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天の城の魔女ティアナ、東京で助産師になる。~「嫁になれ」お迎えにきたのは悪役聖女の騎士でした~  作者: 高瀬さくら
3章.――アレスティア暦2006年 アレスティア帰還

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44.私の能力



 

「……こいつに、あまり気を許すなよ」


 ウィルの割り込む声に意識を戻される。カーシュの穏やかでひたむきな声に気を呑まれてしまっていた。


 カーシュから顔を逸らして葡萄酒を飲み続けるウィルを睨む。彼は一気に飲みほして「まだないの?」と聞いた。


 悪びれない顔に脱力して、腹立ちが消えていく。

 カーシュはリュクスに対して重い執着を見せる。ウィルはその重い雰囲気を緩和してくれていたんだと、気が付く。


 ワインもないし、仕方がない。リュクスは雰囲気を切り替えるように火の上に吊るしてある薬缶を取り上げて、カップにお茶を入れて飲んだ。


 そして、口を開いた。


「言っておくけど。ここで十八歳というのはおおよそ。こっちに来た時に自分で三歳といったのか、それともそう判断されたのかはわからないから」

「アンタが消えたのは三歳の時だよ。その頃の記憶は?」

「ないわ」


 リュクスが言い切ると、ウィルは口端をゆがませた。


「肩車してやったのに」

「それは、ないと思う」


 からかう口調にリュクスは断言する。ウィルはそういう遊びをする人じゃない気がした。

 昔、彼と会ったと言われると、むず痒いというより、しんみりしてしまう。


「カーシュ、あんたは産まれてから会ったことはないよな。ずっとどこかに潜伏してただろ。アンタが契約だとか騒いでるのは、それに関係してるのか?」

「――グレイスランドで会ったことはない」


 グレイスランド。彼らが来たという土地。自分の生まれた場所。――全く実感がない。


 『グレイスランド”では”ない』


 意味ありげな言葉に、ウィルがゴブレットを傾けながら、問うように眼差しをちらりと向けたがカーシュは答えない。


「……この世界で会った、覚えてないならいい」


 彼は必要最小限しか話さない。

 聞けば教えてくれるのかもしれないけど、それを聞けば藪蛇になりそう。


「もういいわ。私はあなたたちの世界も親のことも、覚えていないの。母親と一緒だったというけど……それも。ごめんなさい」


「――だいたい人間が記憶を持ち始めるのは、三歳だ。それまでの記憶がないのは幼児期健忘と言われている。覚えていなくても仕方がない」

「そうなのね」


 仕方がない。本当にそれで彼らにとっては済むんだろうか。

 情報を求めてこの世界に来たのに。

 

