第三十話 負け犬の遠吠え
もともと閑話の予定でしたが長くなりそうなので章にしました。
コンコン。
扉がノックされる。
「クロキさん、失礼します」
リルが呼びかける。
「入ってこい」
着替えを終えたクロキが返事する。
扉を開け、クロキの姿を見たリルは硬直する。
リルはクロキが今日はギルドから出ることはないとスケジュールを見て確認していた。
だから姉に内緒でこっそりお茶にでも誘おうかなぁ、とでも考えていたのに外に行く服装をしていたからだ。
「あれっ?たしか今日の予定はずっとギルドに居る予定でしたよね?」
「用事が出来た…………。これから出る」
クロキは感情の起伏のないトーンで話す。
さっきブチギレていたので少し疲れているのだ。
ここ一年で一番切れていただろう。
だから口を滑らせた。
「用事…………?ま、まさかデートですか!?」
「ああ、そうだ」
「まぁ、そんな訳ないですよね…………えっ?デート?」
リルの思考が加速する。
自身のユニークスキル【並立思考】をフル活用して誰がそれを成したか考える。
クロキがそれに気づけば明らかに才能の無駄使いだとため息をこぼすだろう。
ユニークスキルは滅多に目覚めるものではないのだ。
(クロキさんが直接出て行くような関係でかつ女性…………。そしてさらにあのクロキさんが戦闘を意識した服の構成からこれから行くところはかなりの危険あることが考えられる。……つまり戦闘も同じくらいできる?)
次々と候補を絞っていく。
(そうなると候補はリンネ、ノアのどちらかと考えるのが妥当…………。しかし、リンネはああ見えてかなりの奥手なので可能性は限りなく低い…………ブツブツブツ……)
「えっと、ノアさんですか?」
ここまで二秒である。
恐怖と狂気を感じる。
「…………」
だが、クロキはノアから絶対に言わないで!、と言われているので特に何も言わない。
「えっ?違うのですか?」
(まさか前提が間違っていて、相手は女性ではなく男性だった?)
完全に変な方向に思考がシフトされた。
「相手は女性だ」
クロキは瞬間的な思考能力はスキルによってリルに負けることはあるがクロキは相手が何を考えているかほとんど分かる。
よって、すぐにおぞましいリルの思考を止めた。
「では、あとはよろしく頼んだ」
「ま、待ってください!今日の分の仕事は!」
まだデートの相手の名前を聞けていないので適当な理由を考えて言う。
実際には答えをすでに掴んでいるのだが。
「終わらせた」
だが、止めようにもあのクロキである。
一日が始まって間もないのにすべて終わらせていた。
「待ってください!」
全力で叫ぶ。
「なんだ?」
足を止める。
リクは勘違いしているがクロキはできる上司である。
部下のお願いはできるだけ聞くいい上司である。
「私はとても急いでいる。要件を答えろ」
ノアとどっちが魔王城に早く着くか勝負しているのだ。
全くもって子どもっぽい理由である。
行く場所がおかしい気がするが…………。
「あ、あの…………相手の女性はどなたですか?」
リルは恥ずかしさと先を越されたことによる悔しさから少し涙目になって聞く。
「ふん、貴様の考えた女性で合っているぞ」
クロキは最期にリルの頭を撫でると転移してしまった。
一人になるリル。
そして再び叫んだ。
「あ、あの泥棒猫~~!」
ギルドホームにリルの声が木霊した。
リラ「どうしたの?リル?」(叫び声を聞いて慌てて来た)
リル「お茶に誘おうと思ったら、クロキさんがノアさんとデートに行ってしまったのです!」
リラ「え?ほんとに?」
リル「そうです!」
リラ「じゃあ、まずお茶に誘うってところから教えてくれる~?私、聞いてないよ?」(ニコッ)
リル「あの、えっとそのですね……」
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