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天の城の魔女ティアナ、東京で助産師になる。~「嫁になれ」お迎えにきたのは悪役聖女の騎士でした~  作者: 高瀬さくら
3章.――アレスティア暦2006年 アレスティア帰還

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88.シルヴィア


 自分達の国グレイスランドは北・中央諸国連盟に所属していて、その中でも群を抜いて魔法師が多い。


 王立の魔法師団は世界中に情報ネットワークを構築し、潜伏させている魔法師の数も最多。

 そして、魔法師の地位も高く、能力も優遇される。任務は魔獣退治を主としているが、戦争以外の国家や部族の調停や紛争解決にも力を貸す。


 魔法という力を掌握しすぎだという他国からの非難も少なくないが、それでも貢献度は高く表立って非難ができないほどの力を得ている。


 そして、シルビスというのは北・中央諸国連盟に所属する、魔法の要となる太陽の主が下りたった古い歴史を誇るリディアの母国だ。


 魔法の太祖だという誇りがあるが、王国上げての閉鎖的な環境のためそれは知られていない。一方で、魔法で一目上げているグレイスランドに敵愾心を燃やし、数年前戦争を吹っかけた。

 それを煽ったのがリディアの兄だった。

 奴は王女と婚姻を結ぶ一方、自分の利益のためリディアを人身御供とし囚えた。


 結局リディアを救い、その因果も断ち切った。

 だが国が存在する以上は、何らかの干渉がなくなるわけではない。けれど、ここまでずっと関わりが途切れていたのに。


 その名前が出てきて、ウィルは眉をひそめた。


「シルビスは俺たちの世界にあるだけだろ。こっちで何をしようとしてるって?」

「アレスティア帝国に繋ぎを取り、黄金期の魔法を手にしようとしている」

「は?」

「どうやら、懲りていないらしい。その代わりにアレスティアの蘇りを約束した」


 グレイスランドは、シルビスに戦争を吹っかけられた。だから魔法師団総出でやり込めたのだが、今度は黄金期に滅びた伝説の存在、過去のアレスティアを蘇らそうとしていると聞いてさすがに絶句した。


(なんツー荒唐無稽な話を)


 存在するかどうかわからない過去の国にアクセスし、その力を借りて強大な力を得て覇権を握ろうとする。


 だが、それを可能にすれば世界の力の均衡が崩れる。というか、そんだけやれれば、アレスティアの力なんていらないんじゃないか。


「どうやって?」

「まだ推測しかできていない」


 ウィルはカーシュのその目を見つめる。男同士で見つめ合うのは不毛だ。でも女の子で見ていたいのはリディアだけだった。


「――こっちにシルヴィアってあるだろ、トレスの隣の国。この世界ではその国は銀髪、銀目だけ。俺らの世界にあるシルビスは、金髪碧眼。ただ国名が似ているだけか?」


 一つ思いついたことを自分も口にする。

 実在するリディアの故郷のシルビスは歴史を誇る古い国、黄金期時代からあるとほんとかどうかわからない聖典を翳してるが、それが本当ならば関連もあるだろう。


「どう変化したか五百年の経過はわからないが、そうだ」

「そこが繋いでいるのか?」

「そう推測している」


 なる程という代わりに、ウィルは頷いた。


 ――グレイスランドの敵、というよりリディアに絡みつく鎖のようなシルビスが、恐ろしい。


「今回の失踪でシルビスは調べたけれど、リディアはいなかった。あそこにはいない、それははっきりしているけれど、このシルヴィアにいる可能性は?」

「いない。調査ずみだ」


 カーシュに抜かりはない。やはりそうかと頷くけれど、その国にいなくても情報はありそうだ。


「だから俺は団長に命じられて過去のアレスティアに潜伏した」

「シルヴィアの調査も同時進行か?」


 奴が口を結ぶのを見る。

 リディアを探して、アレスティアを堕として、ティアナを救う、その全て任されているというわけか。 


 しかも異世界でたった一人で。”情けない”といったけれど、それを任されていた、それを悔しいと思う。自分にはできないし、任されない。その複雑な思いを胸にして息を堪える。


 ティアナを救うというだけを任されていた、それも大事だ。でも――と思いかけて馬鹿な自分に呆れる。彼女をこの世界で一人で助けることも大事だ。

 

 任務の重さであれこれ考えていた仲間を馬鹿らしいと、思っていた自分を思い出す。


「俺はもとは日本人だ。最初は“東京”からアレスティアに飛ばされた。それからグレイスランドに飛ばされて団長に会い、師団に入った。そのあとに『アレスティアに戻してやる』と言われた。ただし潜伏任務として」


(……俺は何を言われているんだ)


 言葉を失う。転移を繰り返していると言われているのか。コイツが日本人であちこち行っていたのかと。


「潜伏して、『堕とせ』と言われたのか」


 カーシュが一瞬黙り込む、それは肯定。


「で、墜ちた。けど再興しそうになってるから、また来た。そのあと失敗する。……って?」

「違う」

 

 即座に返ってくる。けれどその続きがありそうだから促す。

 コイツは続ける時と、そのまま終わりにする時、雰囲気が違う。


「まず、俺がグレイスランド、つまり師団に行かずアレスティアにそのままいた未来、師団にいてアレスティアに行かなかった未来、行って墜ちるのを見届けた未来は必ずアレスティアは再興している。その場合はグレイスランドはない」

「……ちょっと待て」


 何度やり直しているのか。少しずつカーシュがトライしていることは違うけれど、いきなりグレイスランドがないとか、なんでだ。


「アンタ何回やり直ししているんだ」


 カーシュは目を伏せた。何も言わない、それは失敗を言いたくないという表情でもなく他の理由がありそうだ。何しろ、さらりと言われたが全て別々の未来を経験しているということ。

 それは、めげるかもしれない。


「――その場合は、ティアナも取り込まれている。だから今回は、見届けるのではなくティアナを助けようとした」

 

 それがコイツが、ティアナに覚えているかと聞いたり、契約云々しようとした理由か。


 「それがザイファンに邪魔されたってことか!?」


  そう言って尋ねる。


「ザイファンはこれまでいたのか?」

「わからない、そこまでは関わっていない」


 関わるほどに別の要素がでてくる。本当にやっかいだ。


 しかもカーシュを防ぐのならとんでもない奴だ。正直カーシュは魔法師団では幹部レベルで、自分でも敵わない。ザイファンの力は人間業じゃない。

 けれど。


「――俺たちの世界ではアレスティアは”ない”だろ。なぜだ」


 何をしても蘇るアレスティア。けれどグレイスランドは存在している、アレスティアは存在していない。それを言うと奴は、先ほどの後悔のような何とも言えない感情を消し、こちらを見る。


「アレスティアは本来ならば消滅している。けれどティアナが産まれたおかげで、それが変わる他世界が生じた」

「ああ、そうか。そういえば、蘇る方法を知ったって言ってたな」

「アレスティアは、他の多世界全てをそうなるように変えていっている。まるで病巣を、もしくは枝葉を増やすように」

「恐ろしいな」


 となると、あの皇子が黒幕か? そう問えばカーシュは違うと首を振る。


「あの皇子も結局は駒だ」

「詳しいな」


 ふと思う、コイツはいくつもの世界で違う自分たちと会っているのではないかと。

 それも空恐ろしい気がして、でも聞きたくもなかった。


「結局、アンタはこっちで潜伏している間、何をしてんだ」


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