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天の城の魔女ティアナ、東京で助産師になる。~「嫁になれ」お迎えにきたのは悪役聖女の騎士でした~  作者: 高瀬さくら
3章.――アレスティア暦2006年 アレスティア帰還

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90.主との契約


 血だまりだった。


 恐ろしいほどの血が漏れている。助からない、もうその人は動けない。

 

 ティアナを、自分をかばったからだ。


 ママのおなかには、赤ちゃんがいるのに。


 幼いティアナが叫んでいる、女性がその肩を押し出す。


「ママ、いやっ」

「行きなさい、ティア!!」


 黒くて嫌なところを走る。助けてくれるのはパパしかいない。


(パパ、パパ、こわいよっ)


「パパ、パパ!!」


(ママを助けて!!)


「――パパ!!」


 ぐにゃり、と壁がゆがんでいる。どこにいるのかもわからない、ただママをたすけなきゃいけないのに。


(たすけて、たすけて。たすけて……)


“――おもしろい声が聞こえる”


 ようやく、声がきこえた。ティアに気づいて、声をかけてくれた。


「……ママを、たすけて」


“――できないな”


 冷ややかな声は、すぐに行ってしまいそう。ただ、見ただけ、そんな様子だった。


 その声にすがる。行かないで、行かないでとねがう。

 

 でも、ダメ、と思う。 


(ママやパパやお兄ちゃんしか、信じちゃいけないのに。あとはディー、パパといつもいっしょにいるひとたち)


 でも、だれもいないから。


“――助けるには、契約が必要だ”


「けいやく、なに?」


 むずかしい、わからない。


“――契約に必要な取引材料、君が僕に差し出すもの”


 きけん、と思う。ママやパパたち、いがいのいうことは、きいちゃいけない。

 でも。


“――では、僕は行こう”


「まって!!」


(ママ! パパ、はやく)


 でも、パパはこない。いきがくるしい。ママは、行きなさいといった。じゃあ、どうなるの?


「ママを、たすけて。ママ、ママ、ママ」


“――できない。君は差し出せないからね”


「なんで」


“――僕たちは、魔力を貰う。けれど君には、魔力がない。契約はしてあげない”


「たすけて、くれない、の?」


“――そうだよ、助けない”


「……ティア、は……」


 つきはなされたことだけわかる。たすけてくれない、の?


 意味が分からなくても、気配だけで呆然とするティアナに、むしろ面白がる気配が部屋中に満たされる。


“――面白い子だ。そしてかわいそうな子だ。魔力はあるのに、ない”


「……なに?」


“――ならば、別の条件をあげよう。


「べつ」


“――代わりに大事なものを貰うよ


「……だいじな? ティア……ないよ」


 本当は、たくさんあった。パパもママも、みんなも。だいすきなのに。

 でも、だいじといっちゃいけない。


 くすりとわらう声は、少しこわい。たすけてほしいのに、後ずさる。


 その気配に彼がまた笑ったのがわかる。


“――賢い子だね。そう、だいじなもの、とは。――君の記憶。


「きおく?」


“――これまでの、君のだいすきなモノ、大事なモノの思い出。それを貰う、君は忘れる”


 よみがるのは、大きなて、つかんだそで、だき上げてくれるうで。やさしい声。ママとパパの声。おにいちゃんのせなか。


「わすれちゃう?」


“――そう、全部忘れる。何もかもなくす。けれど、君の願いをかなえてあげよう。


「おねがい……は、ママをたすけて」


“――助けて、あげよう。ただし、君は会えないよ。どこにいるのかも教えない。


「あえないの? パパもママも……」


“――それは契約しない。けれど、君はかわいそうな子だ。僕は君の主だ”


「ある、じ」


“――君が“おねがい”をするたびにもらうのは、きみの記憶。


「なに?」


“――君は魔力があるのにない。だから君から記憶をもらう。なくしていく”


「……わからない」


“――きめなさい。君は今まで誰かに決めてもらっていた。自分で決めるんだ。


「ママをたすけて。それならば、――」


『ティアナ。誰かと話したら、必ずママとパパに話すのよ、何かを、決めてはだめ……』


『なにか?』


『いいことを言う人。人じゃなくても、声をかけてくるモノ。迫ってくるモノ。頷いてはダメ。逃げなさい。逃げて、必ずパパを呼ぶの』


 それがよぎる。でも。パパは、こない。


「……あなたはだあれ?」


 揺らぐ影、紫色の髪が揺れてティアナの顎を掴む。とてもきれいだ、と思った。けれどこわい。


「ママを、たすけて……」


“――それは、一つ目の願いだ。


「ほかもあるの?」


“――もちろん。君が願えば。僕は君の主だ。そして君は、いずれ全ての記憶を失う。


 彼は、美しい笑みを浮かべた。


“――最後に何もなくなった時に、僕のところに来るんだよ。


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