第五話 機嫌
遅くなってしまいました。
俺たちは広いギルドホームの庭を出て、黒塗りの馬車に乗り込む。
二匹の馬は足が八本ついており、馬車と同じくらいの大きさだった。
御者はいないが目的地を言うと勝手に馬が連れて行ってくれるらしい。
席は俺の横にリンネさん、斜め向かいにクロキさんが座った。
「しばらく話しかけないでくれ」
「分かったわ」
「はい」
クロキさんは相変わらず、機嫌が悪そうに右手で頭を押さえていた。
そんなクロキさんをうっとりした顔で眺めるリンネさん。
そして俺は、沈黙の中で何もすることがないという地獄の時間を過ごした。
「海だ!!」
解放感と初めて見る海に叫んでしまう。
割と栄えてる港町で、名をタルトという。
地理を学んだ時にやった。
フルーツタルトが名物らしい。
進んでいくと船が見えてきた。
白い船体で先頭には女性とクロスした剣の像がある。
側面には金色に輝くイルカがあしらわれているようだ。
なりよりも目を引くのはその大きさだった。
「これが我がギルドの誇る要塞型戦艦、ドルフィン号だ。乗るとき落ちんようにな」
そう言ってクロキさんはさきさき進んで行った。
「これ、いつ見ても大きいわね」
「やっぱり大きいですよね」
リンネさんも同じことを思ったみたいだ。
乗り込むとクロキさんが長い黒髪の女性と話しているのが見える。
「ほんまに『キモキモアイランド』に行くんやな」
「ああ、頼む。嫌なら別の奴に頼むが……」
「ほかでもないギルド長の頼みや、断らんがな。それにワイより上手い操縦士はおらんしな。任せとき」
すごく方言に聞こえる。
どこの地域だろうか?
初めて聞くイントネーションだ。
「ふむ、リク、船長に挨拶しておけ」
「は、はい。俺の名前はリク、十二歳です」
初めて見る人に俺は緊張して言った。
「これが例のガキか……」
黒髪の女性は品定めするような視線を俺に向けた後、咳払いして言った。
「コホン、ワイは『海王』のシャクセンっちゅうねん。シャークとでも呼んでな」
「分かりました」
俺は笑顔のシャクセンさんと握手を交わす。
地味に力が強い気がするが気のせいだろう。
「これから、三日間ほどかかる。私は部屋にいるが何があろうと絶対に来るな、開けるな、そして話しかけるな。いいな」
クロキさんは手で頭を抑えながら、突き放すような口調で言うとそのまま奥の船室へ消えていった。
なんかマジで今日機嫌悪そうだな。
いつもよりも言葉が四割増しで鋭い。
顔も険しい。
そんなに『キモキモアイランド』が嫌いなのだろうか?
地理では食材がおいしい秘境で結界が張られており、許可がないとうまくたどりつけないとしか書かれていなかったのだが。
しかし、クロキさんが完全に見えなくなると今度はリンネさんが突然発狂しだした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
なんだか次回からカオスになりそうです。