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天の城の魔女ティアナ、東京で助産師になる。~「嫁になれ」お迎えにきたのは悪役聖女の騎士でした~  作者: 高瀬さくら
3章.――アレスティア暦2006年 アレスティア帰還

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50.新たな問題


 部屋に入るとティアナは頭を押さえていた。明らかに取り乱している。


「ごめん、夢……」

「夢?」


 カーシュは素早く窓へ身を寄せ、ウィルも即部屋を見渡したが、逃げた気配も、だれかがいた痕跡もない。


「なんでもない、ほんとよ」


 そう言うと同時に、息を大きく吐いて顔をあげる。それ以上は言おうとしない。

 顔色は真っ青で、なんでもないわけがない。問いただそうとした時、突然の森への侵入者の気配。


 カーシュとウィルが気づいたのは同時なのに、彼女の方が行動が素早い。


 白金の長い髪が通りすぎる、リネンの裾を翻して見える小さな裸の足。母親のリディアよりも小さな背丈、どこかはかなくて妖精が駆けていくようだ。


 反射的にウィルがその襟首を掴むと、つんのめる体が苦情を一杯にためて振り返る。


「あのね!」

「俺より先に出ない!」


 つかまえたまま、ウィルは真面目な顔で戸口へと目を向ける。既にカーシュは部屋の外へと姿を消し、扉の横に身を寄せて伺っている。


 ウィルは彼女を後ろに下がらせて、カーシュとは反対側の壁に身を寄せる。カーシュの反対側の手には、短剣が袖に隠されている。彼の指が三本立てられて、一本ずつ減らされて秒を刻む。


 ゼロカウントが成されたとき、用心深くあけられた扉の前には、害のなさそうな青年がぽかんと立っていた。


 ランプを手にした青年は、両方を男に囲まれて「え」と間の抜けた声を発する。


「――ジョン?」

「えーと、リュクス?」

「大丈夫、知り合いよ」


 男たちを無視してジョンの前に飛び出たリュクスの前に、カーシュは腕で遮る。


「ちょっと」

「何者だ」

「えっと……」

「カーシュ、知り合いよ。街に出入りしているころに会ったのよ」


 リュクスは仕方なさそうに説明する。


「――昔、会ったからと言って害がないとは限らない。何用だ」


 ジョンは怯えを見せ、リュクスに助けを求めるように引きつりながら話す。


「今、俺はポストマンをしてるんだ。それでニルヴァーナを呼びに来たんだ」

「ニルヴァーナはいないの、どうして?」


 このジョンという男が戦闘向きでもないし、害もなさそうなのはまるわかりだった。既にウィルは構えを解いて、部屋の隅に下がっていた。

 

 追い出した自分たちに何の用か。


「えっとさ。リュクス、エイミ様の館を覚えている? 奥様が今妊娠しているんだけど、陣痛が始まったみたいで。お医者のモリガン先生は昼間の魔物騒ぎで腕を骨折してしまって」

「すぐ行く」


 リュクスはそこまで聞くと、すぐに身を翻して階下におりる。どうやらそれだけで状況を判断して、自分が行くと決めたみたいだ。


 カーシュは無表情だが賛成もしていない様子。

 ウィルもあの街はあまりよくない気がした。リュクスが女と知った時の目は危険な様子だった。


(でも、行くんだろうな)


「今、ニルヴァーナという魔女はいない」


 カーシュがジョンを見下げると、彼は目に見えて嘆息して肩を下ろした。


「――私が行くわ。こう見えても――王都で産婆をしていたの」


 リュクスが肩にカバンを下げて階段を昇ってくる。その前にカーシュが立ちふさがる。


「あの街と関わるな」

「行くわよ。エイミ様の弟のお産の時、ニルヴァーナが取り上げたのを私は手伝ったの。だから今度は私が行く」 


 リュクスは決めている眼差しだ。カーシュが威圧的に目をすがめても、彼女の目は動じもしないし、怒りを再燃させることもない。挑発にも乗らない。冷静でただ前に進むことを決めた瞳。


 ウィルは止められないことを悟り、自分も準備をする。


「俺は一番にお前の安全を優先させる」

「救命処置義務」

「……は?」

「助産師は、目の前に命の危険にさらされている人がいたら救命する義務があるの。私は行くから。ジョン、奥様の予定日は?」


 ウィルはカーシュに首を軽くふる。止めても無駄だ。


「来月なんだ。今日の騒ぎでびっくりしたみたいで」

「早産になるかしら。お産の進みも早いわね、とにかく行ってみてみないと」


 もう彼女は、専門家の目だ。

 そしてリュクスは振り返る。


「あなた達は留守番をと言いたいところだけど。来るんでしょ?」


 リュクスは二人に向かい合う。彼らが単独行動を許さないことを知っている。


「関係のない男性はお産には邪魔。でも魔物が来るかもしれない、街を守ってくれるならついて来て」


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