99話目【美しき2人の冒険者】
時間は少し遡り、場所は王都バルジャーノ。
城の中で身なりの整った3人がテーブルを囲んでいる。
威厳を漂わせる初老の髭、カード王国の第25代目国王、カード王。
整った容姿で鋭い目つき、厳格で芯の強そうな女性、王都バルジャーノ領主、レジャーノ伯爵。
白い服に白いローブを羽織る激マッチョ、光筋教団トップ、教団長ロニー。
「…以上が、冒険者からの報告になります」
レジャーノ伯爵によりルドルフとミーシャの調査結果が報告されると
カード王は目を閉じ、ロニーは視線を落とした。
「…そうか、ポッポ村の者達は無事であったか、喜ばしいことだ。
我が国の民が悲劇に見舞われずに済んだ、精霊様に心からの感謝を」
「我らが偉大なる教祖、レム様に心からの感謝を」
「レム様、感謝致します」
3人は目を閉じ感謝を述べた。
しばしの沈黙の後、カード王が口を開いた。
「しかし…村への襲撃、光の精霊レム様の体現、失われた光魔法の復活。
その事実から推察される結末は…魔王の復活か…考えうる中で最悪の結末であるな。
お主の憂いが現実のものとなってしまったな、ロニー教団長」
「王よ、魔王の復活に関してはまだ憶測にすぎません。
しかし、憶測といえど捨て置くには大きすぎる問題、憂慮すべき事柄と考えます」
「そうであるな、ともあれレム様の体現と光魔法の復活は朗報である。
冒険者の進言の通り、光魔法の普及に努めるべきであろうな。よろしく頼むぞロニー教団長」
「お任せください王よ、我ら光筋教団があるのはこの時の為、
光魔法が復活した今こそ、千年に渡る使命を全う致します。
ウルダの団員の中には既にレム様の元に向かった者もいる筈、迅速に各地へ普及いたしましょう」
カード王に頭を下げるロニー。
「陛下、今後の方針と各地の領主への連絡は如何致しましょう」
「このような話、皆信じぬであろう、各領主には私が直接伝える。
レジャーノ、急ぎ全領主を招集してくれるか?」
「お任せください、数日の内に招集致します」
「うむ、よろしく頼む」
レジャーノ伯爵とロニー教団長が去った部屋でカード王は想う。
その瞳はいずれ訪れるであろう未来を見据えていた。
千年の揺り返しか…遂に来てしまったのだな…
残された時は多くはない、急ぐのだロックフォール、後世のためにな…
ポッポ村の調査依頼を終えたミーシャとルドルフは王都の酒場に来ていた。
「ミーシャ何飲むの? どうせビールでしょ」
「おうよ、ルドルフはどうせ果実酒だろ」
「そうよ、すみませーん! 果実酒とビールを1つずつ、あと適当に食べ物下さーい!」
「はーい!」
料理を運びながら返事をする店員。
「あら、イイ男、ちょっと隣いいかしら?」
「店員さ~ん、いつものヤツ2つ追加してくださーい」
「はーい!」
ミーシャとルドルフのテーブルに女性?が相席してきた。
ミーシャの隣にガタイの良く筋肉質なオネェさんが
ルドルフの横にやたらと肌がツヤツヤした可愛い女の子が座る。
「随分久しぶりねぇミーシャ、ちょっとぉ、前よりイイ男になったんじゃないのぉ?」
「おいやめろ、体を触るな、指を這わすな」
「はぁ~この割れた腹筋たまらないわぁ~シックスパックって言うの? いいわよねぇ~」
「やめろってノル、俺はそっちの趣味はねぇんだよ。
大体お前彼氏いるんだろ? そいつのとこ行けよ」
「あらつれない、酷いと思わないルドルフ?」
「そうよー酷いわよミーシャ、たまには付き合ってあげなさいよー」
ノルに迫られ仰け反るミーシャ、適当に返事をするルドルフ。
「おいルドルフ、他人事だからって適当に返事してるだろ!」
「そんなことないわよー」
「ほら見なさい、ターレもそう思うでしょ? 思うわよね?」
ノルに問われながらもルドルフを見つめ、目を細めるターレ。
「ちょっとルドルフ…」
「な、なによターレ」
「あなた、ちゃんとお肌の手入れしてるの!? こんなにカサカサになっちゃって!