「カーシュ、お前は先にここに着いていたんだろ。今は何年だ?」

「アレスティア歴2006年。アレスティアが墜ちて六年だ」


 リュクスは沈んだ顔で、コップを握り締めた。


 アレスティアのことを思うと辛い。それは、国が堕ちたことと、自分が落としたこと、そしてユーナの裏切り。全部がごちゃまぜになっている。


「アンタ、どこにいたんだよ」

「師団にいた」


 師団、つまり彼らのいたグレイスランドの魔法師団ということだろう。アレスティアにはいなかった。

 カーシュはウィルにも饒舌に語らない。


 ウィルは、カーシュの断片的な情報に考え込むように、顎を手の甲にあててもう片方の指を机についてコツコツ鳴らすけど、それ以上は尋ねない。

 男たちの微妙なやり取りにリュクスは疲れてコップを机に置いた。


「もう終わりにしましょ。私は、トレスの王都を目指すし、あなたたちは自分の国へ帰って」


 リュクスの発言を二人は取り合わず、ただ見つめてくるだけだ。

 その間がきまずい、二人は自分よりもずいぶんと大人で会話の駆け引きに慣れている。


「先ほどの、『好きになるな』という発言の意味は?」

「……ワインを返してくれたら話す」

「なら、話さなくていい」


 リュクスが硬い顔でカーシュに文句を言いかけると、その前に彼が口を開く。


「お前の、成長のほうが大事だ」


 深い黒の瞳はよく見れば優しくも見える。自分を愛し気に見守っていてくれた誰かと重なる。でもその姿は朧で幻だ。


 話さないと納得しないし、そのきっかけを作ったのは自分だ。


「……魔法かどうかはわからないけど。魔力のあるものは、私のことを好きになっちゃうのよ」


 二人はリュクスの言葉を待っている。話を始めたらもう全部話さなきゃいけない。それは少し苦しかった。


「日本では影響力はなかった、日本人は魔力がないから。アレスティア人はみんな魔力があったから、私のことを勝手に大好きになってしまう」

「それっていいことだろ? 好かれるって何が問題だよ」


 顔をゆがませてリュクスは二人を見つめ返す。そして首をふる。


「ウィル。あなたは何もしていないのに過剰に褒められたらうれしい? 自分では未熟だと思うのに、絶賛されたら嫌にならない? むなしくならない?」

「そりゃ、嫌だよ」


 たぶんウィルは実力主義者だ。二人とも組織では地位のある人間らしい。でもそれを何もしないで勝ち取った人間には見えない、そしてお世辞を言われて誇らしく思う人柄にもみえない。


 むしろそんなことをされたら白けるだろう。


「それと同じようなもの。それよりひどいわ。自分の“どこか”で好きになられるわけじゃない。ただ夢中になられてしまうの」

「……精神干渉できるってこと?」


 警戒するウィルに首を振る。確かに彼らにとってはそっちの方が問題だろう。


「好きになられてしまうことに関しては、私は制御できない。人間の短期記憶に干渉はできるけど、それは写真を消せとか、存在を忘れてとかよ」

「……昨日の日本の話だな」


 記憶に残らない程度のかかわりの相手に対して、写真を削除しろ、と命じたことをウィルに指摘されて頷く。


「でも、あれは例外。日本でもやらなかった。それで作った人間関係は……まやかしだもの」


 カーシュが腕を組んだまま壁から身を離す。


「“好きになるな”と命じればどうなる?」

「できない。“するな”と命じても効かないの。できるのは明確に“しろ”という命令だけね」


「つまり好きになられてしまう、っていうのが本筋の問題能力ってことだな?」

「ええ」


 リュクスは息を吐いた。


 日本でも容姿でアプローチされることは多かったし、今いるトレスでもそう。ただトレス人も魔力がないから、自分の能力のせいで執着されることはないと思っている。性格や容姿で好んで告白されてきた。


 アレスティアでは酷かった。

 ディアノブルの塔で恋愛に興味がない人たちでも、自分を嫌って苛めていた相手でも、全員が自分を好きになっていく。

 うっとりと眺め賞賛する。

 それが広がっていき、師範格の魔法士たちがリュクスを意味もなく褒め絶賛する。それを妬んでいたはずの他の魔法士見習いも、自分を好きだ好きだと言ってくる。


 盗まれた本、切り刻まれた法衣、嫌がらせで無くなったもの。


 それらを今度は持っていることを彼らは自慢して、自分に見せてくる。会話がおかしい、目つきがおかしい、誰もまともに話せない。


 自分を囲む輪は気持ちが悪いものになってそれが広がっていく。そして、行動がはじまる。


 法則としては、たぶん三日。それを過ぎると、弱いものほど自分に――落ちていく。


「――襲われたのか?」


 カーシュの目が鋭くすがめられる。

 過剰になった相手に襲われたことがあるのか、という問いにリュクスは首をふって否定した。


「それはない。防衛したから。ただ、いつまでもそれではエスカレートするばかり。だから命じたの。『私を嫌いになれ』って」


 そうして塔で過ごしてきた。アレスティアで自分を好いてくれると信じられる人は、ほとんどいなかった。


 魔力のないトレス人のフィラスと魔力が絶大である皇子たちは例外。

 でも彼らは友達ではない。


 魔力がないユーナが、最初で最後の友達だった。


 だから、と続ける。


「そろそろタイムリミット。あなた達とはここで終わり」


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