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天の城の魔女ティアナ、東京で助産師になる。~「嫁になれ」お迎えにきたのは悪役聖女の騎士でした~  作者: 高瀬さくら
3章.――アレスティア暦2006年 アレスティア帰還

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83.好意に似た何か


「それは団長、あなたたちのボスには言ってない、でしょ?」


 彼は自分だけで抱え込んで、それを覆そうとしている。

 でもそれよりも、そのために自分と契約をしたのならば……少し、悲しい。


(なぜ私は、好かれないことを願っているのに、そうじゃないと知って悲しくなっているの?)


「俺は、何も言っていない」

「これまでも、私は言葉を流してしまったせいで、後で失敗しているの」


 ユーナの言葉。それに後から気づいて、意味を知る。そんなことばかりだ。


 自嘲してしまう。でもそれで契約の理由の説明がつく。そのほうがしっくりくる。


「『何も言っていない』とあなたは言う。肯定も否定もないなら、それで納得がいくの」


 カーシュは見つめてくるだけだ。


 できるだけ悲壮感もなく淡々とした口調を心掛ける。


「ここは、あなた達が探しているティアナが紛れ込んだひとつの世界。ただいくつもあるパラレルワールドでも死というものは変えることはできないのよ。頑張らなくてもいいから」


 ティアナ(リュクス)は壁に寄りかかっていた身体を持ち上げる。


「そんなことで責任感とか、何かの感情に発展させないで。もし死ぬとしても実感はないし、そのために何かできるとも思っていない。だから――好意に似た何かをみせないで」


 好意に似た何か、そう表現するしかない。彼から感じるのは後悔。その元にある自分への感情は何だろう。


 まだ発展していない、何か。


「それで、結婚を申し込んだと思ったのか?」

「そう」


 言えば彼は反発するとわかっていた。それでも、言うのをやめられなかった。彼が壁に閉じ込めようと伸ばした手をかいくぐる。


 背丈があるから、そのわきを抜けることができると気付いた。

 けど抜けざまに腕を掴まれる。そして引き寄せて腕をねじるようにして壁につける。その身体で、今度は挟み込む。腕の痛みに顔をしかめたけれど、彼の瞳は強くティアナを睨んでいた。


 黒髪から覗くその瞳は、まるで野生の獣のようだった。獲物を逃がすまいとじっと見つめてくるその瞳に動けなくなる。

 

「本当に――(さか)しい」

「カーシュ?」

「いつも少しだけ先を行き、そして、俺を置いて行く。あなたも、お前も」

 

(……だれ?)


 不安げに見上げるティアナに構わず独白したカーシュは目を伏せる。


「俺の気持ちなんで、どうでもいい。好きなのかどうかは、わからない。もうずっと、そんな感情は消えた」


 彼の瞳は、闇の中で苦悶しているように見えた。


「ただ、守りたい、というものだけがある。――俺は、それさえも伝えられなかった」


 それは、未来の私に、なのか。それとも過去の誰かなのか。


「俺には、それだけしかない」


 苦しい、と言っているようだった。どうして、それで苦しむのかわからない。


「――あなたを、守らせてほしかった」


 それは誰に言ってるのだろう。

 自分とその誰かを彼は時々混在している、それともその相手だけを見ている気がした。


「私のせいで何かを負わせたくないの」


 主従契約は結んでしまった。けれど最後、それで傷つけあってしまうなら。離れたいのに離れられなくなってしまうなら。ユーナと憎しみあったように、破局が待っている。


「俺は、あらゆるひどい訓練も受けてきた。あらゆる残虐なこともしてきた。だから傷つくことはない」


 それは彼の中に宿っているもので、他人が否定できるものではない。たとえ、そうじゃないと言っても、彼には空虚なものにしか聞こえないだろう。


「そうでしょうね。あなたはたくさんの酷い目にあってきた。ひどいものを見てきた。でも、慣れることはないはず」


 だから何だ? という瞳に、ティアナは見つめ返す。


 その苦しみを放っておけない気がした。悲しくなる。


 離れて、というのは、自分が傷つくから。でも彼を突き放すことで傷つけるなら、彼が守れなかった誰かの代わりに、自分を守るということで埋め合わせができるなら。 


 その気持ちを分かってあげたい。寄り添いたい。医療者として言えば、そう言う表現になるけど。もちろん、そんな簡単にできることじゃない。 


 彼もティアナの瞳に次第にわからないというように、眉をひそめた。


「――あなたには、水を注いでくれる人が必要ね」

「水、なんだ?」


 心底、困惑を見せる彼の目の前で、ティアナはとうとう地面に座りこんでしまう。


「一緒にしちゃいけないかもしれないけど。母親たちからの相談で。よく『自分は家族に水を注ぐばかりで、誰が自分のコップに水を注いでくれるの?』って」

「……」


「医療者もそう。他人に水を注ぐ、他人にケアをするけど、自分に水を、エネルギーを注いでくれる人はいない。それで疲弊しちゃうの。誰だって注ぐばかりじゃ持たない」

「――俺はそんなことを考えたことはない」


「でしょうね。私は、事情があってあなたと心を結ぶことはできない。けど、代わりに少しならば水を注いであげることができるかもしれない。……そう今は思ったの」


 「ちょっと、待ってくれ」と彼は掠れた声でしゃがみこみ、ティアナの視線にあわせて顔をのぞき込む。かなり近い。


「お前は……俺に耐えられないのじゃないのか?」

「そうじゃない。あなたが、私のために人を殺めるのをやめて、と言ったの」


 確かに彼は沢山の人を殺して傷つけた、それを否定したのは自分。


「そういう組織なんでしょ。軍隊だってそう、守るためにはそうしなきゃいけない」


 戸惑い続ける顔に続ける。


「存在を、あなた自身を否定はしていない。私のためにするのはやめてと言ったの」


 足りない。彼にはどういえば伝わるのか。たぶん、彼自身が受け入れられることを信じていない。強引な契約を結んだくせに。


(そっか。お互いに向けられる好意に似た何かを信じていないんだ)


 だから堂々巡りをしている。 


「契約を――誓約を結び直しましょう」


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