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天の城の魔女ティアナ、東京で助産師になる。~「嫁になれ」お迎えにきたのは悪役聖女の騎士でした~  作者: 高瀬さくら
3章.――アレスティア暦2006年 アレスティア帰還

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33.さよなら


「平気?」


 ウィルが問いかけてくる。


「……『永遠なれ、アレスティア。女神はそう約束した』」

「は?」

「聖伝ではそうあるの。神は約束したって、あったのに……」


 ぼんやりと呟いて、顔を落とす。


「……あのさ、別世界はパラレルワールドだってのはわかる?」

 

 リュクスは顔をあげた。そして頷いた。


「多世界解釈のこと? いくつもの世界に分岐していていて、その別々の世界が異世界だってこと?」

「アレスティアが存在したのはだいたい千年前って聞いてたけど、今回遡ったのは五百年。だから歴史家の予測が違うのか、この“世界では”五百年前なのかはわからない」


 ウィルが考えながら口を開く。


「俺のいた世界も、この世界も、日本もそうやって分岐したもので。俺たちはそこを渡り歩いている。……だからこの世界の先は、アレスティアが浮上した未来もあるかもしれない」


 ウィルが慰めてくれるのを感じて、リュクスは淡い笑みを浮かべた。

 それを見てウィルが固まった。ちょっと失礼ですけど。いったい何?


「笑ったの初めてだし。そのギャップが……結構、やられる」


「失礼ね」

「いーや。言っとくけど、それ。男を確実に落とすから。アンタの護衛として言っとくけど、それ、やるなよ」

「護衛は許してもない。だったら、二度とアンタの前では笑ってやんない!」


 言い切ると彼はまた笑った。笑わせてくれたのだとわかって、目を伏せるとまた笑われる。


「しんみりするなって。そんで、アレスティアが墜ちた理由は?」


 もっとしんみりしたくなることを言われてしまった。


「私が墜としたの。浮上魔法に失敗した」


 沈黙が降りる。ウィルは少し黙った後、そうか、って言った。立ち上がってカップにお茶を注いで渡してくる。


「んで理由は?」

「だから」

「アンタがすごい魔法師だったのはわかる。それが任されていたってことはそうだろ。でも失敗するには理由があるだろ」


 そう聞いてくれたのには驚いて、ウィルを見つめてしまう。

 ずっと自分を責めてきた。たぶん弱くなってしまって、本音が出てきてしまう。自分のせいじゃないと思いたい理由を。


「……浮上には聖女と女神の契約の更新が必要だったの。でも聖女が逃げた、そして女神が行ってしまった。魔法士は女神の力で魔法を成り立たせるから、魔法が使えなくなったの。あとはフェッダという国に攻撃されたのね。それがどうなったかはわからない」


「……それってアンタのせいじゃないし」

「でも」


「アンタのせいじゃない。強いて言えば聖女のせいだって言いたいけど、事情はわかんねーし。でも失敗ってのはいくつもの条件の重なり合いだろ。だからアンタ一人のせいじゃない」

「――でも、私はユーナをわかってなかった!」


 ウィルの顔に浮かんだ驚きに、自嘲の笑みを向ける。


「ユーナは頑張る、って言ってたのよ。でもそうじゃなかった。私はユーナの苦しみに気づいてたのに……何も聞き出せなかった。助けられなかった」


 苦しみがにじむ。医療者として、言葉を大事にしてきた。相手が漏らしたいと思う瞬間に立ち会ってきた。何の言葉が欲しいのか察知して、それを伝えてきた。

 今思えば、ユーナはサインを出していた。でも、応えられなかった。


「私がなんで東京に飛ばされたのかわからない。でもユーナは東京から来たのよ。でも見つけられなかった」


 ユーナは今も苦しんでいるのかもしれない。

 でも反対に、リュクスを忘れて、周りを固めて笑い合っているのかもしれない。


 それを知りたくない。幸せであってほしいと思う。彼女はリュクスを忘れている。でもそう思うことが苦しい。

 何度も息をして、呼吸を落ち着かせる。


「さっきの炎の使い手は、アレスティアの第四王子のジャスのもの。彼に呼ばれたのは、たぶんユーナの代わりの聖女召喚をするためだと思う」


 ウィルは、ジャスの話には触れなかった。代わりにいいんだ、というように優しく語り掛ける。


「……アンタは、ユーナっていうのに傷つけられたんだな」


 ウィルの言葉に驚いて見つめ返してしまう。


「十二才だろ。そんなの抱えきれるわけない。裏切られて全部責任押し付けられて。そんで新しい聖女を呼ぶっていう事に傷ついてる。もう、いいんだよ」

「もういいって……」

「よく頑張った、てこと」


 そして抱きしめてくる。いきなりの感覚に押しのけようとしたけれど、こみ上げてきた感情に我慢ができなかった。肩を揺らして、ぎゅっと目をつぶる。


 そんな風に慰められる期待はしていない。でも、少しだけ。


 そう言われたら、自分を甘やかしてしまいたくなる。自分のせいだってこの六年、ずっと思っていたのを、少しだけ自分を責めなくてもいい時間をつくってあげたくなる。


 日本人はハグをしない。でも彼の世界では当たり前かもしれない。抱きしめられたのはいつが最後だろう。全く記憶になくて、でも安心する。


「これは……平気?」


 静かに問われて、何かを返そうとして小さく頭をうなずかせる。

 先ほど、上から押さえこまれたことを拒絶したことに対しては、答えない。

 彼もそれ以上は聞いてこない。


「――アンタ、彼氏いないだろ」


 なのに、突然の失礼な質問。押しのけようとしたのにぎゅっと回った手は強くて離れない。


「いる!」


 頭の上で含み笑いが降ってきた。


「食事、奢ってくれるとかそんなんだろ」


 っ。なんて言ってやろう。リュクスは息を大きく吸った。


「……ええ。パパ活してるの。パパがいるわ」

「え」


 いきなり弱まった手を押しのける。


「さっき言ったでしょ。面倒を見てもらってる人のことよ」


 というか、パパ活のこと知ってるのね、と驚く。


「ちょっと待てよ、それって」

「金銭的援助とか、色々。交換条件も色々、そうよ彼氏じゃない。ボスに伝えていいわよ」


 日本での戸籍も大学に行く学費もマンションの費用も、自分だけじゃどうしようもなかった。


「いや、待って。それって……」


 呆然としている顔にリュクスは勝ち気な瞳を向けた。そして、真面目な顔を作って告げる。


「ウィル。あなたの目的は私を連れ帰ること。私の目的はアレスティアを再興させること。相容れない、だから、あなたは一人で帰って」


 迎えに来てくれた。自分には親がいた、それで十分。


「そっちのパパによろしく。……さようならって」


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