第三十二話 逃げられない系のラスボス
長く書けて嬉しい。
クロキとノアは魔王城を闊歩していく。
クロキはいつも通り何を考えているのか分からない無表情で。
ノアはクロキの隣で楽しそうにだ。
場所が場所でなければ普通にそういうカップルとして成立していただろう。
だが、ここは魔王城。
禍々しい装飾に髑髏といういかにも中二病が考えそうな装飾に紫の炎の付いた蝋燭という、これまた頭の悪い内装だ。
「はは、趣味が頭いってるね!この城!」
「そう言ってやるな」
酷い二人である。
「ふん!」
「ふにゃっ!」
クロキがノアを抱きかかえ飛び立つ。
クロキとノアのいた場所にはクレーターができる。
「あ、ありがと」
「ふん、礼を言うのは早いぞ」
クロキが黒色の目を灰色に染め、奥を見つめる。
「そこにいるのは分かっている。出てこい『炎の四天王』アイリーン」
「ふっ、やはり私ほどの実力者となれば気配を隠し切れない、か…………」
黒い髪に赤いメッシュが入った美人な女性がゆっくりと姿を現した。
落ち着いているように見えるが全然そんなことはない。
(気配を最大まで消して、失敗してもバレないように極限まで魔力の痕跡が辿れないようにしていたのに何で分かるの!?それに私が『炎の四天王』であることも、名前がアイリーンであることも一切口にしてないし、戦場で名乗りすら挙げていないのにどうして!?何で、何でなの!?)
内心、滅茶苦茶焦っていた。
というか一種の極限状態に陥っていた。
「ふん、あんな雑な気配の消し方。全くもって不自然だ」
「ふふ、あなた、相当やるのね」
(気配消して、不自然って何!?それよりもなぜ私の名が分かったか教えなさいよ!)
「ねぇ、降ろしてよ。ボク恥ずかしいよぉ」
クロキはさっきからずっとノアを抱きかかえていた。
俗にいうお姫様抱っこである。
顔が赤くなっていた。
クロキはそのままゆったりとアイリーンに近づいていく。
そして微笑んで言った。
「アイリーン殿、案内を頼めるか?」
「えっ?」
(何よ?今の敵対の流れだったよね!?もしかして私なんて眼中にないと言いたいの!?)
「この城は入り組んでいてな。正直困っていたのだ」
優しく語り掛けるクロキ。
「え、いや…………」
(あなた侵入者でしょ!?まぁ、でも戦っても勝ち目なさそうだしなぁ)
「頼めるか?」
「はい…………」
(や、やるしかないかぁ……)
折れてしまった『炎の四天王』(笑)であった。
「まず降ろしてよぉ!」
「あの、どうして私の名前が分かったのでしょうか?」
アイリーンは完全に委縮している。
魔術師タイプなのに至近距離にクロキがいて、最悪瞬殺される可能性があるからだ。
「ふむ、私は『灰の処刑人』だからな。他の者もこれぐらいできるだろう?」
右手を顎に当てる。
「いや、たぶんできないと思うよ!まぁ、ボクはできると思うけど……(ボソッ)」
「いっ、『色持ち』様ですか!」
(道理でヤバいと思ったのよ!勝ち目ホントにないじゃない!)
「ちなみに私は『黒の咎人』だよ~!」
(これ最初から本気出されてたら死んでたんじゃ……?)
重要な事実に気づいたアイリーンであった。
「こ、こちらが魔王様の玉座でございます!で、では私はここで……」
「君は来てくれないの?」
ノアの目が妖しく光る。
「私としても貴殿に来てくれると心強いな」
クロキの優しい声が響く。
「分かり、ました!」
(やっぱり逃げられないかぁ………)
アイリーンの逃げ場はもはや無かった。
クラウン「クロキがまた何かしでかしてる気がする…………」
リンネ「残念ながら私もよ…………」
ガンツ「ワシもじゃ…………」
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