ちょと見てよノル、年頃の女がこれよ! 信じられる!? アタシは信じられな~い!」
「ちょと私の質問聞いてたのターレ! 今大事なところなのよ」
「こっちも大事なことなの、こんなになっちゃって」
ルドルフの顔を掴み頬をガン見するターレ。
「い、いいでしょ別に! ほっときなさいよ!」
「いいわけないでしょ!? あなた今年28歳でしょ、油断しちゃだめよ。
今ちゃんとしとかないと染みになっちゃうんだから! ちょと動くんじゃないわよ」
「うっぷ…」
ルドルフの顔に化粧水を塗りたくるターレ。
「ちょ、ちょっとミーシャ、何とかして…」
「肌は大切だぜー、ターレの言う通りだー」
「適当なこと言うんじゃないわよミーシャ!」
「動くんじゃないわよルドルフ!」
「うっぷ…」
ルドルフの肌がツヤツヤになった。
「お待たせしましたー」
テーブルにお酒が4つ運ばれて来た。
『カンパーイ!』
「「 くぅ~! 」」
「ちょっと、オッサンっぽいわよルドルフ」
「いい飲みっぷりよぉミーシャ」
オッサンっぽいミーシャとルドルフ。
小指を立ててお酒を飲むターレとノル。
「ほっときなさいよターレ」
「あら、構って貰える内が花なのよルドルフ。そんなこと言ってられるのも今の内だけよ」
場末のスナックのママみたいなターレ。
「そんで? どうしたんだノル? なんか聞きに来たんじゃねぇのか?」
「あ~らせっかちなのねミーシャ、もう少し楽しみましょうよ~」
「こら触るな、いいから本題に入れよノル」
「んもう…まぁ聞きたいことはいくつかあるけど、まずは村の調査の結果かしら?
まぁ2回続けて駄目だったから、私達の時と同じだと思うけどぉ」
「それがよ、驚くことに大丈夫だったんだよ」
「うそ!? 本当に?」
「ちょっと本当なのルドルフ?」
「本当よ、怪我人はいたらしいけど死亡者は無し。私達が行った時には村が復興してたわよ」
「ちょっと信じられないんだけど…」
「アタシ達が調査した村は殆ど全滅で、そりゃもう酷い状態だったのよ? 一体何があったのよ?」
目を丸くするノルとターレ。
2人は2回目に襲撃された村を調査していたため、余計に信じられないでいた。
「おまたせしましたー」
『 はーい 』
ターブルに豆と唐揚げとサラダが並ぶ。
さっそく唐揚げを齧るノルとターレ。
「ちょと、詳しく教えなさいよ」
「絶対普通じゃないわよ、ありあえないわよ」
サラダを取り分けるミーシャが説明する。
ルドルフは豆を突いている。
「それがな、光の精霊のレム様が体現されててな、光魔法で救ってくださったんだと」
「うそぉ!? 精霊様が体現されたの? どんな姿だったの? マッチョなの?」
「まぁ、殆ど全裸の筋肉質な青年だな、綺麗な顔の」
「ちょっと、詳しく場所教えなさいよミーシャ」
急に真剣な目になるノル。
「アタシの趣味とは少し違いそうね、綺麗な顔は捨てがたいけど、今回はパスね」
「ターレ…精霊様に失礼よ…」
ターレの好みとは違うらしい。
「落ち込んでたら慰めてあげようと思ったけど、必要なかったみたいねぇ~」
「折角、ルドルフのやけ酒に付き合ってあげようと思ったのに」
「気持ちだけ受け取っとくぜ、ありがとよ」
「別に気持ちだけじゃなくてもいいのよミーシャ、添い寝してあげるわ」
「い、いや気持ちだけ貰っとくわ…ほら、唐揚げ食べろよノル」
迫るノル、反るミーシャ。
「なに? わざわざ慰めに来てくれたわけ? 優しいとこあるじゃない2人共」
「いや、ルドルフはほっとくといつまでも飲むでしょ、頃合い見て辞めさせないとお店が迷惑するのよ」
「慰めるって言うより介護よ」
「はいはい、すいませんねぇ! 店員さーん、果実酒お代わり下さいーい!」
「俺も」
「アタシも」
「私のもお願い」
「お待たせしましたー」
お酒のお代わりが運ばれて来た。
「そういえば、ウルダ近辺で暴れ回ってたモギが討伐されたそうね、あれ、ルドルフ達でしょ」
「凄く大きいって噂になってたわよ、大きくて逞しいって」
「変な言い方するんじゃないわよ、そうよ、私とミーシャと他3人で討伐したの」
「大体40メートルくらいだったか? 30メートルだったか?」
「何それ、大きいぃ」
「凄く、大きいぃ」
独特の言い回しのノルとターレ。
