第二十七話 クロキの朝
第一話 十の試練 の直前の話です。
二話ぐらいします。
リクの十歳の誕生日の日の早朝、クロキはコーヒーを片手にぼんやりと食堂に座っていた。
「クロキ!ほんとにリクを追放するの!」
金色に輝く髪が走ってくる。
「リラ、音を下げろ。他の奴の迷惑だ」
「ごめんなさい」
「別に……うるさくなければいい……」
えへへへ、とはにかむリラ。
朝のこの時間はリラとクロキしか起きていない。
二人きりの時は少し優しいクロキがなんだか嬉しかった。
だからリラはいつもこの時間に起きて、みんなが起きる前にベットで二度寝していた。
「それでほんとに追放しちゃうの?」
「ああ、リラの時もそうだっただろう?」
「ウチの時はリルと二人でだったけどね♪」
なんだか楽しそうなリラを訝しく思いつつクロキは言葉を続ける。
「このギルドは世界最高の才能と実力を持つ者しかいない。そこで常識は身に付かない。そんな環境にずっといればある種の選民思考、果ては才能のない他者の命の価値が分からなくなっていく…………」
「だから、ずっとここにいた子供には世界を見てきて欲しいんだよね」
「ああ、その通りだ」
「ウチたちはずっと勘違いしてた。嫌われたんだって」
リラはクロキのすぐそばの席に座ってクロキを見上げる。
クロキはリラの頭を撫でて言う。
「ふん、そんな訳ないだろう。ギルドの者は大切な仲間であり、家族であり、そして……」
一瞬言葉詰まらせたがぼそりと言った。
「……二度と失ってはいけない者たちなのだからな」
リラはそれを気づかなかったことにして言う。
「すぐに追放っていうわけでもないんでしょう?」
「ああ」
リラは席を立つ。
「それじゃあ♪ウチはベットに戻るね♪」
食堂は再び静かになり、クロキ一人になった。
「おはようございます!」
「ふむ」
クロキが入れなおしたコーヒーを飲んでいるとリルが起きてきた。
「今日は私がクロキさんに一番早く会いましたね!」
「ふむ」
クロキは実際にはリルより、リラの方が圧倒的に早かったことは言う必要はないだろうと結論を下す。
「もっと反応してくださいよ!…………って、まさか私が一番ではない?」
相変わらず鋭いな、と思いつつ無言でコーヒーにミルクを入れる。
「ミルクがこんなにたっぷり…………」
ちょっと多いミルクの量に驚くリラ。
「グッドモーニング!クロキ!リラ!」
「老人のワシより早いなんていつから起きてたんじゃ、クロキ…………」
メイクばっちりのクラウンと髭を整えたガンツがやってくる。
「リクへのプレゼントは用意したかい?クロキ」
「ああ、私を何だと思っている?」
「あはは、そうだね。朝食の準備をしてくるよ」
ピエロの衣装に紫のエプロンというあまり似合わない組み合わせだ。
クラウンが見えなくなってからリルが呟いた。
「やっぱりクラウンさんって変ですよね」
「ワシもそう思うわい」
「ふん、否定はせん」
このギルドではいつもの朝が始まろうとしていた。
リラ「ふぁ~あ。早起きはしんどいな~」
リル「あなたはいつも遅い時間ではないです?」
リラ「フフ、乙女には人に言えない秘密があるの」
リル(何をしていたんでしょうか?…………ま、まさかクロキさんとの密会?キャー!)
リラ「な、何で顔が赤くなるの?」
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