第四十三話 最近のアイドルは戦闘職らしい
てってれー
俺はどうしたらいいか分からない。
この町を助けるため行動するのか、それともこの町を出るか。
仮に俺が戦っても勝てるか物凄く怪しい。
更に俺にはクロキさんと連絡を取る手段もない。
だからといってこのまま逃げれば後々後悔するだろう。
他の町に増援を呼びに行ってもいいがこの感じだと戻ってきたときにはこの町は滅んている。
完全に詰みの状況だ。
「決めた。できるだけ足搔いてみよう」
出来るかなんて考えない。
やらずに後悔するならやって後悔したい。
「リクさん、いいんですか?」
サツキが驚いて声を上げる。
ちょっと高い声だ。
「ああ、頑張ってみるよ」
俺はクロキさんに認められる男になるんだ。
こんな事ぐらいやってのけてみせる。
「ところでサツキ、さっきのバフなに?」
「【ラブコール】ですか?」
「うん」
あれがなかったらヤバかったかもしれない。
「自己紹介した通り、私は猫耳キャウーンアイドルなんです」
「ん?」
この子は何を言っているんだろうか?
「私のジョブですよ」
は?
そんなジョブ聞いたことないんだが?
「アイドルの中でも特殊なジョブで世界で私以外前例がないジョブなんです」
そもそも俺はアイドルっていうジョブを知らない。
「バフを掛けたり、魅了したりすることができるんです」
強いのか?それ?
「ちなみに私の憧れは『スターアイドル』のミホさんです!」
ああ、ミホさんなら知ってる。
「ミホさんってたしか『ブラックリリー』の踊り子ですよね?」
『ブラックリリー』はノアさんの率いるギルドだ。
世界中の人からヤバい集団扱いされてた気がする。
「そうです!そうです!ミホさんは踊るだけで国を一日停止させるほど魅力的な人なんです!」
それ、やっぱり危険人物じゃね。
「へ、へぇ…………」
興味あんまないんだけど…………。
「拙者は仕事があるので帰るでござるよ」
アイツ逃げたな。
「それでですね!あの人の魅力的なのは容姿ももちろんですが声、性格、ダンス、更には…………」
「う、うん…………」
サツキのミホさん談義は二時間続いた。
サツキと別れた後、俺は宿を何とか見つけた。
「それにしても今日はひどい目に遭った」
食事処を探して三十一人に聞いて回り、ようやく店があったと思ったらメイド喫茶なるもので、食事してたらシースー教とかいうカルト教徒に襲われ、撃退したらサツキに二時間拘束されると。
…………恐ろしく過密なスケジュールだな。
「疲れた。寝よう」
明日からシースー教と相対だ。
休んだら対策考えないと。
俺の意識は闇に落ちていった。
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リクが寝息を立てる頃、底知れぬ闇が集まり人型を成した。
『フフフ。この子、いつも面白いや。僕、ワクワクしちゃうなぁ』
闇はリクの頭を撫でると続ける。
『戦闘系のユニークスキルを持つ者との戦いでバフがあったとはいえ無傷で勝っちゃうなんて、ホントすごいよ』
フフフ、とひとしきり撫でて褒めるとゆっくりと闇が霧散していく。
『君の成長を楽しみにしているよ、リク……』
闇はそう言うとこの世界から姿を消した。
教祖「珍しく致命傷を負っていたみたいだが、どんな戦いだったんだ?」
ブルーフィン「漢の愛の戦いです」
教祖「は?」
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