第六十四話 師匠いるじゃん
お久しぶりです。
眠いので寝ます。
おやすみなさい。
『痛い、痛いよぉぉぉ!』
教祖が叫ぶ。
中性的な顔から涙が零れる。
「―――ッ!」
俺の額から汗が一筋垂れる。
ヤバい。これはマジでヤバい。
冗談抜きで駄目なやつだ。
「どうしたんですか?このまま倒しちゃいましょう!」
サツキがスーパーヤクザソードを構えて言う。
「サツキ!待て!」
走り出したサツキの肩を掴み、引き留める。
「きゃっ!」
慣性の法則で身体が大きく揺れ、尻もちをついた。
更に何とは言わないがなんか見えた。
「何をするんですか!」
いそいそと立ち上がると顔を真っ赤に叫ぶサツキ。
「落ち着け……………死ぬぞ?」
「死?チャンスじゃ――――ッ!」
サツキが途中で言葉を切り、教祖の方へ向く。
空に広がっていた海、辺りを泳いでいた蒼い魚や海月が教祖に向かって集まっていく。
蠱惑的な輝きが、魅惑的な煌きが世界を包む。
『ごめんね……………もう、あなたのことは傷つけさせないからぁ。あたしがもう絶対にあなたを守るからぁ』
蒼い幻想が教祖に収束していく。
教祖の姿が淡い蒼の球で隠れ、見えなくなる。
『約束……だから……』
世界が蒼い海から元の色に戻ると教祖は口調を変え、ゆっくりとした声で言った。
『【神華】発動…………』
教祖を包み込む球、いや、蕾が華開く。
光が辺りを照らす。
「やっ!」
サツキがあまりの眩しさに左手を目に当てる。
そこにはボロボロの黒い修道服を着ていた男の姿はなかった。
もともと中性的な顔立ちだった顔は更に女性に近づき、黒い目だった瞳孔は蒼く染まっている。
服も琥珀の首飾りはそのままに蒼いシスターの着るものに変化していた。
『あたしはぁ!もう!手加減しない!』
俺は反射的にサツキを左手で後ろに引き、剣を前に振り下ろした。
「―――ッ!」
目の前に火花が散る。
やばいやばいやばいやばい!
まじで無理なやつ来た!
「【過剰超火】!」
詠唱を破棄して無理やり魔法を発動させる。
頭痛が鈍く走り、俺は顔を歪めた。
『【未来世束】』
しかし、教祖はバックスッテプを取ると舞うように荒ぶる爆炎を避けてしまった。
まじかよ。
『世界は常に一つに収束するのぉ!それは確定しているからぁ……………予測するなんて簡単だよぉ?』
ニヤニヤと笑うと、酢剣『ガリブレード』をこちらに強く振り下ろした。
不味い。
俺は今、上級魔法の詠唱破棄での使用で上手く動けない。
このままだと避けきれない。
「はぁぁ!」
俺が腕の一本ぐらい覚悟していると、栗色の少女が躍り出し、教祖の剣を止める。
サツキ!?
「や、やっと、追いつけました……………何ですか、この人。私の全力でも追いつけないスピードってヤバすぎます」
サツキはそう言うと『スーパーヤクザソード』を引き、受け流す。
その所作は完璧というほかない程の美しさだった。
俺のものとは違う、本物の動き。
「行きましょう!私たちの全力ならきっと届きます」
「おう!」
俺は深呼吸すると大きく目を開いた。
勝てるか分からない教祖を見据えて。
「ふぅ、やっと着きました。全力で走っていないとはいえ、この距離は堪えますね」
ピンク色の髪の少女が殆ど息を切らすことなく言う。
「それにしても、さっきの……………気になりますね」
再び少女が走り出そうとしたとき、高速の火の玉が飛んできた。
痛ましい程赤く、鬼の如き業火が少女を襲う。
可愛らしい少女に対する過剰なほどの明らかな殺意。
だが、少女はただの少女ではなかった。
「【白椿】」
ノーモーションで技を発動させ、炎を消し斬った。
手にはさっきまで握っていなかった長刀が握られていた。
「流石ぁ!ミリアナちゃぁん!」
声のする方へ少女は顔を上げる。
建物の屋根の上に二人いる。
一人は赤い髪に大きな笑みを浮かべた少女。
もう一人は緑の髪の少年だった。
顔立ちから二人は双子なのだとわかる。
「テッカ、あの人のとこ行かないの?」
「いいのぉ!今行っても意味ないしぃ!それよりも久しぶりのミリアナちゃんだよぉ?そっちの方が楽しそうぅ!」
緑髪の少年が頭を抱える。
「はぁ、仕方ないなぁ。一緒に怒られてやるよ……………」
ピンク色の髪の少女、ミリアナは視線を下に向ける。
その目には何も映っておらず遠い物を見ているようだ。
「耀刀『刹香』……………」
呟くとミリアナの姿が消える。
「おっと!そうはさせないよ!」
リクにしたのと同じように水の壁を作る緑髪の少年。
「【砂斬花】」
壁が瞬時に消滅し、山茶花のような強い香りが香る。
「なっ!」
「散れ、奥義【桜】」
香り立つ桜の儚く淡い香り。
リクが知らないうちに新たな戦いが始まったのだった。
クロキ「リン、あれを見ろ。綺麗な景色だな」
リンネ「そ、そうね」(可愛い!こんな事言う?普通?)
クロキ「ふっ」
リンネ「どうしたのかしら?」(なんか可愛いっ!)
クロキ「リンと旅が出来て嬉しいなって思ってな」
リンネ「ん゛!」(……………)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字等あれば報告ください。
「面白い!」「続きを読みたい」など思ってくださった方は高評価、ブックマークの方、よろしくお願いします。