「そんなの討伐しちゃったなら、他の3人もかなりの手練れねぇ」
「アタシ達の知ってる人?」
「1人は知ってるんじゃないかしら? ウルダのギルド長のカルニよ」
「あら有名人じゃな~い、『防御のカルニ』やり手の女ギルド長」
「アタシ達の中じゃ特に有名よ~カルニチン、なんでチン取っちゃったのかしら? 素敵な名前なのに」
「可愛いのにねぇ、私も名前にチン付けようかしら? ノルチン、みたいな?」
「何言ってんのよ、ノルはちゃんとついてるでしょ」
「あらやだぁ、ちょっとやめてよターレ」
「いや、本当に辞めて…」
「俺達も一緒だと思われるからよ…」
キャッキャッとはしゃぐノルとターレ。
肩身の狭いルドルフとミーシャ。
「それで? 後の2人は?」
「バトーとマツモトだ、襲撃されたポッポ村の住人だな、マツモトはちょっと違うけど」
「聞いたことないわね? 強いの?」
首を傾げるターレ。
「ミーシャと同じくらい強いわよ、ウルダの祭りで対決したけど勝負が付かなかったわ」
「最終的には俺が勝ったがな、ジャンケンで。なーっはっはっは!」
「それって剣と盾使う人?」
「そうよ」
「もしかして『金獅子バトー』? 昔有名だった?」
「そうよーよく知ってたわね。 店員さーん豆のお代わりくださーい!」
「はーい!」
1人で豆を食べつくしたルドルフ。
「なに? しってるのノル」
「覚えてないのターレ? ほら、昔よ、私達がダブナルで冒険者してた頃。
ミーシャ、ルドルフ、カルニチン、そしてバトー。
なんかウルダで暴れてる冒険者がいるって噂になってたでしょ」
「いたわねぇ~! 懐かしいわぁ~あの頃ってまだアタシ達男やってた頃よねぇ~」
「そうよぉ~、ターレなんて可愛い顔した男の子で、女に囲まれちゃって」
「ノルだって筋肉モリモリで女に囲まれてたじゃない」
「「 懐かしいわねぇ~ 」」
思い出に花咲くノルとターレ。
「お前らそのままで良かったんじゃねぇか…」
「なんでそうなったのよ…」
「ロックフォール伯爵に出会ってから、自由に生きるって決めたの」
「心のままに生きるって決めたのよ、今のアタシ達って輝いてるわ」
イキイキとしたノルとターレ。
「まぁ、どっちでも構わねぇけどな…強ぇし」
「そうね、でも女より綺麗になるのやめた方がいいわよ、男女共に悲しむ人が増えるから」
「あら、強くて美しい、最高じゃない!」
「アタシ達は美しさに見合った努力をしてるのよ、肌の手入れは欠かさないもの」
美しさの裏には弛まぬ努力と苦悩があるのだ。
「おまたせしましたー追加の豆でーす」
『 はーい! 』
追加の豆を突くルドルフ。
「最後のマツモトってのは誰なのよ?」
「まぁ…男の子ね」
「只の男の子なの? 生きてたの?」
「生きてたな、途中食われたけど出て来た」
「…それ普通なの?」
「「 まぁ… 」」
ルドルフとミーシャの頭の中に松本の記憶が走る。
干からびた松本、瀕死の松本、パンを出す松本、全裸の松本、ニャリモヤに張り付く松本…
「「 まぁ…変なヤツだな(ね)… 」」
「「 そう… 」」
何かを察したノルとターレはそれ以上何も聞かなかった。
「お待たせしましたー」
お酒のお代わりが運ばれて来た。
ノルとターレが飲むお酒を指さすミーシャ。
「ところでよ、さっきから何飲んでんだよ?」
「これのこと? これはね、男が好むビールと、女が好む果実酒を半分で割ったお酒」
説明しながらルドルフとミーシャのお酒を指さすターレ。
「ビールの苦みと果実酒の甘さを併せ持つ、男でも女でもない者達が好むお酒」
「その名も『新世界』。一度味わえば新しい世界の扉が開く、貴方達も試してみる?」
「「 遠慮しときます 」」
酒を含み、怪しい色気を放つ2人。
筋肉質で短髪、化粧に女性の服、彼女の名は『ノルドヴェル』
字名は『槍のノルドヴェル』、元は槍の修練に明け暮れたマッチョなイケメン。
好みのタイプは筋肉質な男。
華奢で長髪、女性よりも美しく肌の手入れに余念がない、彼女の名は『タレンギ』
字名は『水のタレンギ』、元は水の上位魔法を使いこなす魔法使いで爽やかイケメン。
好みのタイプはカワイイ男。
両者共ダブナルで活躍し、王都に移籍したSランク冒険者である。




