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天の城の魔女ティアナ、東京で助産師になる。~「嫁になれ」お迎えにきたのは悪役聖女の騎士でした~  作者: 高瀬さくら
2章.お迎え

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22.橙色の髪の彼


「Hey! Don’t move! 」

「な、なんだよ!!」


 聞きなれない言語が空間に響く、同時に悲鳴のような甲高い中年男が叫ぶ。スーツを着た髪に白いものが混じる男は、うろたえて悲鳴をあげている。


 それは、腕を掴んだ相手の男性の容姿を見るまで。


 彼の腕を掴むのは、ずいぶん背の高い男性、たぶん百八十は超えている。

 橙色の髪、日本人の男性にはない鍛えた筋肉は肩から腰と足まで均整がとれている。


 サングラスをかけているから目の色はわからないけれど、明らかに外国人だ。


 ――日本人は外国人が苦手。腕を掴まれた相手は、反論を飲み込んで驚愕し怯えて縮こまってしまった。そして橙色の髪の彼はリュクスを振り返り顎をあげて「痴漢(groper)?」と呟いた。


 リュクスは迷わず「イエス」と頷いていた。痴漢は日本の大都市特有のものだと聞いていたから、彼が痴漢を知っているとは驚いたけど。

 誰かが痴漢をしてきたのだし、彼は目撃して捕まえてくれたのだろう。瞬間、彼が痴漢の腕をねじり上げ、床に伏せさせる。


「いたっ、いたい!! は、はなせっ」


 周囲が騒然と騒ぎ出す。降りてさっさと行こうとしていた野次馬が改札に行く足を止める。


「痴漢だって」「駅員さん呼んで来いよ」


 様々の声の中、痴漢の悲鳴が響く。


「な、ストップッ、ストップッ」


 痴漢が知る英語はそれぐらいなのだろう。けれど橙色の髪の彼は容赦がなかった。その男の背に膝を置いて、床に押し付ける。


 あまりにも自然にそれを行い、呆然と見てしまう。警官とか何かの関係者だろうか?


 痛い痛い、と叫ぶ痴漢をそのままに長めの前髪をうっとおしそうに顔を払い、リュクスに目を向け日本語で「どうする?」ときいてきた。


 その発音は、日本人と同じ。日本語を使いこなせている。

 周囲は輪になってあちこちでスマホを構えて写真を撮り始めている。正直、これ以上の騒ぎは面倒だ。疲れているから駅員や警察に事情聴取はされたくない。


 最近は痴漢外来という診療科もあって痴漢は依存症の一部と言われている。喫煙も、ニコチン中毒という病名もついていて、こちらも診療科がある。

 どちらも病気だと言われているけど、やっぱり痴漢には腹が立つ!

 でも。


「放していいわ。面倒だから」

「OK」

 

 彼はきれいな発音で応答して、痴漢から離れる。痴漢はしばらく這うようにして進んでいたが、自由になったとわかると何度か転びながらも逃げていった。


 誰かが後ろ姿の写真を撮っていたから、たぶんネットに上げるんだろう。リュクスは散り始めた群衆を見て声を発した。


「そこの水色の服の男性と、緑のカーディガンの女性、黒のジャケットの男性、黒のスーツの男性、白いワンピースの女性、”止まって振り向いて”」


 呼び掛けると背を向けていた人たちがぴたり、と止まり、リュクスの方へと振り向く。他の乗客たちは不思議と構わず歩いていく。


 彼らの方へリュクスは歩んで、目を合わせながら今と同じトーンで声を発する。


「”撮った写真、動画を消して。ネットにアップしたものもすべて削除して”」


 別に痴漢の顔が晒されるのはいい。ただ橙色の髪の彼やリュクスも写っている可能性がある、特に彼がねじ伏せた場面は絶対に撮られているだろう。


「――はい」


 彼らは素直にそれに応じて削除をする。もうすでに他のフォロワーに見られ拡散された可能性もあるけど、そこまではいいか、と思う。絶対に駄目、というわけではない。


 ただ、“嫌”なのだ。すんなりと削除して背をむけていく彼らを見送ると、橙色の髪の彼がリュクスをじっと見ていた。


 今の行為は不審ではあるけれど、何かはわからないだろう。自分も説明をする気はなかった。

 ただじっと見てくる視線は、リュクスの行為、というより顔に向けてだった。


「えーと。Thank you. ありがとう」


 日本語がわかるみたいだから、日本語でいいか、と先ほどの痴漢撃退のお礼を伝える。


 彼はそれに応じないで、黒いサングラスを外す。


 結構な美形だ。端正と言うより、人好きのする顔。昔はやんちゃだったんだな、という落ち着きの見える瞳は明るい黄色の瞳。

 年齢は三十代、だろうか。


 彼はリュクスに反応しないで、ただじっと見てくる。高い背、ジャケット越しでも鍛えているとわかる腕と肩幅。

 ボディビルダーというより、先ほどの行為からも軍隊とか実戦で得た感じ。でもそこまでの筋肉マッチョではない。


 ――というか、屈んでのぞき込んでくる距離が近い。


 たまに馴れ馴れしい外国人はいるけれど、ナンパというより首を傾げて何かを言いかける。


「――?」


 何かを訪ねられたけれど、入ってきた電車の音でかき消される。もう一度聞き取ろうとしたときに、耳にしたのは「誰かお医者様はいませんか!?」という切迫した声。


 リュクスは彼を置いて走り出した。


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