第九話 感性の違い
翌朝、俺が食堂に向かうとクロキさんが一人で静かにコーヒーを啜っていた。
リンネさん特製の苦い魔法薬で治したみたいだ。
スーツにはもちろん皺ひとつもない。
「おはようございます」
クロキさんは口にコーヒーを含んでいるので片手を上げて対応した。
「リク、後一時間で『キモキモアイランド』に到着だ。準備はできているな?」
「はい」
「ふむ、先方には話をつけてある。存分に楽しんで来い」
そう言ってクロキさんは食パンをかじった。
「あれを本気で楽しめるのは貴方だけよ、クロちゃん」
リンネさんがプレートを持って、呆れたように言った。
「ほんまにや。ワイなんて一日でギブったわ」
シャクセンさんも来た。
なんかクロキさんが昨夜カウンセリング治療してた。
クロキさんはどうやら、精神科医の国際免許を持っているらしい。
クロキさんが有能すぎる。
「む?割と楽しいぞ?」
「否定はしないけど私の場合、興味深いの方よ」
「ワイは二度と行きなくない」
なんかクロキさんの楽しい、って他と感性違うみたいだな。
「どんな場所なんですか?地理では資源が豊富な秘境でおいしいものが沢山ある、としかやらないんですけど」
「ふむ……」
イチゴジャムをたっぷりと塗りながら考えだすクロキさん。
物凄く甘そう……
「子供描いた絵のような生物が沢山いるな」
「子どもの描いた絵ですか?」
「ええ、あの島の生態家は研究者を魅了して止まないほど特殊よ」
「いや、単純にキモいだけやろ」
余計に分からなくなった。
子どもの絵みたいに稚拙でキモいけど研究者にとっては興味深い生物のたくさんいる島?
「もっと具体的に……」
「そんなことよりも朝食を食べて準備を終わらせてこい。私たちは途中までだからな」
「えぇ、そんなぁ」
再びクソどうでもいいことだが俺は鮭の塩焼き定食、リンネさんはドラゴンフルーツとリンゴ(意地悪なのか切られてなかった)、シャクセンさんはカレーライス、クロキさんは食パンとコーヒーとイチゴヨーグルトだった。
「ねぇ、これどうやって食べるのかしら?」
「知らん」
三日ぶりに見るいつもの朝だった。
紫の霧がかかった島が見えてきた。
「結界に穴を開けるぞ」
クロキさんは手をかざして少し霧を晴らした。
「私、氷結系の魔法は苦手なのだけれど」
そう言うとリンネさんは一瞬で島に続く氷の道を作ってしまった。
なるほど、これなら確かに自力で逃げれると言われたのは納得な気がする。
シャクセンさんが信じられないものを見る目で見ていた。
「そういえば、試練の内容は何です?」
「ふむ、言いそびれていたな」
そう言うと、クロキさんは『キモキモアイランド』にゆっくりと視線を向けた。
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―――次話でようやく『キモキモアイランド』に上陸。