第六話 転生者は病みがち
カオス回のにする予定でしたがシリアス回になってしまいました。
次話か、その次にします。
「尊すぎるッ!」
バタンと倒れこむリンネさん。
「大丈夫ですか、リンネさん?」
「ううう、推しが尊いよ~。ただでさえ、可愛くてカッコいいのにあんな至近距離にずっといられたら心臓が持たないよ~」
ポコポコ地面を叩いている。
俺はこの状態のリンネさんを知っている。
クロキさんが目の前にいた後や、カッコいい言動をした後に起こる現象だ。
この状態になってしまったらひたすら「推し」やら「尊みの極み」などと呟いて悶え続けるのだ。
「何でまたそないなことなってんねん?」
「ここに行く前の話なんだけどね、顎クイしてもらったの~」
「なんやと!ほんまか!」
シャクセンさん合いの手が上手いな。
「ホントホント。今日のクロちゃんおかしかったけど」
「やっぱり機嫌悪かったですよね」
「うーん……。そうじゃなくてね。いつもと比べて目の焦点が定まってなかったり、姿勢が三度ぐらい傾いていたり、あとは心拍数が20高くて呼吸数が毎分二回多いことがおかしな点ね」
怖っ!
目の焦点が定まってないのはリンネさんなんじゃ……。
「怖えよ。心拍数と呼吸数知っとるって何もんやねん」
「何者って、ただの推し活しているだけの乙女ですけど」
ジト目でシャクセンさんのことを睨むリンネさん。
「ただのではやないねん、それは」
そうだ。いい機会だし、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみよう。
「『推し』って何ですか?」
「そうね……」
軽く聞いたのに真面目に考え込んでしまった。
「『推し』とはそれさえあれば自分なんてどうでもいいし、それの笑顔のためならどこまでも非情にだってなれるような存在かしら」
「それじゃあ、何でそんなにクロキさんが推しなんです?」
「えっとね……」
「ガキンチョ、長くなるから覚悟しいや……」
シャクセンさんが呆れた顔で言った。
「私ね。実は前世の記憶があるの。それでその記憶には苦しいことしかなかったから、生まれてすぐに死のうって、思ったの。こんな苦しい生はもうたくさんだって。
死のう死のう、ってずーっと思ってたの。でも行動に移せなくて夢の中で何度も何度も自分を殺したわ。
それでも惰性で生きていたんだけど、ある時依頼でモンスターと戦って、しくじっちゃって死にかけたちゃったのよ。ようやく私は死ねるのかな、なんて思ったわ。
でもそのとき組んでいた臨時パーティーにクロちゃんがいたの。クロちゃん私の抜けた戦力の穴を一人で必死にカバーしながら死にかけの私になんて言ったと思う?」
そこで言葉を切り、クロキさんの似てない声真似をして言った。
「『独りで死にたいならば、後にしろ。後で私が殺してやる。だから今は生きろ』って」
俺は何も言えなかった。
死にかけの人に言うセリフじゃないとは思うが、きっとそれがそのときのリンネさんが欲しかった言葉だと不思議と分かってしまう。
「私、クロちゃんの『独りで』って言葉にドキリとしちゃったの。私、これから独りなんだって。それだったらクロちゃんの言う通り、殺されて死にたくなっちゃったの。
それからパーティーにいた回復術師の子に死なない程度に治してもらって、気合で戦場に復帰したわ。クロちゃんは『わざわざ殺すのは面倒だ』って言って結局殺してはくれなかったけどね。
それから、私はクロちゃんの虜になったの。
偉い人はこれをつり橋効果だの、死の淵を彷徨っていたからだの、と言うけれどもそれでもいいの。
クロちゃんって、時々私に思いっきり構うでしょ。
あれは私が死なないように引き留めてくれてるんじゃないかって思ってる。本心はどうであれね」
リンネさんはフフッと笑って続けた。
「でもね、私はやっぱり最期クロちゃんに殺されたいな」
リンネさんはそう言うと恍惚とした表情を浮かべた。
「おい、リンネ。質問の答えはどないしたんや」
若干引いてる俺の代わりにシャクセンさんが聞いてくれた。
「ああ、そう推しね。私の前世の記憶で唯一いい思い出が『推し』っていう存在のことを考えていたときなの。それの名残よ。
だから私は一番大切なものを『推し』と呼んでいるの。前世の記憶がなければクロちゃんにも会えていなかったと思うから」
それからリンネさんはゆっくりと髪をかき上げた。
「さ、出発しましょ」
俺は初めて聞いた『前世』というものに思いを馳せ、要塞型戦艦ドルフィン号は『キモキモアイランド』へ向け出発した。
転生者こわぁ。
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