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天の城の魔女ティアナ、東京で助産師になる。~「嫁になれ」お迎えにきたのは悪役聖女の騎士でした~  作者: 高瀬さくら
2章.お迎え

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17.家族もいろいろ(*)

 陣痛室に入り、一番早く分娩になりそうなEベッドのカーテンを開ける。夫がいて腰をさすっている。申し送りでは、子宮口六センチ。


「長田さん。夜勤の神宮です、よろしくお願いします」


 陣痛が終わったころを見て、ベッドに屈んで顔をのぞき込んで挨拶をする。


「今、陣痛は何分毎ですか?」

「三分毎ですね」


 夫がスマートフォンの陣痛をメモするアプリをタップして確認しながら伝えてくる。リュクスは頷いて、傍による。


「今痛いですか?」


 頷く彼女に断ってからお腹に左手で触れると、お腹が硬くなっている。時計の秒針を確かめながら、空いている左手で腰をさする。


 四十秒、五十秒。ふっと、お腹が緩くなる感じがしたのでここで陣痛は終わり。 

 本人はまだ余韻で痛がっているけれど「陣痛終わりましたね、深呼吸しましょう」と様子を見ながら話しかける。


「――目を開けて。私を見てください」


 目を閉じていると痛みに集中してしまうので、まずはこちらに戻ってきてもらう。


「陣痛が始まったら、ゆっくり息を吸って、ながーくはいてくださいね。一緒に」


 目を合わせて。呼吸を一緒にする。自分もすって、長く吐く。


「息を吸って、ゆっくり、長く、吐きましょう――」


 そう言って息を吐くのに合わせて、腰を押す。 

 陣痛は子宮が収縮する痛みと、骨盤が開いていく痛み。

 なのでその痛みより太い神経を圧迫することで痛みを緩和できる。


 骨盤を息を吐くのに合わせてゆっくり押していくと、それに合わせて息もゆっくり吐いていくようになる。


 本当は、ずっとこうやってマッサージしていたいけど。

 ベッドの横の机に食べていない昼食に目を向けて、夫に尋ねる。


「夕食は、食べられそうもないですか?」

「無理ですね……」


「最後に何かを食べたのは、朝が最後ですか?」

「朝もほとんど食べてきていないです」

「辛いでしょうけど、食べないとお産が進まないので、旦那様、ゼリー飲料かチョコレートか何か買ってきてもらっていいですか?」


「何がいい?」と問う夫に、本人は首をふっていらないと答えている。


「お産にはエネルギーが必要なので。少し糖分を補給しましょう。一口でもいいから」


 トレイを下げながら次の陣痛が来るまでの時間を稼いでそう言っていると、また痛みが来たようなので、時間を測りながら腰をさする。

 陣痛は収縮が十分以内に規則的に来ること。産まれる時には、二、三分毎になる。

 

 一回の陣痛だけじゃまだ陣痛の強さはわからない。最低何回かの様子を見て、進み具合を判断する。他の人のお産で分娩室にこもりきりになるから、誤判断は許されない。


 何しろ自分しか見ている人はいないのだ。他の勤務者は産婦の進み具合はわからないし、関わらない。


「ちょうど、今は四分毎みたいですね」

「ずっと……痛いです」

「そうですよね。深呼吸をして赤ちゃんに酸素をあげてください」


 胎児は、お腹の中で呼吸をしていない。母親と繋がっている臍の緒の血管から酸素をもらう。なので母親に呼吸を止めないように深呼吸を常に促す。


 陣痛が三から四分毎で、五十秒の発作。四分ではまだ産まれる強さではない。

 ただ進んでいる様子はある。


「旦那さん、何か食べられそうな物、買ってきてくださいね」

「じゃあ――ゼリー買ってくるからな」


 奥さんに話しかけているのを見ながら「優しいな」と思う。


 傍にいても、スマホのゲームや、パソコンで仕事をしたり、ジュースを買ってきてというと、「え!?」と自分の財布からお金を払うことを厭う旦那さんもいる。


(でも、ちょっと離したほうがいいかな)

 

 夫に傍にいてもらうことも大事だけど、二人だけで「まだか、まだか」とその世界に入り込んでしまう時もある。少し離して、互いに気持ちを切り替えさせることも必要だ。


 隣のDベッドのカーテンに手をかける。


「田中さん入りますね」


 けっこう強く深呼吸をしているのをみてリュクスは駆け寄って腰をさする。結構進んでいそう。もしかしたらお産になるかもしれない、とうめき声と顔で判断する。


 そして夫はスマホで漫画を読んでいた。ちらりとそちらに視線を向けたあとリュクスは本人に声をかける。


「田中さん。夜勤の神宮です。ちょっと診察させてもらってもいいですか?」


 子宮口全開に近そうだ。先ほどの産婦とは顔つきも痛がり方も全く違う。内診するかどうかは、それで決める。夫に出てもらい、内診すると子宮口は九センチだった。


 胎児の丸い頭が指先にふれて、少しだけ子宮口が残っている。

 内診は自分が差し入れた指で大きさを測るけれど、八、九センチだと逆算になる。


 つまり全く子宮口がなければ全開。少しでも残れば九センチ。

 ぐるっと一回り厚く残っていれば八センチ、と。


 でもまだ赤ちゃんの頭の位置がまだ高い位置で下りてきていない。


「お産、だいぶ進んできて子宮口も九センチですけど、まだ分娩室に行くのは早いので、もう少しここで過ごしましょう。もう少しで分娩室に行きますね」


 カーテン越しに夫に呼び掛ける。


「旦那さま、スマホをおいて。腰を押してもらっていいですか?」


 呼吸に合わせて腰をマッサージするように念を押して教えて部屋を出る。

 何をしていいのかわからないのだろうと思うけど。両親学級で教えているはずなのに。


 田中さんは、まだ分娩室にはいかない。お産は本来、狭い場所で隠れてする、それが動物の本能。分娩室のような手術室に似た場所にいくと緊張してしまって、陣痛が遠のいてしまうことが多い。


 そして陣痛がなければ、押し出す力にならない。

 だから生まれる直前、赤ちゃんが降りてきて頭が引っ込まない時期まで陣痛室で粘る。

  

(来須さんのお産が終われば、分娩室に移動かな)


 すべて――見極めとタイミング。それには自分の冷静な診断とそれを信じること。

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