているぐらいだ。
モンスターが出ても、リンネさんが魔法で瞬殺するか、シャクセンさんが大砲で瞬殺するので問題はない。
俺は今、海に落ちていく夕日を眺めてまどろんでいるとあることに気が付いた。
「あれっ?この二日間、一回もクロキさんに会ってない?」
おかしい。
クロキさんはどうしようもない場合を除き、朝食には必ず出席する。
そんなクロキさんが一度も部屋から出てこないのだ。
見に行こうかな。
でも全力で来るなって言ってたしな……。
「まぁ、クロキさんなら大丈夫か」
俺はそう結論付け、夕食に向かった。
この馬鹿でかい要塞型戦艦には食堂がついており、原理は知らないが調理されたものが自動で出てくる。
俺は料理の載った白いプレートを取り、席につく。
「ねぇ、リク。クロちゃん見てない?」
リンネさんが心配そうに言う。
「見てませんよ」
「ワイも見かけへんかったわ。部屋から一度も出とらんのやろ」
シャクセンさんが俺の隣に座った。
クソどうでいいことだが俺のプレートにはハンバーグ定食、リンネさんのプレートにはフルーツが、シャクセンさんのプレートには鮭のムニエルが載っていた。
「まぁ、明日の朝には着くし、出て来るやろ。リク、準備しときや」
「分かりました」
事件は夜遅くに起きた。
――――エマージェンシー!エマージェンシー!緊急事態発生!クラーケンによる攻撃を確認いたしました。繰り返します。クラー―――
「なにごと?」
大きな音に俺は跳ね起きた。
嫌な予感がして俺は甲板まで出て行った。
グオオオ!
なんか馬鹿でかいイカいるんだけど。
イカってこんな鳴き方するの?
「どうしましょう。海上で戦っているから規模の大きい魔法が使えないわ」
リンネさんが紅い髪を揺らしながら言う。
「どないすんねん。大砲撃たれへんやろが、近すぎじゃボケ!」
シャクセンさんが荒ぶっていた。
もしかしてわりとヤバい感じ?
「リク!危ないから下がっていなさい」
言われた通りに下がって眺める。
シャクセンさんがイカの触手を海賊が使うような剣で切り裂くがすぐに再生する。
リンネさんが得意の火魔法で攻撃するが海の上なので決定打にかけるようだ。
「きゃっ!」
「なんやなんや!」
あっ!捕まった……。
「リクに触手プレイなんていう教育に良くないもの見せれないわ。リク、部屋に戻りなさい!」
「アホ!心配するとこそこやないやろ!」
どうやら、こんな状況でもリンネさんは平常運転のようだ。
「おい!変なとこに入ってくんなや」
「逆さにしないで!」
シャクセンさんは触手に絡まれ、リンネさんは触手で振り回されていた。
この差はいったい……?
「や、やめぇ」
「吐きそうになってきたわ」
ギィィ。
後ろの扉が開く。
「騒がしいと思って出てみれば……貴様ら、何をしている?」
「クロキ!」
「クロちゃん!」
クロキさんが来たなら安心……だ?
クロキさんはいつもの姿と大きく違っていた。
普段きれいにオールバックにまとめている黒髪はぼさぼさで寝ぐせも目立つし、いつも着ている黒いスーツは皺だらけだった。
さらに言えば目元には深いクマがあり、肌は不健康そうに白くなっている。。
「クロキさん、大丈夫ですか?」
「私に対して大丈夫など――ゴホッゴホッ――ふ、ふざけているのか」
「明らかに大丈夫そうじゃないですね」
「大丈夫だ。問題ない」
「それ、大丈夫じゃないときのセリフ!」
「コホン、リク。私の決定は絶対だ。貴様ごときに決定権はない」
今言うセリフじゃねぇ!
絶対風邪引いてるだろ!
強がりなのか?クロキさんは実は極度の強がりだったのか?
「ふん、では刮目せよ。私が問題ないことを証明してやろう」
そう言ってクロキさんは亜空間から抜身の美しい蒼白い刀を取り出した。
なんか刀身からは蒼白のオーラが溢れている。
「クロちゃん話してないで早く助けて~。このままだと胃と服が大変なことになちゃうよ~」
「ら、らめぇ!……」
リンネさんは振り回され続け、シャクセンさんは触手で見えなくなった。
そしては俺は時々来る触手に対応しているのに精一杯で、クロキさんは俺の見慣れない刀を構えている。
なんだこのカオスな空間は……!
ここまで読んでいただきありがとうございます。